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連休総決算

  • 2002年05月08日(水) 00時00分
 このところほぼ毎日、馬運車で種付けか診療所通いである。毎年のことだが、大型連休はこの仕事を始めてから一度も縁がないままだ。

 私だけではなく、生産者全員が多分そうだと思う。今日も同年輩の同業者が「子供にどこかへ連れて行ってくれと言われたので、種付けに連れて行った。帰りにコンビニでお菓子を買ってやって、それで連休の家族サービスはおしまい。可哀想だが仕方ない。」と言っていた。どこの牧場もまぁこんなものである。

 ところで、今年の連休に生産地の話題となったのは、静内の桜満開もそうだが、何と言っても、浦河の国道236号線で発生した多重衝突事故だ。たまたま私宅に泊りがけで遊びに来ていた東京の競馬ファンが事故直後に現場を通りかかり、すぐ携帯電話でその模様を知らせてくれた。

 その事故とは、直進していたワゴン車(家族4人乗車、父親38歳、母親31歳、3歳と1歳の子供)を追い越したRV車(夫婦2人、運転者は夫61歳無職)が、追い越し後に自分の車線に戻ったもののあいにくの雨により路面が濡れていて、滑ったか何かで道路左側のガードレールに接触し、その弾みで対向車線にはみ出し、前から来た大型トレーラーと正面衝突した、というもの。

 ところが、トレーラーの運転手も衝突する寸前に急ブレーキをかけていたため、いわゆる「ジャックナイフ現象」が起きて、後ろに牽引していた荷台部分が前に押し出される形となって横転し、追い越されたワゴン車の前部を直撃してしまった。

 トレーラーがコンテナで運んでいたのは重量18トンもの牛の飼料だったという。その下敷きになったワゴン車は、幼子を残して父親と母親だけが死亡してしまった。横倒しになったコンテナがワゴン車の運転席と助手席だけを押しつぶしたからである。一方のRV車は、トレーラーと正面衝突したものの、こちらは皮肉にも一命を取りとめた。この町では滅多にない大事故となってしまった。

 事故原因の究明は、まだRV車の運転手が回復していないため本格的には行われていないそうだが、いずれにしても、そもそもの原因はRV車の無理な追い越しにあるのは疑いない。現場は、牧場地帯を走る国道の見通しの良い直線で発生した。馬運車で日常的に国道を走る私たちにとっては、とても他人事とは思えない不幸な事故である。

 一般に馬運車と言っても、レース輸送などで使う大型から、私たち生産牧場が所有している2トンや4トンのトラックまで様々だが、スピードが遅いという点では共通している。馬を乗せているのだから、当然急ブレーキや急ハンドルは絶対避けなければならないわけで、私たちはみんな馬運車の時だけは安全運転を心がけるのだ。

 ところが、その鈍重な運転ぶりが一般の車からは許し難いものに映るらしい。今までに私自身も、何度か本当に危ない場面に遭遇した。無理に私を追い越した乗用車が対向車と衝突しそうになったのを見たこともある。上り坂で後方からけたたましくクラクションを鳴らされたこともある。「トロトロ走るな、ばか野郎」と言いたげなドライバーが多いのだ。

 幸いに、まだ事故に巻き込まれたことはないが、いつどこでどんな目に遭うか分からないということを改めて認識させられたのが、今回の浦河の多重衝突事故だったと思う。

 幼子を残して亡くなった夫婦は、首都圏から新規就農したイチゴ農家だったという。雨が降ったので農作業を休み、静内の桜を見物するために道東の士幌町から走ってくる途中で事故に遭ったそうだ。そう言えば私にも、同じように雨の日を利用して家族を乗せてこの道を帯広まで走って1日だけ家族サービスに出かけたことがあったのを思い出して、やりきれない気持ちになった。合掌。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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