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『ライブで見た感動を写真を通じて伝えていくのが使命』写真家・久保吉輝さん

  • 2013年02月05日(火) 18時00分
常石 :とってもいいスタジオですね。隣はウインズ心斎橋ですよね。

久保 :そうです。いつでも馬券を買いにいけますよ。競馬好きには最高の立地でしょう。とてもきれいになったしね。

写真家・久保吉輝さん

写真家・久保吉輝さん

小出水画伯の作品

小出水画伯の作品

常石 :今、ギャラリーでどなたかの個展をやってるんですか?

久保 :そうそう。知ってるかな? コイちゃんこと小出水さんの絵の個展です。コイちゃんと言ったら失礼ですね。小出水画伯です。ちょっと見てよ…とビルの外へ。

常石 :わォー、なんですか? (驚きと笑い)

久保 :これ描くのって大変だったんですよ。ビルに足場を組んで小出水画伯が気持ちをこめて描いてくれたんです。

常石 :よく知っていますよ。いつも楽しいですよね。この絵ってビルのイメージアップにつながるんですか? 久保さんのイメージとはかなりギャップがあるように思うのですが? でも、小出水さんは上手ですよね。細いペンで描いているんですか? 絵のアングルが想像もつかない組み合わせだったりするんですよね。発想はユニークで面白いと思います。そんなところが久保さんの写真のアングルとよく似ているように思うんですが。

久保 :いやー、僕は撮りたいように撮っているだけ。コイちゃんは個性と想像性豊かに描かれています。道頓堀のど真ん中、久保ギャラリーがここにあり! って感じかな。(爆笑)

常石 :皆さんも心斎橋のウインズにこられた時は、隣のビルの絵ものぞいてください。そろそろ本題に入って。いつごろから写真家になろうと思われたんですか?

久保 :おやじがカメラ好きでいつも触っていましたね。

常石 :お父様は写真家だったんですか?

久保 :いやいや趣味でね。いつも身近にカメラがあったので、僕も自然とカメラに興味を持って、勉強と言うか遊びと言うかイギリスへ遊学にいったんです。あのころ雑誌関係などいろんな人がイギリスへ行ってましたね。1970年ころかな。

そんな時に、イギリスのニンジンスキーが活躍していたんです。イギリスの競馬場は自然の中で、木があっても木を切らずに丘の形に合わせてコースを作っている感じです。地形に合わせているので全てに関して自然の中っていう感じで。芝もきれいなので、ゴルフ場と同じやと思ってもらったらいいかな。年に2週間くらいしか使わんでしょう。日本とはまったく違いますね。

常石 :ここから競馬が始まったんですね。

久保 :330年くらい前にもう作られていたんだよ。大障害の時はオープンだから、素人も一緒に走るでしょう。多いときは50、60頭くらい走るので、ごちゃごちゃして落馬も多いんですよね。そんなに落ちたらあかんやろと思いますよね

アメリカの競馬は毎日やってるから、競馬場も騎手も盛んになってきているので、いろんな技術や道具も日本にかなり影響を及ぼしていると思う。騎馬民族と農耕民族との違いでしょう。向こうは犬を飼うような感覚で馬を育てていますからね。馬は利口な動物なので、生活に密着していましたね。ヨーロッパの競馬場はきれいだから、一緒に行きましょうよ。凱旋門賞には今年もオルフェーヴルが行くんちゃうの?

常石 :凱旋門賞には是非行ってみたいです。僕の夢は、馬上インタビュアーになることなんですが、(武)豊さんが勝って僕がインタビューするなんて最高ですよね(笑)。実は外国の騎手が勝つと困るんです。英語もフランス後も馬語もしゃべられへんから(爆笑)。

久保 :いやー、馬語は教えられないね。それはいいことですが。でも英語もフランス語も勉強せなあかんのちゃうの?

武さんは、日本の競馬を盛り上げた人やんか。ガラッとイメージを変えて、素晴らしいですやん。尊敬しますよね。人格も技術もセンスも器も大きく、魅力ある人ですね。持って生まれた天才と言うか紳士です。後を引き継ぐ若手が出てきてくれないと競馬も盛り上がってこないかな。アスリートはやっぱり違いますよね。

常石 :ハイ。頼りない僕にも質問にきちんと応えて応援してくれ、いつもお世話になっています。競馬も夢なんですが乗馬でも行ってみたいです。昨年は、ロンドンオリンピックがあったでしょう。僕の知り合いがパラリンピックで乗馬に出場したんですが、レベルが高く相手にならなかったそうです。先日、障害者乗馬全国大会に参加した時にオランダのヨウコウさんという方がデモンストレーションをしてくれたのですが、落雷事故で左手右足を失ってしまい、右手・左足だけでの4分半の競技が、まるでスケートの(浅田)真央ちゃんを見ているようで、流れると言うか素晴らしかったです。

久保 :それはすごいですね。それだけ馬には魅力があり、障害が合っても付き合っていける動物なんです。

ディープインパクトの蹄鉄

ディープインパクトの蹄鉄

1頭1頭の馬の違いに魅力

1頭1頭の馬の違いに魅力

常石 :魅力と言えば、久保さんの写真の撮り方はちょっと違いますよね。スタートの時ゲートの後ろから蹄を撮ったりたてがみだけ撮ったりと、アングルが魅力ですよね。あの情景がかなり印象的なんですが?

