スタートしてほんの2〜3完歩、好ダッシュの馬とふつうのダッシュの馬に小さな差が生じた瞬間、人気のスリープレスナイトの勝利はもう約束されていた。快速スプリンターがそろった中、一番の、絶好のスタートが同馬だった。
久しぶりに人気の中心馬に乗ってのGIレース。それも断然人気。上村騎手にかかるプレッシャーは大変なものだったと想像されるが、スタートが決まればあとは楽。内の行きたい馬を行かせて好位の外。すぐ目の前には同タイプの上がり馬としてマークしたいビービーガルダン(安藤勝騎手)がいて、抜け出すタイミングも計りやすかった。
決してスプリンター体型というわけではなく、スマートで中肉中背のさして目立たない牝馬に見えてしまうが(実際には500kg近い)、どこにもムダのないバランス抜群の体つきがそう思わせてしまうのだろう。ダート1200mに日本レコードタイの1分09秒1を持ち、芝のGIスプリンターズSも制して1200mは[9-1-0-0]。考えられているよりずっとすごい牝馬なのかもしれない。
とくに目立たない体つきは一族の代表馬アドマイヤムーン(いつのまにか近年を代表するチャンピオンに育っていた)と似たところがある。母はヒシアマゾンの半姉。芝もダートもまったく同じレベルでこなしてみせたクロフネの産駒。「香港の国際レースも、やがてはドバイも視野に入れたい」。陣営のかかげる大きな展望が実を結ぶことを期待したい。
上村騎手と、橋口調教師。ふつう、こういう苦労や人情あふれる結びつきは、伝える人間の脚色によってときに美しい物語になりすぎることもあるけれど、レースが終わって時間がたち、何事もなかったかのように振り返る上村洋行騎手は、少しも躊躇することなく心から祝福の言葉をかけたくなる「男」だった。
キンシャサノキセキは、函館スプリントSで前半32秒台のペースを追走しながら、それでもなだめながらになるほど行きたがる馬。今回は前半が33.6秒。スプリンターズSにしては遅くなったため、スリープレスナイトをマークしつつ、かつなだめて進むことになったが、こちらは勝ち馬とは逆に、もまれる心配はあっても内枠の方がもっとスムーズにタメが利くかもしれない。さらなるパワーアップを期待したい。
ビービーガルダンの0.2秒差は、これはもう強敵相手の経験が少ないキャリアの差だけ。自分でレースを作ることも可能なら、今回のように流れに乗って控えることもできる。強くなったのはこの夏からのこと。たちまちGIで通用したのだから、このあともトップグループの1頭として重賞の常連だろう。
スズカフェニックスは猛然と追い込んで0.3秒差。今回は「33.6=34.4秒」というスプリンターズSにしてはスローにも近い流れ。差しタイプのこの馬には流れが向かなかったのは確かだが、またまた460kgの体は好調時の張りを欠き、GI馬らしい迫力を感じさせなかった。同馬は調整に失敗した昨年もそうだった。
スプリンターズSは秋のシーズン最初に移行してから、夏のオーバーホールとの関係がきわめて難しくなっている。これが敗因のひとつだろう。秋華賞も、菊花賞でも日程が変更されてからは初秋のビッグレースにベストのコンディションにもっていくのは難しい(だから、必ず不本意ながらぶっつけ本番の有力馬が出現する)。
スズカフェニックスは衰えとか、展開ではなく、体質がこの時期のビッグレース向きではないように思えた。カノヤザクラも違った意味でどこをピークの状態に持っていくかが難しいのだろう。快走すると反動が出がち。ひと息いれたあとのセントウルSは良かったが、また今回はカリカリしすぎていた。
ファイングレインもまた体調の変化の大きい馬で、休み明けをひとたたきしたが決して完調でもなかったろう。馬体は迫力十分に映ったが、内枠とはいえこの楽なペースで早々と止まる馬ではない。この時期に移ってのスプリンターズS。ステップはさまざまに分かれるが、GIなのに夏も休むことなく使っていた馬が「過去9年のうち8回まで」、少なくとも連対馬のどちらかにいる。ここがレースの隠れた特徴と思えた。
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