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コーナーの魔術師・田辺裕信の騎乗論

  • 2013年02月19日(火) 18時00分
 昨年末に300勝を達成し、今年に入ってからも快進撃が続く田辺裕信騎手。昨年からは主戦場を中央場所に移し、新たな挑戦を始めた今、ジョッキーとしての騎乗論をお聞きしました。

コーナーの魔術師・田辺裕信

コーナーの魔術師・田辺裕信

赤見 :主戦場をローカルから中央場所に移したことは大きいんじゃないですか? それであれだけ勝てたというのも凄いと思いますけど。

田辺「そうですね。その環境の違いは大きかったです。僕としては数字よりも、ライトな競馬ファン、例えば土日の3時くらいからしか競馬を見ない方でも見てもらえる競馬場で乗りたいというのがあったんで。中央場所は神聖というか。その分、やっぱり甘くないですよね。上手いジョッキーいっぱいいるし、もちろんその人たちにいい馬が回るし」

赤見 :一昨年以前と比べると、騎乗する馬の質はかなり上がっているんじゃないですか?

田辺「全然上がりました。やっぱり、馬走らないと勝てないし。その分というか、あんまりこう…インでジッとしてることが出来なくなりましたね。納得してもらえる競馬をしなきゃいけないっていうのが出て来たんで。まぁね、好位付けて外回ってって、それは誰でも出来ると思うんですけど、そういう競馬が増えちゃいました。内で詰まったりしたら、どういう風に見られるかとか。次乗せてもらえないと結局意味ないんで。人気でイン詰まって負けたら、一番悔しいですもんね。ファンも関係者も」

赤見 :田辺騎手といえば、中団から差す、インを突いて差すイメージが強いんですけど。

田辺「それはね、ローカルの時はよくやってました。バンバン逃げる人いたし、ガッツだけで頑張っちゃう人いたし、けっこう4コーナー辺りから集団がバラバラになったりして、楽にさばけたりしてたんですけど。中央場所はそういう人あんまりいないんで、インにジッとしてて詰まるパターンが増えました」

赤見 :特に人気馬に乗ってると、マークきついんじゃないですか?

田辺「そうなんですよ! だからね、内にいるのはあんまりいいことではないんです。リスクがおっきいんでね。スタートしてまず人気馬の動きを見て、その馬より前につけるか、その馬の近くにつけるか考えて。走らない馬の後ろに付けるのは絶対避けたい。それでも走らない馬の後ろに付く場合があるので、そういう時は一か八か、最短ルート。ロスなく行くことを考えます。

レース中は人の癖をよく見るという

レース中は人の癖をよく見るという

人気馬を見ながらだったら、途中まで人気馬を見ながら行って、あんまり楽に走ってるようなら早めに突っつきに行ったりする。人気馬が自分より後ろにいる時は、とりあえずはけっこう我慢しようと思いますね。よーいドンてなった時に、機械じゃないから、1秒も2秒も違う馬ってなかなかいないんですよ。それで差されたら、その馬が強かったんで。

あとは人の癖をかなり見てます。例えば、誰々は直線に向くとガムシャラになり過ぎてフラつくとか、絶対外出すとか、走る馬乗ってるとか、左回りのコーナーなのに左手でムチ持ってるってことは内にモタれるんだろうなとか。ずっと見てますよ。4コーナーで見たんじゃ遅いし、必ずしもその馬の後ろにいるわけじゃないから。

4コーナーは、自分の前の人の動きと逆を行くんですよ。逃げてる馬がいて、その後ろにいる人が前をどうさばくか考えてるじゃないですか。その人が外を狙おうとしてたら、徐々に外に張って来るんで、僕は内を狙う。だけど、腹くくって内しか狙ってなかったら、もうその人は動かないんでね、そうしたら僕は早めに動いて外出します。…って、こんなマニアックな話でいいんですか(笑)?」

赤見 :もちろんです! すごい考えてるんですね。

田辺「意外と考えてるんですよ(笑)。大切にしてることは、ポジションと折り合いですね。追う追わないはね、結局あまり関係ないような気がするんですよ」

赤見 :4コーナーまで楽してたら馬伸びますもんね。

田辺「そうそうそう、位置取りと、雰囲気。同じ中団にいるとしても、前に走らない馬がいるのか、前に人気馬がいるのかで違うから。開くかもしれない所と、そこじゃ詰まるだろって見ててもわかる所にいるのと(笑)。ただ、見てる方は上から見てるから見やすいけど、僕らは前しか見えないから、なかなかねぇ(苦笑)」