久保 :あのシーンでここから始まる情景が浮かんでくる。レースではなく馬の持つ魅力や1頭1頭の馬の違いに魅力を感じ、それぞれの馬のロマンが始まるでしょう…。たてがみが風に乗って揺れるシーンを見て、どんなレースが行われたのか、情景を浮かべたり表現したり創造をする。馬の持つ魅力を感じるのが楽しい。

競走だけで走っているのではなく、ここからの始まりを感じたり、ジョッキーたちも勝って帰ってくるのか負けて帰ってくるのか、ここから想像が広がって行く。競馬と言うより馬の持つ秘めた魅力に気づいて欲しい。競馬の好きな人というより馬好きになって欲しい。4コーナーは馬に一番近い場所で勝負どころだ。馬の鼻息も荒く、騎手の気迫もびしびし伝わってくる。ここから想像がまた大きく広がってくる。

この間春と秋に、京都競馬場のターフィーショップで写真展をしました(これなんですがね、と、古い写真集を見せてくれました)。僕もハイセイコーの名前は知ってるけど、馬を見たことがない。だから喜んでくれると思って。

常石 :わォー。「ハイセイコー」や「カツラノハイセイコ」や「エリモジョージ」も、(福永)ユーイチのお父さんやな。よく似てるな。僕まだ生まれてなかったわ。競馬に入られたきっかけはなんですか?

久保 :イギリスへ行ってからですね。町のあっちこっちにブックメーカーと言って、馬券が買えるところがあったんです。競馬だけではなくドッグレースなどもありましたね。おやじの仕送りだったんですが、何やっても食べていける時代でしたから。

最初はフリーでしたが、優駿で中綴じというのがあって、今の本に変わる時に契約しました。日本中央競馬がJRAと呼び名を変えた時期でもありました。初めは季刊誌だったんですが月刊誌になり、一番古い書籍ですね。あの当時は良い馬もいたし、競馬も面白かったですね。1977年にテンポイントが春の天皇賞を勝った時ですね。

常石 :僕が生まれた歳ですね。シャッターを押すタイミングとかポイントをどう絞っていくんですか?

久保 :馬によりますね。今やったらジェンティルドンナですね。名前の由来は貴婦人ですが、まだ貴婦人違いますやん。血統も一流だし、ここからなるのかこのまま力をキープするのか。走るごとにオーラみたいな物が出てきている感じは、やっぱりアスリートやね。今魅了されています。

常石 :ディープインパクトの時はどんな感じでしたか?

久保 :自らも3冠馬ですが3冠牝馬のお父さんになりましたね。ディープに限らずライブで見たホンまものの感動を、写真と言う映像を通じて伝えていくのが使命だと思う。いろんな形の写真がある。パドックで馬体を表現する映像、走り終えた勇姿を飾る映像、そして僕が伝える「ここから始まる映像」、どれも大切な映像だと思う。馬の好きな人が感じてくれたらいいですやん。人と馬と人馬一体になって真剣勝負するスポーツに、心を伝えていきたい。

ウオッカ(久保吉輝さんご提供)

ウオッカ(久保吉輝さんご提供)

第71回オークス(久保吉輝さんご提供)

第71回オークス(久保吉輝さんご提供)

常石 :最後に馬に対する思い入れはどんなところでしょう?

久保 :社台グループさんによって競馬のレベルが上がり、世界に対しても戦えるようになってきたことはうれしいです。馬の持つボス性や野性味は大事にしながら、環境整備に力を注いでほしいですね。

昨年のジェンティルドンナとヴィルシーナとの対決は、お互いライバルとなって競っているように思う。お互いがいなかったらあんなに強くなっていないかもしれない。お互いが力を出し合える、そんなライバルであってほしい。

競馬を支えるホースマンとして、ギャンブルとして考えるのではなくスポーツとして考えて、映像を瞬間で捉えて行きたい。浅田次郎さんとは古い競馬友達。馬を見に行ったり馬券討議したりと、とにかく競馬好き。浅田次郎さんの活字とコラボし、映像の魅力がひとつ上になるんと違うかな。伝えていきたい。

常石 :今日は貴重な時間をありがとうございました。写真というか映像にはメッセージがあることを教えていただきました。今日の久保さんがシャッターを押す瞬間に僕がいたことに感謝します。ますます久保さんの写真のファンになりました。写真を眺める時、写真の持つメッセージを…想います。

 最後に久保さんがディープインパクトに送った手紙で、今週のツネカツコラムは終わります。[取材:常石勝義/栗東]

◆DEEPへの手紙
「私が、彼を見たのは阪神競馬場の新馬戦でした。それがまさか、ディープへの狂想曲の始まりになろうとは。小さな彼はオールドファンも競馬初心者も、競馬を見たことない人々をも巻き込んで、走り出しました。最初は不安の方が大きかったスタンドのファンも、彼がレースを重ねていく度にそれが期待へと変わり、楽しみへと変わり狂想し始めました。人と動物が作り出すドラマを、小さな彼は自らを楽しむかのように走り、小さな彼のレースに、人々は十分満足しスタンドを去っていきます。いろいろなスポーツがある中で、一頭のサラブレッドが競馬と言うジャンルを超えアーティストとしてうまれました。私は小さな彼の“DEEP IMPACT”狂想曲をずっと聴いていたいと思います」 

写真家 久保吉輝

◆次回予告
次回も常石勝義さんが全力取材! 昨年末はロードカナロアが香港で世界の頂点に。そして、前哨戦の東海Sを制し、フェブラリーSで2つ目のGIを狙うグレープブランデーなど、実力馬目白押しの安田隆行厩舎。安田調教師の実子にして、厩舎の大きなパワーとなっている安田翔伍調教助手を直撃します。公開は2/12(火)18時、お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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