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共同通信杯

  • 2012年02月13日(月) 18時00分
【お知らせ】
月曜18時公開の柏木集保『重賞レース回顧』の次回更新は3月5日(月)になります。2月20日(月)、2月27日(月)分は休載となりますので、あらかじめご了承の程よろしくお願い致します。
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 注目のディープブリランテ(父ディープインパクト)は、本音をいえばハナを切って自分でレースを先導する形は取りたくなかったろう。だが、休養明けとあって、馬場に出たあたりからややテンションが上がっていたこと。なにより他に主導権を主張してくれるような先行スピードを持つ相手が不在だったこと。ハナを切らざるを得ない展開も最初から予測したうえで、岩田康誠騎手、覚悟のレース運びと思えた。断然の人気である。ムリに引いて下げたり、出負けなど、試走の許される立場ではない。

 自分でレースを先導する形は、予測された通りのスロー(今回の前半1000m通過は12秒台のラップを重ねての62秒6)なら、あくまで一般的ではあるが、自身が相手よりランクが上であれば決して悪い戦法ではない。レベルの低い組み合わせでは、邪魔されない先行策こそ「必勝形」である。2009年のロジユニヴァースは、あそこでは負けないために、「弥生賞」は自身で主導権をにぎって逃げ切っている。たとえは古いが、あまり早めに先頭に立つのを良しとしなかった岡部幸雄騎手でさえ、最強を証明するための手段として、シンボリルドルフの2回の有馬記念ではいつもよりずっと早く自分で先頭に立ち、あえて「さあ来い!」の形を取った。絶対、負けないために。

 テンポイント、トウショウボーイの有馬記念など、自分が目標になるマイナスなどきわめて次元の低い観点とし、ともに最初から先頭を譲ろうとしなかった。まあ、3歳と古馬の違いもあれば、身につけたい戦法(脚質)のこともある。相手の目標になるハナに立つ戦法を好まない流儀もある。たしかにヨーロッパの多くのビッグレースでは、レースを先導するのは格下馬の役目でもある。

 やむをえずハナに立って自分でレースを作る形となったディープブリランテは、4コーナー手前から自身でピッチを上げた。残り3ハロンを、自身は「10秒9-11秒0-12秒0」=33秒9で乗り切った。相手が弱ければ押し切っていただろう。事実、4番人気のストローハット(父フジキセキ)以下の伏兵は、追いすがったにとどまった。

 最後に追い詰めたのは、衆目一致のライバルとみられた2番人気のゴールドシップと、3番人気のスピルバーグ。ここはかなり重要な視点と思える。この2頭のレベルは予想された以上に高かった。残り1ハロンで苦しくなったディープブリランテ。最後12秒0。慣れない形が良くなかったか、休み明けで多少とも余裕の残る仕上げが応えたか(これはこの時期みんな当たり前)、あきらかにストライドが鈍り、追撃のゴールドシップ(父ステイゴールド)にあっさり差し切られてしまった。

 最初から気合をつけて好位のイン3番手を確保したゴールドシップは、道中、約3馬身前に先導のディープブリランテがいる絶好の展開。自身の1000m通過は63秒1前後(推定)のスロー。あとは直線でディープブリランテを交わせるかどうかだけである。

 ゴールドシップの後半600mは推定「10秒9-10秒9-11秒5」=33秒3。最後の1ハロンで約1馬身半あったディープとの差を逆転、逆に1馬身4分の3差をつけてみせた。相手の脚さばきが鈍ったのが半分、追っての味で上回った鋭さが50%。これが最後の1ハロン11秒5と、12秒0の差と思える。

 今回のゴールドシップは、それまでやや寸詰まりにも映った2歳時の体型から、中間の意欲的な乗り込みで、体つきのバランスが良くなったように見えた。仕掛けて瞬時にエンジン全開になるのではなく、トップギアのもうひとつ上がありそうにも映る息の長い末脚が、東京コースの長い直線にぴったりだったのだろう。祖母の父プルラリズム(その父ザミンストレル)、3代母の父トライバルチーフ(その父プリンスリーギフト)。伝統の名牝系(大きなファミリーの伝説の代表馬はハクチカラ)出身とはいえ、2〜3代前に配された種牡馬はあまりビッグレース向きとはいえないが、だいたいステイゴールド産駒は現代のトップをいく注目牝系とはちょっと距離を置くところから逸材を送り出すのが真価。東京の1800mでこの末脚がつかえるなら、3歳春の時点で距離延長に対する不安は心配しなくていい。ディープブリランテが失速したから差し切ったのではなく、息の長い末脚で上回った可能性の方が高い。少なくともランキング互角となった。

 スピルバーグ(父ディープインパクト)は、道中ゴールドシップを2〜3馬身前におく位置取り。直線、なかなかエンジン全開とならず、猛然と伸びたのはゴール寸前になってからだった。あきらめずに伸びた点は高く評価できるが、この「ハナ差」は大きい。次にまた出走権確保の近道になる路線のレースに挑戦するのか、一歩引いて500万条件から出直すのか、いま2月。まだ(もう)2月。どこを目標とするのか、陣営の判断はむずかしくなった。

 人気で2着に沈んだディープブリランテの評価は、明らかにワンランク下がるだろう。だが、心配のあった高速上がりのレースには対応できた。かかって行ったわけでもない。ゴールドシップとは互角の「候補ランキング」になったのではないかと思われる。陣営、目標のGIの前にどこを使うのだろう。ただ、つらいのは、2000m級のレースはみんな絵に描いたようなスローになるのが、ごく一般的になっていることである。

 今回の逃げて負けたレースは「最悪の形だった」という辛い見解は、たしかにディープブリランテの未来展望として成立する。では、3〜4番手に折り合って進んだと仮定して、「ゴールドシップとの追い比べで勝てたのか」。否も、肯定も、だれにも不可能である。もっと負けた危険も否定できない。だいたい、結果の出てしまったレースの位置取りや戦法に対する回帰の仮定は、レースの結果はどこまで行っても物事の過程であるとしてさえ、およそ無意味である。このことはファンの方がずっと良く知っている。クラシック路線、今年もまた、どんどん、ますます楽しくなってきそうである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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