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NHKマイルC

  • 2009年05月11日(月) 17時50分
 3歳戦の波乱には、考えられていた力関係がまったく実際のそれとは異なっていたというケースがある。また、成長途上の3歳春とあって体調の変化が大きすぎる場合もある。さらには得意のレース運び(戦法)がまだ不安定なため、位置取りが大きな明暗を分けるケースも珍しくない。今回の難しい結果には、さまざまな要因が重なっているが、もっとも大きかったのは各馬の位置取り(レース展開)と思える。

 ゲットフルマークスが先手を主張し、スランプ脱出のために思い切ったレースをするのはみんな折り込み済み。同馬は自身の前後半「45.5-48.2秒」。1000m通過57.2秒の猛ペースを踏み、結果は失速の12着。これはみんな想定内。

 波乱の最大の要因は、一気に行って飛ばしたこの逃げ馬をみながら、また、当面のライバルを確認しながらの各馬の位置取りだった。伏兵ジョーカプチーノはかなり気楽な立場の先行脚質の挑戦者。折り合いに気をくばりながら、少し離れて追走することになった。

 あくまで結果として残った数字だが、逃げ馬から半マイルで4馬身近く離れて追走し、無理に差を詰めることなく坂上まできて、止まったゲットフルマークスをかわして抜けたジョーカプチーノの前後半は推定「46.2-46.2秒」。それで1分32秒4。まるで教科書に出てくるようなバランスになり、同馬の秘める最大のスピード能力を100パーセント発揮することに成功した。これまでのレースレコード1分32秒5を持っていた2004年キングカメハメハの前後半は、中位から豪快に差し切ったものだが推定バランスは「46.3-46.2秒」=1分32秒5である。また、1990年、当時の東京1600mのレコードを樹立した安田記念のオグリキャップ自身の前後半も「46.2-46.2秒」だったという記録が残されている。

 こういう数字はあくまで結果として生じるもので、計算しながらレースをするわけではないが、ジョーカプチーノ(藤岡康太騎手)の追走した位置はこのレースの場合最高のポジションであり、ジョーカプチーノにはこのバランスラップに乗って、1600mを1分32秒台中盤で乗り切るスピード能力があったということである。残り300m地点あたりにさしかかるまで、藤岡康太騎手はスパートしていない。この日、彼は9レースのスピードタッチでも難しい東京1400mを絶妙のスパートで抜け出している。若い藤岡康太騎手、冴えわたっていたと同時に、持って生まれたスピード感覚に光り輝く面がある。

 ジョーカプチーノのあとは、3コーナー過ぎの半マイル地点で同馬からさらにおよそ8〜9馬身離れてしまった。10馬身近くだったかもしれない。これは離され過ぎだろう。

 3番手の13番人気の伏兵グランプリエンゼル、同じ位置にいたレッドスパーダ、マイネルエルフ、フィフスペトルなどが多少順位を入れ替えただけでそのまま「2〜5着」に入っている。3番手グループの前半800m通過は推定「47.5秒前後」。とてもGIのマイル戦とは思えない先行3〜4番手の馬のペースではあるが、およそ圏外と考えられていたグランプリエンゼル、マイネルエルフなどは能力からしてこれは仕方がない。脈ありのレッドスパーダ、フィフスペトルは結果としてあまりにも大事に乗り過ぎた(後方の人気上位馬を意識しすぎた)ということになる。波乱の壁にもなってしまった。

 分かりやすい1000m通過で見ると、先行3番手のグランプリエンゼルが「58.9秒」、レッドスパーダ、フィフスペトルは「59.0〜59.1秒」だから、これはもうGI格のマイル戦とすると最後方追走グループの数字である。なのに、それより後ろに10数頭も折り合って進んでいた。4コーナーにさしかかる地点、というより中盤の3コーナーを過ぎたあたりで、後方にいたグループはもうレースに参加していなかったに等しい。

 その証拠に、ジョーカプチーノが楽々と抜け出し、先行したレッドスパーダが2番手に上がり、同じ位置にいた13番人気グランプリエンゼルと11番人気マイネルエルフの激しい3着争いが展開されただけで、そのあとから差を詰めてきた馬や、流れが味方せずとはいえまだ脚があったように見えた馬は皆無だった。

 道中で下げ過ぎたのを悟って、突然あわててしまったサンカルロの吉田豊騎手は、チャンスありと考えていただけに誤算の流れ(展開)に動転してしまったのだろう。アイアンルックは、サンカルロ(吉田豊騎手)の乱暴なコース取りを凡走の原因にして非難することもできたが、こういうときの小牧騎手は清い。だいたいあの後方に置かれた時点で上位争いもなにもすでにレースが終わっていたことを分かっていたからである。

 ブレイクランアウトは、中団の外で懸命に折り合っていただけで見せ場もスパートするチャンスもなし。充電してきたものの体つきは寂しく、もともと小さな馬とはいえ2歳時からさして変化していないようにも映った。これでこのあとの展望は「ダービー」となるが、あまりにもふがいない結果のあとだけに、前途には大きな山脈が立ち塞がるだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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