「うるさい」だけで片付けられない気性 ステイゴールドの子は人にこびない/吉田竜作マル秘週報
姉妹を見比べて西園調教師が下した結論は「ステイゴールドの子は人にこびない」だった
モノを話すことができないサラブレッドには“代弁者”の存在が必要になる。かくいう記者もそのくくりの中に入るのだが、なかなか核心を突くような伝え方ができないでいる。「馬には乗ってみよ」って言葉があるくらいで、馬と生活を共にした経験のあるなしは大きな差。現状では関係者の感性に頼るしかない。
例えば「うるさい」と評される馬がいる。受け取る側は「気性が激しいんだな」と思うことだろう。しかし、トレセンに出入りしていると、その「うるさい」も様々だ。調教が嫌で反抗する馬、騎乗者が気に食わなくて落とそうとする馬、音や影におびえて落ち着きをなくす馬、馬具が合わなくて気持ち悪そうにしている馬…うるさくしているのにも様々な要因がある。トレセン関係者にとっては慣れ切った日常だけに「うるさい」でひとくくりにしても問題ないのだろうが、少し言い方を変えるだけで、見方も大きく変わるものだ。
現在、西園厩舎にはラッフォルツァートとベルフラワーという異父姉妹(母コスモベル)が在厩している。グラスワンダーを父に持つ姉ラッフォルツァート(3歳1000万下)は見た目はもちろん、人懐っこい性格も母親にそっくりで、「人を見れば顔を出して甘えてくる。かわいいぬいぐるみみたい」と田中助手が“ベタボレ”。対してステイゴールドを父に持つ妹ベルフラワー(2歳未勝利)は、「ベタベタ甘えてくることはまずないですね。何と言うか、ちょっとピリッとしている感じ」とは担当の松尾助手。姉妹を見比べて西園調教師が下した結論は「ステイゴールドの子は人にこびない」だった。
目からうろこが落ちる思いがしたのは記者だけだろうか。オルフェーヴル、ドリームジャーニー、そしてゴールドシップ。大活躍したステイゴールド産駒はいずれも「うるさい」とされているが、表現を変えれば「人にこびない」だけなのだ。
先月11日の中京芝1600メートル新馬戦を勝ち上がったステイゴールド産駒アドマイヤリード(牝=母ベルアリュールII)を管理する松田博調教師はこんな指摘をする。
「アドマイヤリードは暴風雨の時、牧場で柵を跳び越えたことがあったらしい。やはりステイゴールド(産駒)らしいところもあるんだろう。ただ、うるさいからといって扱いが雑になってはいけない。そういうのをわかったうえで付き合ってやらないと。恐らく自分の世界というものを持っているんだろう。それをうるさいだけで(片付けていて)は何もならんさ」
ステイゴールド産駒がデビューした当初は「父譲りの気の悪さ」などと評され、特に「神経質な馬が多いから牝馬は走らない」とまで言われた。その“孤高な性格”が本当の意味で理解され、厩舎関係者の間に広まりつつあるのは喜ばしい。
ちなみに前出ベルフラワーは土曜(15日)小倉の芝1800メートル未勝利戦に出走予定。「新馬戦(先月25日の中京芝1400メートル3着)は思っていた以上の競馬をしてくれた。使って攻めの動きが変わってきたし、もともと距離はあった方がいいと思っていたくらい。軽い馬場も合うと思います」と松尾助手。父譲りの精神力で、クラシックロードに乗ってほしいものだ。