赤見 :逃げてる馬の息遣いとかは、中団にいたらわかんないじゃないですか。

田辺「それはもう新聞とかで情報収集するしかない。4コーナーまで持ってくれれば、ある程度ばらけるんで、4コーナーまで持ってくれる馬が逃げてて、内開いてたら迷わず内行きますよ、僕は。ただ、3コーナー辺りでタレてこられると困るんですよね…。それが一番ダメ、内開いてても行っちゃいけないパターン」

赤見 :あの絶妙なコーナリングはどうやって覚えたんですか?

田辺「あのコーナリングっていうのがわかんないですけど(笑)。何にもしてないですよ。開いてるから入って、開いてるから外出すんです。多分ね、いい時しか見られてないんですよ。勝つ時目立つから。詰まらないわけではないです。昔走らない馬ばっかり乗ってたからインにずっといたんですよ。それで、着を拾うってセコイ考えをしてただけです」

赤見 :いや〜、インは難しいですって。久保田貴士調教師からもなるべく内でって言われたって聞きましたけど。

田辺「久保田先生はね、詰まっても怒んないんですよ。馬をぶんなげるというか、行きたがるのをポーンと手綱くれて行かせちゃうと怒りますけどね。それだと次に繋がらないので。詰まって負けても怒んないで、『次いいな』って言ってくれる。

久保田先生には、乗馬の基本的な考えも教わりました。僕、乗馬と競馬の繋がりがいまいちピンと来てなかったんです。なんで乗馬やって、その後に競走乗るんだろうって。乗馬は大人しいからかなとか思ってたんですけど。

例えば、外方手綱内方手綱とか、半減却とか、そういう乗馬の基礎のことがレース中に生かせれば、直線の伸びっていうのがちょっと違うんじゃないかなって思います。コーナーで内にモタれる馬は、一般の人は外引っ張ればいいと思うじゃないですか。でもそれを内から押し手綱で外に持って行くとかね。直線向いた時に手綱をプラーンとして向かうんじゃなく、障害向かう手前の時みたいに、脚では行けの合図をして、上ではまだ我慢の合図をして、馬の体全体で弓を引いている状態にする。その状態を作れるのが理想ですね。

あと、よく耳を見て馬の気持ちがわかるって言うけど、僕はハミ受けで感じてます。全部の馬とか人の動きとか見てんのに、耳なんか見てられないですよ。だってメンコ着けてる馬はどうすんのって話。ハミから伝わる手の感じで、入れ込んでる、ちょっとムキになってるとか、フワフワしててハミの取りが弱い、気が散ってるなとか、そういうの。そこが馬とジョッキーの、一番の接点だと思うので」

赤見 :では、今年の抱負を教えて下さい。

普段はお茶目!な田辺騎手

普段はお茶目!な田辺騎手

田辺「怪我なくっていうのが一番ですね。休まなかっただけで、去年もなかったわけじゃないんで。ゲートの中で馬の頭でバンてなっちゃって、歯が3本折れたし…。肋骨にひび入った時もあったし…。だから、怪我はやっぱりイヤですね。あと、ルールが厳しくなったから、騎乗停止は気を付けないと」

赤見 :ジョッキーから見たら、新ルールは厳しくなったって感じます?

田辺「だって騎乗停止6日って、僕経験したことないですもん。3週間も競馬乗らなかったらちょっとドキドキしますよ、その後レースで。新ルールだからって特に意識はしてないですけど、去年も制裁点あんまりなかったんで、今年も同じようにフェアプレイ精神でいきたいです」[取材:赤見千尋/美浦]

◆次回予告
2月18日(月)にJRAの事務所で行われた平成25年度新規調教師への免許交付式。中でも注目の顔が、ダービージョッキー・石橋守騎手です。次回の「競馬の職人」では、騎手としてラストを迎える石橋騎手を常石勝義さんが直撃。メイショウサムソンのことから今後の夢まで、ぐいぐい迫ります。公開は2/26(火)18時、ご期待ください!

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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