スマートフォン版へ

競走馬誤射事件の波紋

  • 2002年11月11日(月) 20時13分
 すでに周知のことと思うが、去る11月6日早朝、北海道・三石の牧場で、狩猟のために茨城県より来ていたハンターたちにより、競走馬が鹿と間違えられてライフル銃で射殺されるという痛ましい事件が発生した。

 被害に遭ったのは中村畜産という牧場。社長の中村和夫氏は競走馬の仲介業者としても知られ、かのハギノカムイオーも半分所有していたほどの人である。牧場は数箇所あるが、今回被害に遭ったのは三石町歌笛にある分場で、そこには当時1歳牝馬が昼夜放牧されていたという。

 毎朝6時過ぎに近くのSさんという農家の人が馬たちに飼葉をつける仕事を請け負っており、6日朝もいつも通りに牧場へ行ってみて馬が倒れているのを発見したとのことだ。

 一方のハンターたちは、三人組で遠く茨城県竜ヶ崎市からフェリーに乗って北海道にやってきた狩猟のベテランだったという。銃の所持はまず散弾銃から始まり、10年経過しなければライフルに移行できない。狩猟歴20年の知人によれば、散弾銃とライフルでは、車に喩えると軽自動車と外車くらいの性能(つまりは射程距離や殺傷能力)の違いがあるという。散弾銃が50メートル離れたところから鹿を撃っても当たり所が良くなければ殺傷できないのに比べて、ライフルは射程がおよそ300〜500メートルといわれている。しかもスコープで狙いをつけて発砲するので、急所に当たれば一発で鹿を倒すことが可能なのだそうである。

 ところでこのハンターたちは、狩猟が11月1日に解禁となるのと同時に、日高へやってきたようだ。そして、聞くところによれば昨年もやはり日高で鹿猟を行っており、まったく現地の情報に疎かったとは思えない。未確認だが、誤射事件現場とそれほど離れていないところに彼らの親しくしている地元のハンターも住んでいるとの話も聞いた。

 それならば、なおのこと、いくら何でも馬と鹿を見間違えて発砲するような過ちを犯すことなど普通では考えられないのだが…。

 事件発生は繰り返すが6日午前5時40分頃という。まだ日の出前の暗い時間帯のことである。しかもハンターたちは、道路上から車に乗ったまま発砲している。この時点ですでに三重の違反を犯していることになる。たとえ鹿を撃ち倒したとしても、かなり悪質な違反行為があったものと言わざるを得ない。

 この稿を書くために、今日現場を見に行ってきた。道路は片側一車線の普通の舗装道路だ。幅数メートルほどの小川を挟んだ向いに一角6ヘクタールの放牧地が広がり、背後は山林である。鹿が出て来るようなポイントかも知れないが、当然小川に沿って牧柵が設けられているので、馬の放牧地であることは一目瞭然なのだ。おまけに、周囲には人家もあり、とても猟銃を勝手に発砲できるようなロケーションではない。

 「こんな時間帯(つまり早朝というか未明)に馬を放牧しているとは思わなかった」というのがハンターたちの供述だったと聞くが、これは何ら言い訳になっていない。三人のハンターのうち二人で合計7発の弾丸を発射しているというので、暗がりの中で、黒いシルエットが瞬間的に鹿に見え、思わず続けざまに引き金を引いてしまったということか。
 そして発砲してからおそらく、すぐ鹿ではなく馬だった、と気付いたということだろう。

 被害金額は報道によれば、7000万円とも7500万円とも言われているが、今回の事件は、とにかく牧場側には何一つ過失や落ち度が見当たらないだけに、ハンターたちが後は責任を持って弁済と謝罪をしなければならない。あまりにも大きな代償である。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング