素晴らしいレースだった。もの凄いレースが繰り広げられた。この天皇賞・秋は、日本の競馬史上「最高の名勝負」の一つに加わったことは間違いない。やがていつか伝説の名勝負となり、長く競馬ファンに語り継がれることになるだろう。
勝ったウオッカも、並んでゴールしたダイワスカーレットも、そのあいだにいたディープスカイも、この3頭に追いすがった伏兵までも、みんなが輝いて見えるほど凄いレースだった。ただ大接戦だったというだけではない。最後はウオッカも、ダイワスカーレットも首が上がりかけたが、それでも互いにあきらめなかった。記録はやがては塗り替えられるのだろうが、「1分57秒2」のコースレコード。その中身もまた光っている。
好スタートのダイワスカーレットがレースの主導権を握ることになった。7か月の長期休養明けとあって馬場に先入りするほどテンションが高く、かなり力んでいた。途中でトーセンキャプテンに接近されペースを落とすことができなかったことも重なり、前半1000m通過は「58.7秒」。安藤勝騎手の描いていたペースよりはるかにきつい、息の入れにくい流れだったろう。
しかし、先行型に有力馬のいるこういうメンバーが、もし「59.0=59.0」秒のバランスラップを踏むなら、1分58秒0のレコードに並ぶ記録はさして難しいことではないと考えられていたが、結果としてちょっとムキになったダイワスカーレットは、自身がレコード記録を作りだすための理想のラップを刻むことになった。その結果として大記録が生まれたのだから、わずか2センチ差の2着にとどまったダイワスカーレットには、それは残念な結果ではあっても、改めてその能力の高さを全面的に余すところなく示すレース内容でもあった。前半を58.7秒で先導したスカーレットは、なんと後半1000mをもっと速い58.5秒でまとめてみせたのである。
ウオッカは、ダイワスカーレットが一定の厳しいペースで引っ張ってくれたことにより、最初のうちこそ行きたがる素振りをみせたが、途中から前にいるライバルを見ながら折り合いピタリ。あとはいつ、どこでスパートするかの理想の展開になった。毎日王冠をステップに、今回はそれこそ負けられない究極の仕上がりだった。
ライバルのダイワスカーレットがもの凄い内容のレースを展開させたことにより、ウオッカもまた最大の能力を全面的に爆発することができた。互いに負けられない、かつ絶対に負けたくないライバルが存在することにより、秘める能力がすべて引き出されたのがこの秋の天皇賞なのだろう。最後の1Fは12.6秒。ゴール寸前はウオッカも止まりかけていた。内のダイワスカーレットもバテながら、さらにがんばった。それで写真を最大限に拡大して、求めた差は2センチ。こういうのはたぶん差ではないだろう。
3歳ディープスカイは、一瞬は2頭の間から抜け出そうという微差の3着だった。道中もウオッカより少し前に位置しての快走だから、これは価値がある。3歳馬が途端にレベルアップして強くなるのは、もっと強い古馬と対戦するとき。この敗戦はディープスカイがもっと強くなるための少し苦い薬のようなもので、目標のジャパンCではこれまでのディープスカイとは違うはずだ。
4着カンパニー以下は、秘める能力をすべて引き出されるような流れになったから9着キングストレイルまで、従来のレコード1分58秒0を上回る1分57秒台で乗り切れたのは確かだが、多くの伏兵もみんながんばったからこそ素晴らしいレースが展開されたのは間違いない。かつて、スペシャルウィークの1分58秒0のときも、ヤエノムテキ=メジロアルダンの1分58秒2の年もそうだったが、レコードが塗り替えられるような厳しいレースになるとき、どうしてみんな差のない快時計で食い下がって接戦に持ち込んでみせるのか、2分22秒1のジャパンCでもそうだが、東京のビッグレースは不思議である。
わずかな差が決定的などという冷たい見方をする必要はない。能力を出し切れる条件が整うとき、本当は隠れた才能を秘める馬はいっぱい存在するということだろう。
ただ、レースは一方で、厳しい中身を示すとき、必ず反動や活力の消耗を伴う。天皇賞のグループが予定通り次に進めることを切望したい。
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