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オークス

  • 2011年05月23日(月) 18時00分
 良馬場発表ながら、レース直前から激しさを増した雨によって滑りやすくタフな芝に変化した2400m。ピュアブリーゼ(柴田善臣騎手)がクラシックにふさわしい厳しいペースで先導したことにより、いかにも東京2400mのオークスらしい「スタミナと総合力」が求められる結果が導き出されることになった。

 ピュアブリーゼの作った流れは前後半に2分すると「1分12秒9−1分12秒8」=2分25秒7。2009年のオークスレコード2分25秒3とわずか「0秒4差」。本来のオークスらしいペースを自ら演出したピュアブリーゼは、勝ち馬とタイム差なしの「クビ」差2着に粘り、結果、人気の桜花賞1〜2着馬を「4〜3着」に沈めることになったのだから価値がある。

 「フローラS」2000mでは絶好の手ごたえで坂上まで来ながら、G寸前に鋭さ負けしたピュアブリーゼ(父モンズーンは、ドイツの守る伝統のブランドフォード直系の種牡馬)。いきなり脱線するが、マンハッタンカフェ、ブエナビスタ一族の大活躍で脚光を浴びるドイツ血脈はいま、昨年のダービー馬エイシンフラッシュの母の父プラティニ。今年のケンタッキーダービー馬アニマルキングダムの母の父アカテナンゴなど、ふんだんに登場することとなった。

 そのピュアブリーゼの持ち味を最大限に引き出した柴田善臣騎手は、テン乗りながら同馬の特質(スタミナは十分ある)を見抜いていた。最外18番枠から出て、他馬に楽をさせない厳しいバランスラップを作ったからさすがである。柴田善騎手はときにクラシックでも(アドマイヤメインの日本ダービーなど)、興味をそぐ超スローを演出したりするから勝ち切れないでいるが、今回のオークスはまさに勝ったに等しい傑出の内容である。今回のように「肉を切らせて…」のレースもいとわぬ戦法を、もし自身が受け入れるなら、(記録的な連敗を更新中ではあるが)クラシック制覇などたちまち可能と思える。

 エリンコート(父デュランダル)は、ピュアブリーゼと同じく桜花賞に出走していないグループの代表格。1800m→2000mで連勝してきた中距離OKの適性をフルに発揮することに成功した。置かれることなく中団で流れに乗り、前のグループに標準を定めたかのように強気にスパート。坂上で隣のスピードリッパーにぶつかる場面(馬場が暗くなったので点灯された照明を気にしたという)もあって審議の対象となったが、前に入ったのではなく横からぶつかったものだけに、ぎりぎりセーフだったか。

 父デュランダル(その父サンデーサイレンス)の競走成績や体型イメージからすると距離に死角はあったが、あれだけ極端なレースを展開させてマイルCSを差し切ってしまったから、少なくともデュランダルは「決定的にスタミナ不足のスプリンター系やマイラー型にとどまる馬ではなかった」という見方もあった。エリンコートの場合は母方にスタミナ色が濃く、その特性がうまく引き出されたのだろう。渋り気味の馬場を考慮すれば、事実上のオークスレコードにも相当する時計で抜け出したのだから見事である。

 ホエールキャプチャ(父クロフネ)は痛恨の出負け。落ち着き払った素晴らしいデキで、無駄を削ぎ落としたかのようなシャープな馬体も目を引いた。しかし、スローで展開してくれなかったから(どこにも13秒台のハロンなし)、少しずつ順位を上げることに成功したことが逆に、スタミナのロスにつながってしまった。「クビ、ハナ」差まで前の2頭を追い詰めたから、勝ったにも等しい中身ある敗戦とはいえるが、厳しい立場からすると、あそこまで来て写真で屈するあたりがこの馬の決定的な「弱み」でもある。もちろんスタミナ型ではない死角も重なったが、父クロフネ産駒のビッグレースでの物足りなさを、秋にはホエールキャプチャが覆さなくてはいけない。

 桜花賞馬マルセリーナ(父ディープインパクト)は、初の長距離輸送も克服してホエールキャプチャとともに、落ち着き十分。目立つ好気配だった。スタートも珍しくうまくいって、最初は10番手くらいを楽に追走できそうなムードだったが、意識的に下げてしまった。結果的に、これが第一の敗因と考えられるが、この厳しいペースだから安藤勝己騎手の感覚は「間違ってはいなかった」ともいえる。伏兵ハブルバブルなど、ピュアプリーゼ以外の先行馬はみんな大きく失速している。後方に下げて、4コーナー手前から大外に回って……、マルセリーナはしかし、ブエナビスタ級ではなかったのでる。桜花賞で「思っていたよりはるかに切れた、素晴らしい」と回顧した安藤勝己騎手。でも、最初に思っていたのが正解だったわけで、マルセリーナを、安藤勝己騎手も、私たち(そうはうまくいかないことを予感しつつ)も、すこし買いかぶりすぎたのは事実だろう。しかし、これは雨のオークスでの結果にすぎず、ホエールキャプチャとともに秋に巻き返したい。

 桜花賞で築かれた3歳牝馬の勢力図は、厳しい内容になった東京2400mではそのままではありえなかった。これは事実である。桜花賞とオークス(ダービー)の結果が同じようになってもいいが、ブエナビスタや、ウオッカや、アパパネ級はそうそういるものではいない。また、結果が同じであっては全体の層が薄いことの裏返しにも通ずるから、変化していいのである。

 バウンシーチューンはチャカチャカして気負いすぎていた。グルヴェイグはやがて素晴らしい馬に育つのだろうが、現時点では厳しいレースの経験不足のためいかにも頼りなかった。マイネイサベルは春に余計なレースがひとつ多かった気がする。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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