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安田記念

  • 2009年06月08日(月) 17時50分
 昨年に続き「安田記念」2連覇を達成したウオッカ(父タニノギムレット)は5歳春のいま、これまでより一段とたくましく、かつ、鋭くなったのではないか。改めてその能力をもっと高いものに再認識したくなる勝ち方を示した。と同時に、広がる可能性がまだまだあるのではないのか? 陣営はまず、当初は必ずしも予定してはいなかった「宝塚記念」出走に前向きな姿勢を示すことになった。

 それだけではない。あくまでレース直後の、気分の高揚した中での陣営の展望ではあるが、秋の目標は必ずしも当初の天皇賞・秋、ジャパンCに限定されるものでもなく、さらにはこの秋で引退(予定)というには大きな心残りまで生じたかのようでもある。改めて揺り動かされる果てしなく広がる展望(野望)は、これまでと同じ発想や視点がベースでは平凡すぎるだろう。限界もある。そのことはわたしたちでさえ理解できる。

 繁殖入りの時期を選ぶこと。それはそれで大切なことであるが、それこそが決まり切ったことでもある。オーナーにもトレーナーにも長年の日本のホースマンの夢の数々が蓄積され、山のように重なっている。これだけの牝馬、果たすべき使命と与えられた役割は、果たして「これまでの牝馬のそれと同じであっていいのだろうか」。挑戦の姿勢はやっぱり捨ててはならないのではないか? ドバイ遠征を2度も経験し、成功ではなかった。でも、それでも改めて挑戦者に立ち返る時間はまだ許されているのではないのだろうか。新しい近未来展望がまた沸いてきたかのようだった。

 ウオッカのここまでの勝ち方は、前年の安田記念も、前走のヴィクトリアマイルも、秋の天皇賞にしてもその時点の能力を発揮し、相手を上回ったというだけで、だから負けるときは案外に単調な負け方で「敗れてなお強し」はなかった印象がある。

 今回の安田記念は、これまでのウオッカにとってなら非常に苦しいポジションだったろう。直線、前が詰まったところで怒って2度ばかり首を振りかけた。あまり慌てたように見せなかった武豊騎手はそれはもう見事なものだが、ウオッカ自身も自分で我慢し、自ら開いたスペースを探そうとするかのような自制の瞬間があった。

 ああいうふうに前が詰まったりすると逆にエネルギー蓄積の絶妙の間が生じて、そのあと爆発することがある。とは言われるが、それは相手が弱いときのことで、隣のディープスカイがスパートして抜け出しかけ、ファリダットが割って鋭く伸び、大外からカンパニーが伸びている時の待ち時間だった。100mばかりの間に、ストライドを変えすべてを逆転したのだからすごい。これまでのウオッカより、また一段と強かった。

 巧みに開いたスペースに進出し、一歩早く抜け出しかけたディープスカイが「勝った」と見えた瞬間もあった。四位騎手は土曜の夕方、レースが終了してみんながいなくなった後、改めてひとりで馬場を歩いてチェックしながらイメージを重ねていた。外に回る予定のコース確認なのかと見ていたら、四位騎手が長く凝視していたのは内寄りの芝だけ。枠順もあり、ウオッカをマークしながらあそこを衝いて抜け出したのは作戦通り、描いたイメージ通りだったのだろう。

 ゴール寸前まで打倒ウオッカに成功したと思えただけに、ディープスカイにとっては残念。力の差を感じるきわめて痛い敗戦だった。でも、こちらは最初から安田記念のあと「宝塚記念」を予定していた。ウオッカが参戦してくるなら、今度は2200mで再び倒さなければならない相手と対決のチャンスが生まれることになる。ウオッカの展望が広がるなら、若いディープスカイの描くこれからの路線こそ、もっと大きな未来に向けたものでありたい。

 まだ1600mでは足りないのではないかと思えたファリダット(安藤勝己騎手)の小差3着は素晴らしい。1600mで約1秒前後の馬場差があったと思えたこの日、この馬場にしては超ハイペースの流れを最後方から追走の展開、読み通りの作戦的中の利はあった。だから、ツボにはまったのは確かなのだが、それでもあわやの瞬間さえあったから底力アップの成長は間違いない。もうGIレベルである。

 大外に回ったのはカンパニー。半ばツボにはまって作戦大成功とも思えたが、8歳のいま、不足を補うにはあと0.5秒くらい時計のかかる馬場の方が良かったのだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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