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史上最高の売り上げを記録したサマーセール

  • 2023年08月30日(水) 18時00分

5日間を通じて暑さに包まれた「熱い市場」


生産地便り

▲サマーセール会場風景


 今年の北海道は、異例の暑い夏になっており、今もなお残暑が続く。例年だとお盆の頃には秋風が吹き始め、夜には気温が下がって半袖では肌寒く感じるような気候になるが、今年に限っては7月下旬からほぼ本州と変わらない高温多湿の状態がずっと継続していて、8月21日〜25日の5日間にわたり静内の北海道市場で開催された「サマーセール」の期間中も連日大変な猛暑に見舞われた。

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▲北海道市場の撮影場所の気温


 本州からやってきた購買関係者がみな口々に「東京と変わらない」「関西より暑いくらいだ」とこぼすほどの気温の高さ。加えて、5日間とも連日好天に恵まれ、ジリジリと強烈な太陽光線に炙られる中でのセリとなった。間違いなく5日間とも気温は30度を超えていただろう。のみならず湿度も高く、日陰に入っても全く涼しさを感じない。上場する側も購買する側も、そして市場を開設、運営する側にとっても、忘れられない「暑い市場」となったのは確かだ。

 そして、市場の結果もまた、史上最高の売り上げを記録し、5日間を通じて熱気に包まれる「熱い市場」でもあった。

 トータルの数字はすでに既報の通りだが、改めて振り返ると、5日間で1368頭が上場され、1068頭が落札、計75億850万円(税抜き)を売り上げた。上場頭数は前年比131頭増、落札頭数も110頭増、売却率は前年比0.62ポイント増の78.07%。1頭当たりの平均価格も、牡が816万3323円(税抜き)、牝が553万3044円(税抜き)で合わせて703万431円(税抜き)と前年よりも36万4355円(税抜き)の上昇となった。

 セール5日間を通じての最高価格馬は、4日目に上場された1084番バルスピュールの2022(牡鹿毛、父キタサンブラック、母の父チーフベアハート)の5940万円(落札価格5400万円)。販売、生産は(有)小島牧場、飼養者は(株)MAXトレーニングファーム、落札者は秋元竜弥氏。ちなみに当セールにおいて5000万円を超えた取引馬は本馬のみである。

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▲セール5日間を通じての最高価格馬1084番バルスピュールの2022


 また牝馬では、2日目の終了間際に上場された570番ミステールヴェールの2022(父ルヴァンスレーヴ、母の父へニーヒューズ)の2530万円(落札価格2300万円)が最高価格であった。本馬の叔父にはルヴァンスレーヴとともに本年初産駒が1歳を迎え、当セールでも人気の高かったゴールドドリームのいる血統で、いわばダート巧者同士の組み合わせとも言える。

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▲牝馬最高価格馬の570番ミステールヴェールの2022


 連日、上場頭数が260〜280頭に及び、12時開始のせりが午後8時過ぎまでかかる長丁場となった。そのうちほぼ8割が売れたことで、1頭当たりに費やす所要時間も競り合う分だけ長くなり、日没して辺りが真っ暗になってからもまだ数十頭が控えているという状況であった。

 とにかく、大変な売れ行きであった、という印象である。購買者の旺盛な購買意欲を支えていたのは、いくつもの要因があるだろうが、やはり各地の地方競馬が引き続き堅調に推移している点が最も大きいだろう。

 順調な馬券売り上げを背景に、各地の地方競馬では、自前の2歳馬を確保すべく、馬主会単位で1歳馬の購入のための補助金を交付している。今回のサマーセールでは、その効果が昨年以上に現れたと言えそうだ。

 今回のサマーセールで、馬主会名義(その後に個人名がつくが)の購買頭数は、ざっと計算すると、5日間で計221頭に及んだ。内訳は概ね以下のようになる。北海道馬主会16頭、埼玉県馬主会24頭、千葉県馬主会23頭、東京都馬主会22頭、神奈川県馬主協会26頭、岐阜県馬主会7頭、石川県馬主協会14頭、兵庫県馬主協会69頭、佐賀県馬主会21頭。全落札頭数1068頭中222頭がこの各地の地方競馬の馬主会による購買であった。率にして20.8%である。

 前記の牝馬最高価格馬に代表されるように、ダート適性の高い新種牡馬の産駒たちも人気が集まった。ルヴァンスレーヴにゴールドドリーム、ミスターメロディ、モズアスコット等々。そして、実績あるシニスターミニスターやホッコータルマエ、シャンハイボビー、モーニン等の産駒も注目を集めていた。

 なお、購買登録者は1657人に達し、こちらも史上最多となって、会場内は午前8時の比較展示開始時から多くの購買関係者で大混雑であった。放馬も何頭か出て、上場馬を引く牧場スタッフからは「危険だ」「人が多すぎる」という声もずいぶん聞かされた。

 不慣れな購買者(の家族など)が、不用意に展示馬に近づいて触ろうとする場面もあり、ある生産者は「こんな過密状態のままではいずれ大事故が起こるかも」と懸念を口にする。

 加熱し過ぎるがゆえの問題点もいろいろと浮上してきているのは確かである。ある市場関係者は「これだけ売れると、来年はさらにサマーセールへの申し込み頭数が増えるだろうと思う。そうなれば、もう5日間開催で捌ける限度を超えているので、6日間にでもしなければとても対応しきれない。ならば、月曜日から土曜日までの連続開催になるか、さもなくば二週に跨って月〜水の3日間ずつの開催にするか、何らかの方策を講じる必要が出てくるだろう」と話す。

 そして、暑さ対策もまた求められる。来年のサマーセール時の気候がどのようになっているかまでは現時点ではもちろん予測できないが、地球温暖化の進度に鑑みれば、来年以降もこうした本州並みの暑さの中での開催を覚悟しておかねばならないような気がする。だとすれば、もっと涼める場所を用意して熱中症対策を講じる必要も出てくるだろう。

 上場馬の待機馬房では、一斉に扇風機を稼働させたことにより、一時、ブレーカーが落ちるハプニングも発生したという。売れ行きの良好なのは確かに喜ばしい限りだが、それに伴う想定外の新たな問題点もあれこれと浮上してきているのは確かだ。

 最後にもうひとつ。初日21日には、道立静内農高の生産馬ナリタトップスターの2022(幼名・光翔、牡、鹿毛、父ノーブルミッション、母の父ディープインパクト)が203番に登場し、220万円(落札価格200万円)でジャパンアクセスコーポレーションにより落札されたことを付記しておきたい。高校生が育てたサラブレッドとして、静農生産馬は毎年注目されるが、今年は残念ながら一声での落札に終わった。なお、静農では今年、同校の歴史で初めてとなる2頭の生産馬がおり、来年は2頭上場となる予定である。

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▲道立静内農高の生産馬ナリタトップスターの2022上場場面


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▲静内農高生産科学科3年生とナリタトップスターの2022(幼名・光翔)

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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