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すべての始まり!競走馬誕生の神秘

  • 2013年03月19日(火) 18時00分
 いよいよ春本番の陽気となり、生産牧場にとって最も大切な『お産』の時期がやって来ました。約20年競馬に携わっているわたしですが、まだお産を見たことがない…ということで、行ってきました北海道!!! しかし…。予定日に合わせて2泊3日の日程でしたが、出産時期が遅れて見ることが出来ませんでした。なかなか計画通りには行かないんだそう。人間の想像を超える神秘、『お産』について、オオエライジン&エンジェルツイート兄妹を生産した、伏木田牧場専務の伏木田修さんにお聞きしました!

伏木田修さん、ファインモーションのぬいぐるみと

伏木田修さん、ファインモーションのぬいぐるみと

赤見 :今の時期は一番忙しいんじゃないですか?

伏木田「そうですね。3月4月はけっこう忙しいです。お産も集中しているし、お産が終わった馬には種付けもありますからね。馬の状態にもよりますけど、基本的にはお産から、3〜4週間で種付けすることが多いです」

赤見 :お母さん馬は大忙しですね。お産が近くなると、どんな状態になるんですか?

伏木田「一応予定日はあるんですけど、たいがいズレますね。母馬のおっぱいが張ってきて、乳が漏れてヤニみたいに塊が付くと、もう近いです。その日か、次の日には生まれます。たいがい夜に生まれるので、そうなったらうちはお産馬房に入れて、カメラで見てます。ソファで寝て、1時間置きぐらいにモニターで馬の様子をチェックするんです。これが何日も続くとさすがに疲れますね。寒いとあんまり生まれないんで、暖かくなった時に一気に何頭も生まれたりするんです」

赤見 :いざお産が始まると?

伏木田「馬房の中でグルグル回りだしたり、汗をかいて体から湯気が出ていたらお産開始のサイン。馬房に行って見守ります。基本的にはお産は自然なものなので、馬に任せます。破水して、だんだんと羊水の袋が出てくるので、そうしたら仔馬の前脚と頭から出て来てるか確認します。もし後ろ脚から出て来てたら、馬の場合は絶対に出て来られないんですよ。だからすぐに診療所に運びます。

 正常な姿勢だったら、変に引っ張ったりしないで自然に出てくるのを待ちますね。もちろん、いろいろなパターンがあって、引っ張らないといけない時もありますけど、無理をすると母馬の子宮が傷ついたり、仔馬がガタガタになったりするので、なるべく自然な形で生まれることを心がけています」

生まれたばかりのウォータールルド全弟

生まれたばかりのウォータールルド全弟

赤見 :お産開始からどのくらいで生まれるんですか?

伏木田「だいたい一時間くらいですね。生まれてすぐはヘソの緒が繋がっていて、ドクンドクンと脈打って栄養を送っているんです。だから無理に切ったりはしません。母馬が立ち上がると自然に切れますから。大事なのは後産で、羊水の袋が残っているのでそれが全部出たか確認します。もし破片が残っていると、死んでしまうこともあるので。

 仔馬の方は、一時間くらいで立ち上がって、だいたいは本能で母馬のお乳を飲むんですよ。馬の本能ってすごいですよ。教えなくても自分で感じて動きますから。この『初乳』がすごく大事でね。これを飲まないと免疫が出来ないんです。母馬のお乳は、一週間くらい経ったらただの乳でしかないけど、最初の頃のものは特別なんですよ。牧場によっては初乳を凍らせて取ってあるところもありますね。どの馬の初乳を飲ませても効果は一緒なので。

 高齢な母馬だと血管が切れやすくて死んでしまうリスクが高くなるし、中にはお乳を飲もうとすると嫌がる母馬もいるんです。そういう時は乳母を付けます。乳母はたいがいサラブレッドじゃなく、ハーフリンガーなどが多いですね」

赤見 :流産してしまったり、死産になったり…と、お産には大きなリスクが付き物なんですね。

オオエライジンの母フシミアイドル

オオエライジンの母フシミアイドル

伏木田「そうなんですよ。うちもエンジェルツイートが重賞を勝ってくれた次の日に、母馬のフシミアイドルが流産してしまって…。嬉しいことと辛いことがいっぺんに来ました。その後フシミアイドルは3年不受胎だったんですけど、去年ディープスカイの仔を受胎することが出来て、今年の5月に生まれる予定です。とにかく無事に生まれて来て欲しいですね。

 種付けしても受胎する確率は100%じゃないし、受胎出来たとしても無事に生まれて来れるのは8割くらいじゃないですかね。無事に生まれることが出来て、そこからいろいろありながらも成長して、育成牧場に行ってトレセンに入って…。僕ら生産牧場からするとね、競馬場に行ってゲートインして、走ってる姿を見たら…、もうそれだけで感動ですよ。よくここまで育ってくれたなって。もちろん、強い馬を作りたいと思っているし、大きいレースを勝ってくれたら嬉しいですけど。でも無事にデビュー出来たら、もうすごいことですよ」

赤見 :本当にそうですよね。それでは、生産牧場の視点でファンのみなさんにメッセージをいただけますか。

伏木田「僕も競馬が大好きですけど、ファンの方って本当に詳しいし熱心ですよね。レースを楽しむ中で、1頭1頭にそれぞれドラマがあるって感じてもらえたら嬉しいです。それと、生じゃなくてテレビとかでもいいので、お産をぜひ見て欲しいですね。競走馬誕生の瞬間は神秘的で、さらに競馬が好きになると思いますよ!」

 さまざまな走りで魅了してくれる競走馬たち。その背景には、生まれる前からそれぞれのドラマが始まっているのです。これからお産ラッシュですから、たくさんの馬たちが無事に生まれてくることを祈っています![取材:赤見千尋/北海道]

◆次回予告
次回の「競馬の職人」は、週末に控えたドバイワールドCデー特集。ドバイシーマクラシックに挑むジェンティルドンナ陣営を常石勝義さんが直撃、世界制覇に挑む陣営の意気込みをお届けします。公開は3/26(火)18時、ご期待ください。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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