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武豊騎手24年連続GI制覇なるか

  • 2011年12月10日(土) 12時00分
 12月11日(日)の阪神JFには、ある大記録がかかっている。サウンドオブハートの手綱をとる武豊騎手の24年連続JRA・GI制覇、である。年内に残っているGIはこれと朝日杯FSと有馬記念の3戦のみ。朝日杯と有馬での騎乗馬はまだ決まっていないようなので、この一戦がラストチャンスになるかもしれない。

 デビュー2年目、1988年の菊花賞をスーパークリークで勝ってから昨年まで23年つづいているこの記録。今年途切れたイチロー選手の連続200本安打(MLBで10年)記録同様、もしここでストップしたとしても、数十年、あるいは永久に更新されない可能性もあるスーパーレコードである。

 できれば阪神JFか、朝日杯、有馬のどれか(まあ全部でもいいのだが)で達成してほしいが、もし獲りそこねたとしても、今年から東京大賞典が国際GIに格付けされるので、そこをスマートファルコンで勝てば「連続GI勝利記録」はつながることになる。しかし、今年(以降)の東京大賞典をGIとしてカウントするとなると、92年に国際GIになったジャパンCや2001年に認められた宝塚記念など一部のレース以外は、日本がパート1国になった2007年以降のGIしか「本当のGI」ではないという面倒くさいことになる。まあ、「国際セリ名簿基準委員会がなんぼのもんじゃい」と知らないふりをして、「GIはGIだ」とカウントしてしまう手もなくはないが、やはり、「JRA・GI連続勝利」をつづけてほしい。

 12月4日終了時点で武騎手は今年61勝。125勝でトップの岩田康誠騎手や122勝の福永祐一騎手に大きく水をあけられている。1月の騎乗停止などが響いてリズムに乗り切れず、ここまで来てしまった感がある。

 輝かしい実績を持つアスリートほど、成績がちょっと伸びなくなっただけでいろいろなことを言われるものだ。テレビのMLB中継で解説をしている大島康徳氏がイチロー選手の動態視力が落ちたとかいろいろ言っていたが、また来年200本安打を達成したらなんと言うのだろう。きっと手のひらを返すのだろうが、世間というのはそういうものだ。今年三冠ジョッキーになった池添謙一騎手が12月4日終了時で56勝、トランセンドで内外で腕をふるっている藤田伸二騎手が58勝だ。武騎手は彼ら以上に勝っているのに、2003〜05年まで3年連続200勝以上した実績があるから物足りなく思われるのだろう。もうひとつそう思われる要因は、やはり、まだ今年GI勝利がないことか。

 私は、またすぐ彼が年間150勝とか、それ以上勝つようになると思っている。

 これまで彼が乗っていた馬が外国人騎手の手にわたってしまったことも、GIから遠ざかっている一因であることは確かだ。が、2年ほど前に始まった外国人騎手偏重時代は今がピークで、そう長くつづかないと思う。5戦、6戦……いや、もっと長く、年の単位で外国人騎手への乗り替わりが多くなった馬とそうでなかった馬とを比較した答えが出れば、また状況が変わってくるはずだ。そのうち、きっと揺り戻しが来る。馬主や調教師サイドからも、また騎手サイドからも、乗り替わりを極力少なくするのがよし、という風潮になっていくだろう。

 外国人騎手が多く参戦するようになって日本人騎手の緊張感が高まったのはいいことだと思う。しかし、一部には「日本以外ならどの国の騎手でもいい」と思っているかに見受けられる乗り替わりもあり、競馬の大きな魅力である「人と馬とがつながる物語」という部分が薄れてしまっている。これがファン離れを加速させていることは確かで、やがて日本=賞金大国という前提が崩れかねない(そう警鐘を鳴らす有力オーナーもいる)。

 さて、ほかの騎手に参考にされるとまずいから書かないと約束しているのだが、武騎手は、

 ――え、馬に乗りながらそんなことをしているの!?

 と初めて聞いたとき驚嘆させられた「ある操作」をしながら競馬をしている。かつて岡部幸雄氏の年間138勝が壁になっていたのに、95年ごろから急に勝ち鞍が増えたのはなぜかと質問したとき、その操作をするようになってから馬をさらに動かせるようになった、という答えが返ってきたのだった。

 それがどんなことかは、彼が引退してからお宅に寄稿します、と、以前「Number」の編集者と約束した(武騎手は還暦まで乗りたいと言っているから、ずいぶん先のことになりそうだが)。今教えろと言われそうだが、おそらく、いや、確実に競走馬総合研究所の研究対象になると思う。以前雑誌に書いた「コーナーで『ストライドロス』をなくす乗り方」や「前があくまで手綱を引っ張りながら追う技術」「ハミの支点をつくらずに追うこと」などとは別(どこかでリンクしているのだろうが)のことである。

 話は変わるが、騎手時代、毎年一緒にアメリカに行っていた千田輝彦調教師が、11月27日にJRA初勝利と2勝目を挙げ、12月3日に3勝目をマークした。

 初勝利を挙げる少し前、栗東トレセンで久しぶりに会って話をした。
「調教師になると、人前で『チー坊』なんて呼べなくなるね」

 と私が言うと、
「うん、よくそう言われる」
「やっぱりなあ」
「でも、そう言っておきながら、みんな『チー坊』って呼ぶよ」

 と笑顔を見せた。

 それでもやはり「チー坊」では失礼だから、かつてのニックネームを生かすとしたら、新ニックネームは「チーテキ」だろうか。

 チーテキが管理するピースキーパーが、本稿がアップされる12月10日の阪神メイン、ベテルギウスSに出走する。鞍上は武豊騎手だ。「がんばれ馬券」を買って、応援したい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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