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ペリエ騎手も愛用!『世界が認めた日本の技』馬具職人・内海雅之

  • 2012年12月04日(火) 18時00分
 今回ご紹介する競馬の職人は、美浦トレーニングセンターすぐの場所にお店を構える、馬具職人の内海雅之さん。長い年月を掛けて培われた匠の技と、日本人ならではの細やかなデザインで作られる内海さんの馬具は、日本の騎手のみならず海外でも高く評価されています。普段はあまり知られざる馬具について、たっぷりとお聞きしました。

馬具職人・内海雅之さん

馬具職人・内海雅之さん

赤見 :内海さんが作る鞍は、海外にも輸出してるんですよね?

内海 :「輸出というか、前にペリエジョッキーが日本によく来てた頃に気に入ってくれたんだよ。ちょうどその頃、軽い鞍を作ろうと研究してたから。体重制限のあるジョッキーにとっては、鞍の重さは死活問題だからね」

赤見 :軽いって、何kgくらいですか?

内海 :「鞍だけで150g。これに鐙と鐙皮がつくからもう少し重くなるけどね」

赤見 :150g?! いま主流の鞍は1kgですから、それに比べるとめちゃくちゃ軽いですね。なんかウチワみたい、風で飛んでっちゃいそう。

内海 :「ウチワって(笑)。さすがにここまで軽いとどうしても壊れやすいんだけど、どうすれば丈夫で軽い鞍が作れるか試行錯誤したんだよ。

ペリエ騎手が気に入ってくれてヨーロッパでも使ったら、他の騎手からも欲しい欲しいって言ってもらうようになって。外国のジョッキーは背も高いし、体重が重い人が多いから」

150gの鞍(上の黒)と1kgの鞍(下の茶)

150gの鞍(上の黒)と1kgの鞍(下の茶)

赤見 :日本のジョッキーでここまで小さい鞍を使ってる人ってなかなか見ないですよね。

内海 :「それはさ、鞍を見ただけで関係者なら体重が重いか軽いかわかっちゃうでしょ? こんな小さい鞍使ってたら、「お前体重重いんだな」ってみんなに言われるから、ある程度自分で調整して1kgの鞍を使う人が多いよね。乗りやすさや慣れの問題もあると思うけど。日本の騎手も、51kgとか軽い斤量の時は鞍を替える人いるでしょ。

それでもやっぱり外国の騎手の方がガタイのいい人が多いから、軽い鞍は人気あるよ。100gの世界じやなくて、10gの世界だからね。1kgなんてとんでもない」

赤見 :凄い細かい世界ですね。前は鞍の形がいまとは違ったじゃないですか。膝の所に当たるアオリ皮が細長く前に突き出してる形で。デビューした頃、あの形はカッコ悪いなと思ってたんです(笑)。

内海 :「それはヨーロッパ系の鞍だったんだけど、あの細長いアオリ皮がパタパタなって邪魔だなってことになったんだよ。ちょうど岡部幸雄さんがアメリカで鞍を買ってきたので、それを分解して研究させてもらったの」

赤見 :岡部さんの鞍、分解しちゃったんですか?!

店内には馬具がいっぱい

店内には馬具がいっぱい

内海 :「そう(笑)。そのおかげで、ヨーロッパとアメリカの中間くらいのいまのデザインが出来上がって。ソメス(北海道にある馬具メーカー)とも協力して生産していたら、いつの間にか日本の主流になってたね」

赤見 :いまのカッコいい形は、岡部さんのおかげなんですね。鞍はもちろんですが、内海さんが作るステッキも凄いですよね。ジョッキーの好みに合わせて長さとしなり具合を調節してくれるじゃないですか。

内海 :「うちの使ったら他の使えないでしょ! ステッキはジョッキーによって本当に好みが違うからね。ペリエ騎手は65cmと短かめで、かなり硬くてグリップが2倍くらい太いの。よくうちに来て試し打ちしてたけど、腕自体をしならせて打つからステッキがしなるとタイミングが狂うんだろうね。逆に(蛯名)正義はグニャグニャするくらい柔らかいのが好き。もの凄くしなるのを上手に使って打つんだよね。体型や乗り方によって打ち方も全然違うから、それぞれのジョッキーの希望をなるべく忠実に再現してるつもり。

ステッキもだんだんと主流が変わってきて、いまヨーロッパでは打つ部分にクッションが入ってないとダメなの。あと、前は打つ部分の下にギザギザの飾りみたいなのを付けてたけど、持ち替える時にタテガミに絡まったり 、他の馬の尻尾に絡まったりするからいつの間にかなくなったな。馬具も流行りがあるし、少しでも使いやすいものをって、しょっちゅうジョッキーと話して研究してるね」

ミシンと手縫いで1つ1つ作られる馬具

ミシンと手縫いで1つ1つ作られる馬具

赤見 :馬具を作っていて、一番嬉しいのはどんな時ですか?

内海 :「それはうちの馬具を使ってレースを勝った時! 今年の凱旋門賞の時もペリエ騎手が鞍を使ってくれてて、よく見たら鞍下に敷いてある鉛皮もうちのだったから。

レースでは鞍とか馬具ばっかり見ちゃうよね。うちの馬具だけじゃなくてもどんなもの使ってるのか興味があるし、新しいものがあったら研究して取り入れたいから」

赤見 :馬具以外で扱っているものってありますか?

内海 :「重賞や大きなレースを勝った時に、記念に作るジャンパーなんかを頼まれたりするね。デザインを任せてくれる人もいるし、もの凄くこだわりがある人もいて面白いよ。この前はどうしても気に入る青がなくて、色を染める所から作ったから。青って言っても、濃い青、薄い青、暗い青、水色、紺…と、本当にいろいろあるからね。

調教用のヘルメットひとつ取っても、こだわる人はこだわるよ〜。上についてるボンボンだって、手縫いだよ。馬具は馬とのコミュニケーションの道具でもあるし、人馬の命を守るものでもあるし、自分をアピールするものでもあるからね」

赤見 :今後の夢はなんですか?

内海 :「ちょっと現実離れしてるけど…夢はエルメスみたいになること。エルメスももとは馬具屋から始まってるし、いまでも馬のデザインがいっぱいあるでしょ」

赤見 :ぜひ叶えて下さいよ!! まずは馬蹄のネックレス作って下さい!

内海 :「え〜ネックレス?! 誰が買うの?」

赤見 :わたしです! 競馬女子は買いますよ。値段にもよりますけど(汗)。

内海 :「う〜ん、まあ考えとく(笑)」

世界のホースマンに信頼されている内海馬具店。いつか競馬女子の瞳がキラキラになるような、素敵な商品を作ってくれることを待ってます!![取材:赤見千尋/美浦]

◆次回予告
今年も早くも12月に突入。競馬開催最終週にはグランプリ有馬記念のほか、冬の競馬の風物詩・中山大障害が控えています。そこで次回の競馬の職人は、昨年の覇者マジェスティバイオなど数々の障害馬を調教している那須トレーニングファームに常石勝義さんが潜入。シドニーオリンピックにも出場された廣田竜馬さんを直撃します。公開は12/11(火)18時、お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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