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宝塚記念

  • 2009年06月29日(月) 17時50分
 年度末のグランプリ「有馬記念」を制する馬も、夏のグランプリレース「宝塚記念」を勝つ馬も、多くのビッグネームの中でもっともタフで、一番頼りになるエースであることが珍しくない。あと一歩及ばずのビッグレースのあと、さらに闘志をかきたて、一段と調子を上げ、最後にすべてのライバルを倒して勝利をものにする馬こそ、歴史の中でもっとも望ましい「チャンピオン」であるだろう。

 ドリームジャーニー(父ステイゴールド、母の父メジロマックイーン)は、とくに休みらしい休養をとることなく、この1年ちょっとの間に10戦以上も戦ってきた。秋の天皇賞にも有馬記念にも挑戦している。今年に入っても他のエース格より多く出走しここが5戦目。3200mの天皇賞・春にも挑戦して3着だった。ローテーションというなら、ディープスカイやサクラメガワンダーよりもっと厳しい挑戦の連続だった。

 ところが、ディープスカイもサクラメガワンダーもそれは素晴らしい状態だったが、3200mの天皇賞のあとさらに調子を上げたように研ぎ澄まされた馬体を示していたのが、一番小さなドリームジャーニー。小柄な馬体から繰り出すストライドはあくまで鋭く、かつ力強かった。

 阪神の内回り2200m、良馬場、当面のライバルがすぐ前に位置して目標を絞れる絶好の展開。また、飛ばす形になったコスモバルク以外は、2番手のスクリーンヒーローの位置で前半1000m通過60.5秒(推定)のスローに近い平均的な流れ。以下の有力馬はそのあとほぼ一団。だからきわめて楽に追走できた。短い直線でこその爆発力を発揮するに理想の条件がすべてそろったのは確かだが、この相手を差し切って決定的な1.3/4馬身差。この宝塚記念は完勝といっていい。

 父ステイゴールドとまったく同じで、一応のベストが420kg台の小柄なドリームジャーニーは、おそらくこのあともチャンピオンというより「渋い大関」の評価だろう。計8勝となったが、これまで1番人気に支持されたことはたった3回だけ(勝ったのは08年朝日CCのみ)。

 悪いことに秋のビッグレースが連続する東京コースにはこれまで良績がまったくといっていいほどない。そこで、早くも秋の最終目標を12月の香港の国際競走に設定という陣営の展望が生じたりするのだが、本当にステイゴールドやメジロマックイーンの良さを受け継いでいるのなら、まだこれからもっと強くなる可能性はある。

 6歳サクラメガワンダーもそれこそ素晴らしい状態で、いまこそ本物を思わせた。GIでの連対はこれが初めて。ドリームジャーニーと同じでこの宝塚記念はことごとくの好走条件がそろっていた。流れに乗り、他の有力馬より一歩早くスパートして全能力発揮に出る作戦も予定通りだった。

 ドリームジャーニーの切れにはあっさりかわされてしまったが、ディープスカイの追撃は封じてみせた。クラシック候補とされたのは05年の秋のこと。文字通り「遅まきながら…」であり、この秋さらにスケールアップとなるとそれは懐疑的にならざるをえないが、あと4か月後の天皇賞・秋に、絶対の有力馬がいるわけではない。ウオッカとて、もう2回も3回もピークを迎えたあとの5歳秋の牝馬。またこの秋も「絶好調」に立ち返る約束はない。そして今回、ディープスカイに先着してみせたのだから、相手関係を考えての自信は生じる。

 そのディープスカイだが、追い切りも当日の気配も満点に近く思えた。1コーナー過ぎからバックストレッチの中間にかけて、やや行きたがったあたり、この馬に関しては1600mの「安田記念」後というローテーションが正解とはならなかったとはいえるが、それは小さな要素だろう。

 3歳限定のレース以外、実はまだ1つも勝った記録がない。08年ジャパンCの2着は光るが、あれはジャパンCとしては必ずしもレベルは高くない(事実、2分25秒6)とされた。悪いことに勝ったスクリーンヒーローもこの宝塚記念、案外の内容にとどまっているから、結果として08年ジャパンCのレベル疑問の声に反撃できなかったことになった。

 そのスクリーンヒーローは昨秋に比べると明らかに見劣る状態だったから、ジャパンCのレベルうんぬんはまた別のこととも考えたいが、ディープスカイの評価に非常に怪しい部分が生じたのは事実。ほとんど不安なしと思えたここで着差以上の完敗だったから、甘んじて受け入れなければならない評価下落である。まだ若く、今回の相手がしたたかすぎたとはいえる。精神面でもまだタフではないかもしれない。秋のビッグレースに向けて、鍛え直して再スタートしたい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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