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新・降着失格ルールの全容!わかりやすくなった新基準

  • 2012年12月18日(火) 18時00分
今年のJCも長い審議が行われたが…

今年のJCも長い審議が行われたが…

 来年1月1日より、降着・失格の判断基準が新しくなります。ここまで大幅なルール変更は、平成3年の降着制度導入以来、22年ぶりのこと。ファンにとっても関係者にとっても、とても重要な競馬のルール。現在さまざまなメディアを通して伝えられていますが、その内容を私なりにまとめてみました。

【国際化が生んだルール変更】
 JRAに取材したところによると、今回のルール変更については、今から5年前の平成19年から始まった国際競馬統括機関連盟(IFHA)の「競走ルールの調和に関する委員会」にて、競走ルール調和・統一に向けた話し合いが行われたことから始まりました。

 そもそも、サッカー・ゴルフ・テニスなどの国際的なメジャースポーツは、基本的にどこの国でも同じルールでプレイしているのに、競馬は国によっても土地によっても様々なルールが存在しています。IFHAの会議の場で、その様々なルールを検証した結果、降着の判断基準に関しては大きく2つのグループに分かれることがわかりました。

カテゴリー1
走行妨害がなければ、被害馬は加害馬に先着できたと裁決委員が判断した場合、加害馬を被害馬の後ろに降着とする。
イギリス、アイルランド、オーストラリア、香港、韓国、マカオ、ニュージーランド、シンガポール、南アフリカ、UAEなど

カテゴリー2
加害馬の違反行為が被害馬の能力発揮に影響を与えたと裁決委員が判断した場合、加害馬を被害馬の後ろに降着とする。
フランス、ドイツ、アメリカ、南アメリカ、日本
※日本以外は、降着とする対象を賞金交付着順に限定

 今回の降着のルール変更は、カテゴリー2からカテゴリー1へ、というものです。これまでは、妨害された馬が何着であろうとも、「妨害があった!」ということが判断されれば加害馬は降着になりましたが、これからは「妨害がなければ妨害した馬に先着していた!」と判断されなければ降着にはなりません。

ブエナビスタが降着となった10年のJC

ブエナビスタが降着となった10年のJC

 GIで1位入線しながら降着となった3頭の馬たちを例に挙げてみると、1991年天皇賞・秋のメジロマックイーンは後続馬に6馬身もの差をつけてゴールしており、「妨害されなければマックイーンに先着した!」と主張するのはちょっと難しそう。

 2006年エリザベス女王杯のカワカミプリンセスも直線突き抜けてゴールしており、被害馬が勝っていたと主張するのはこちらも難しそうです。

 さらに記憶に新しい2010年ジャパンCのブエナビスタに至っても、ゴール前の被害馬との脚色の違いを見たら、ブエナに勝っていたとは言いづらい。カテゴリー1に変更すると、おそらくこの3件は降着にならなそうです。

【ラフプレーは許さない】
 そうなってくると気になるのが、「勝つためならば!」とギリギリのラインを越えて来る騎手もいたりして。なんだか妨害されてしまった被害馬側にとって、「やられ損」な気がしてしまいます。

 しかし! カテゴリー1に変更しても変わらないのが、騎手への制裁。先ほどの3件のGIでも、馬に対する降着がないので一見すると処分がないように感じてしまいますが、騎手に対する騎乗停止などの制裁に関しては、変わらず重い処分が科せられます。JRAへの取材によると、今後はさらに厳重に制裁を科すそうで、特にGIやグレードレースなど大きな注目を集める場面での違反行為は、「競馬を背負う責任」としても重く追及するとのこと。

 さらにもう1つ気になるのが、「妨害がなかったら、妨害した馬に先着していたはず!」と主張するためには、ゴールに近い場所で影響を受けた後に接戦を演じていないとダメなのではないか? ということです。例えばスタート直後のアクシデントなどは判断が難しいのではないか? ならば、前半なら妨害しても許されるのではないか? と、ついつい騎手の抜け道を考えてしまう私ですが…。

 これに関しても、キッチリ「NO!」の答えを頂きました。降着という面に関して言えば、確かにこれまでと比べて激減するでしょう。しかし、制裁という面においてはさっきも書いた通り、これまで以上に厳正に処分されるのです。馬が降着にならないからといって、騎手も処分されないわけじゃないんですからね。

【失格はレアキャラに】
 降着と併せて、失格のルールも新しくなります。走行妨害によって被害馬が落馬すると、イコール失格となった現行ルールから、

1.極めて悪質で、他の騎手や馬への危険な行為
2.競走に重大な支障を生じさせた場合

 という上記の2つの条件を満たした場合に失格になります。これまでの事例を考えると、不注意騎乗により結果的に落馬したケースも多く、新しい判断基準になると失格になることはほとんどなくなるようです。

 さらに、審議ランプの運用方法も変わります。

 5位までに入線した馬の着順を変更する可能性がある場合に審議ランプを点灯する

 ということで、その他にもいくつか点灯するケースがありますが、基本的にレース中はほとんど点灯しないようです。なんだか、審議のランプが点灯しないと全く審議が行われていないような気がしてしまいますが、「6位以下の馬たち」も「5位以上で着順変更までは至らない」事例でも、きちんと審議は行われるのです!

【よりよい競馬のために】
 来年から変更が行われるわけですが、これまでと大きく違う判断を運用していくのは簡単なことではありません。裁決委員など裁決に関わる方々は、1年掛けて運用に向けたシュミレーションをしていたそうです。開催中は現行のルールに従って裁決し、開催後の平日にもう一度レースを見直して新たなルールに照らして検証する。何度も何度も時間を掛けてレースを共有することで、裁決委員の判断も統一され、大きな変更にも無理なく対応出来る体制が整いました。

 地方競馬も、来年4月からJRAと同じ判断基準に変更するよう準備を進めているし、カテゴリー2に属する国々もカテゴリー1への変更を検討をしているなど、新たなルールの考え方が国際的にもトレンドになっています。

 シンプルで分かりやすくなった新ルールのもと、競走馬たちジョッキーたちが、さらに白熱したパフォーマンスを見せてくれることを期待します! [取材:赤見千尋/美浦]

◆次回予告
次回は年内最後の更新。ゲストは栗東の松田国英調教師です。クロフネやキングカメハメハなど多くのGI馬を輩出してきた、言わずと知れた名門厩舎。今週は、ウオッカの好敵手ダイワスカーレットの初仔がデビューを迎えるなど、期待が高まります。松田国英流の馬作りに常石勝義さんが迫ります。公開は12/25(火)18時、お見逃しなく。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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