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オークス

  • 2009年05月25日(月) 17時50分
 4コーナーを回って、一度はサクラローズマリーとジェルミナルの間に突っ込もうとしたブエナビスタは、そこが狭くなりかけると改めてその外に出した。桜花賞とは違って明らかにロスを伴う進路変更だった。開けた視界に入ったのは内からスルスルと抜け出そうとしているレッドディザイア以下。残り2F地点、先頭との差はどうみてもまだ約5馬身近く。レッドディザイアとて(結果として)上がり34.2秒で伸びているくらいだから、ブエナビスタの安藤勝己騎手も一瞬「失敗したか」、届かないかもしれない…と覚悟したはずである。レース後の正直なコメントが「とにかく負けなくて良かった。ホッとしている」だった。もちろん負けなくて良かった…とは自分のことではなく、ブエナビスタ自身の置かれた立場や、これから先を考えてのことである。

 2分26秒1(レース上がり3F34.8秒)で決着した今年のオークス。ブエナビスタの残した記録はきわめて変則の数字を伴っている。逃げたヴィーヴァヴォドカの前半1200m通過は「1分13秒5」。そこから約4馬身離れてデリキットピース、さらにまた約4馬身離れてディアジーナ以下の一団。そのあとの集団の隊列の後方、シンガリから2番手のインにいたブエナビスタの前半1200m通過は「1分17秒0前後」になる。再生ビデオで確認してもこれは誤差の小さい推定タイムである。

 とすると、ブエナビスタの後半1200mは「1分09秒0前後」になる。前後半1200mずつの差がなんと約「8秒」にもなる。あまりにもアンバランスすぎて、あくまでブエナビスタ自身のことだが、ほとんど(まともな)レースらしいレースをしていないのではないのか。つまり、2400mを2分26秒1でレッドディザイアをハナだけ差し切ったブエナビスタだが、前半はほとんど歩くようなペースで追走し、本気で走ったのは後半の1200mだけだったのか? とも考えられるのである。

 超スローの2400mレースでは、レース全体がこういうアンバランスになることも珍しくない。また、3歳春の日本馬として驚異の2分23秒3でダービーを独走したディープインパクトは、あの時計で乗り切りながら、実は自身の後半の1200mはやっぱり「1分09秒0前後」だったという記録もある。だから、ブエナビスタの後半1200m1分09秒0前後は必ずしも珍しい数字ではないが、未完成なこの時期のオークスの勝ち馬の記録としては「特異すぎる」ことだけは確かである。

 安藤勝己騎手の「負け(させ)なくて良かった」。松田博資調教師の「疲れたわ〜」のコメントは、物足りなくて危ないレース後の実感であると同時に、逆にブエナビスタの秘める可能性はもっとずっと大きく、さらに広がるものであることを示唆している。見ていたファンにしてからが、ゴール寸前の攻防に興奮したと同時に、ブエナビスタがもう少し上手なレース運びを覚えたなら、もっと楽に勝てたのではないかと体感した。

 展望する秋の凱旋門賞で、どんなレースをしてくれるだろうか。果たして通用するだろうか。それはまだ4か月も後のこと。だれもなんとも言えないが、遠征して挑戦する価値は確かにある。挑戦の意義もきわめて大きい。もういまから大きな楽しみができた。

 惜敗したレッドディザイア(四位騎手)は、巧みにレースの流れを利し、コース選択もなにもかも非の打ちどころなし。桜花賞時よりまたひと回り成長、進歩していた。陣営には慰めにもならないが、相手の勝ち馬が強すぎた。もう自在のレース運びができる。同じ桜花賞で接戦のジェルミナルには決定的とも思える3馬身の差をつけた。ブエナビスタが予定通りにフランスに行くなら、こちらは秋華賞がほぼ約束されている。

 ディアジーナはこのペースもあって終始ラク。鞍上の内田博幸騎手も「4コーナーを回ってもまだ楽だった」というぐらいだから、2400mは長いのだろう。まだ成長するとしてもベストはヤマニンメルベイユ(父メジロマックイーン)などと同じように1800m級なのかもしれない。この流れ(ペース)を考えると、5着ディアジーナからさらに2馬身半離されて失速のグループは、こと芝の長丁場に限ればではあるが、また1から再出発という力関係になるのは仕方がない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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