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新馬戦2週間前倒しの余波

  • 2012年03月21日(水) 18時00分
 実は今週からPOG関連の取材が始まっている。

 3月19日(月)夕刻に東京から取材陣がここ浦河にもやってきて、翌20日より各育成牧場を回り始めた。例年よりも半月は早い始動である。いったいなぜこんなに早く動き始めているかというと、6月の新馬戦が例年より2週間も早まったことに原因がある。

 JRAは今年の開催日程を大幅に改定し、夏期競馬を日本ダービーの翌週から行うことにした。「2歳競走のさらなる充実と競走馬のより円滑なサイクル形成を図る観点から」第3回東京、第3回阪神より2歳戦が始められることとなったわけである。

 それに伴い、従来5月中旬あたりに発売されていたPOG関連本も、前倒し発売を余儀なくされてしまい、その結果、取材時期も大幅に繰り上げられてついに3月中旬から動き出す異例の早さとなった次第。

 ただし、取材とはいえ相手のあることで、育成牧場の方はやや戸惑い気味でもある。この時期、どうかするとまだ冬毛が伸びていたり、あるいは構内に雪が残っていたりして撮影に適しているとは言い難い。

お馴染みの立ち写真撮りも前倒し

お馴染みの立ち写真撮りも前倒し

 おまけに今週の北海道は、折から発達した低気圧のせいで上空に真冬並みの寒気団が入り、週明けよりほとんど真冬日(最高気温が零度以下)のまま推移するというあいにくのコンディション。震え上がるような寒さの中での強行取材となった。そうしなければ仕事が前に進まないからである。

 総じて競馬関連の紙媒体は苦戦していると伝えられる中、POG関連本だけは、相変わらず堅調らしい。仲間内でお気軽に始められること。それでいて結構スリルを味わえること。それぞれ独自のルールを確立して楽しめること。POG市場? は底辺が広いのである。

 関連本は、周知のようにその年新たにデビュー予定の2歳馬を写真と文章で解説している参考書だ。POGは原則として「デビューからダービーまで」の期間の、それぞれの「指名馬」の獲得賞金を争うのが最もポピュラーなので、関連本もまた例年5月下旬から6月上旬がかき入れ時となる。

 ところが今年の場合、前述したように、2歳戦はダービーの翌週からスタートすることになったため、それに合わせて各媒体は一斉に発売時期を半月程度「前倒し」する必要が生じてきた。最も早い発売を予定しているG誌は、4月30日に競馬場で先行発売するらしく、他誌も概ね連休明けくらいの刊行を目指すという。

 どの馬を指名するか、はPOG愛好者にとって最も悩ましい問題で、最近では社台グループ生産馬のディープインパクト産駒などが人気となるが、当然のことながら、それらは指名が集中してしまうために思うように「取れない」事態にもなる。

 そこで関連本を熟読しては「穴馬」を発掘することに熱中する愛好家も少なくない。今やGIともなると、だいたい社台グループ生産馬たちの独壇場と化すものの、中にはそうした流れに逆らって、渋い指名馬を持ちたがる愛好家が必ずいるようなのだ。

 おそらく、理想的なのは「自分だけが注目していた馬」を指名することだろう。最近ではそうした番狂わせが生まれにくい土壌になりつつあるのだが、GII、GIIIではまだまだ伏兵の台頭が期待できる余地はあり、その部分をどれだけカバーできるかが各媒体の最大の悩みどころだ。

 そのためには「独自の取材」が不可欠となるが、取材を受ける育成牧場の側は、各誌がバラバラにやってくるのを嫌う傾向が強く、このところ「合同取材日」を設定して対応する牧場が増えた。当然である。かくして、どの関連本も、とりわけ大手の育成牧場に関してはなおのこと掲載馬が似通ってしまう結果となる。そうした制約の下、いかに個性を誌面に出せるかが腕の見せどころである。

 今年は新馬前倒しの余波で、産地馬体検査も一気に早まった。開催日程変更は育成牧場にとっても大問題で、総じて調教進度も当然のことながら例年よりも早まっているとのこと。

 2歳戦を充実させたいJRAの思惑はそれなりに理解できるのだが、おかげで現場はかなり振り回されている印象が強い。それだけ馬券売り上げが危機的状況にあるということなのだろうが、その余波はPOGの世界にまで及んでいる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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