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出国前のジェンティルドンナ陣営を直撃『メンタル面はディープ似』

  • 2013年03月26日(火) 18時00分
 いよいよ今週末に迫ってきたドバイワールドカップデー。無事に検疫も済ませ、3月22日にジェンティルドンナ(石坂厩舎)・ケイアイレオーネ(西浦厩舎)・タイセイレジェンド(矢作厩舎)の3頭がドバイへ出発。23日に無事に到着しました。前回の僕のコラムに登場していただいた幸騎手も今日出発します。2年前の興奮と感動がよみがえってきますね。日本で見たあの強い走りを見せてください。応援しています。

 さて、そのジェンティルドンナ担当の日迫調教助手を直撃。ドンナの強さの秘密に迫ってきました。

ジェンティルドンナと日迫調教助手

ジェンティルドンナと日迫調教助手

常石:ドンナって、どんな馬ですか?

日迫:おいおいつねちゃん、いきなりですか!? それにしゃれもまじって(笑)。緊張するな〜。無事にここまでこれたのが一番良いですよね。勝って当たり前と思われる馬を無事にレースに連れて行けることが、僕たちの使命ですから。プレッシャーがかかりますよ。

3月6日にジャパンC後初めて岩田騎手を背に追い切りしました。坂路でウインラーニッド(古馬500万、当時)を3馬身ほど追走し、4ハロン54.2〜13.1秒で最後は1馬身先着。ドンナの持つ力強さを見せてくれ安心しました。岩田さんは「久々だったけどレースまでまだ日にちもあるので、もう1、2本は追い切れる。これからまだまだ強くなると思う」と話してくれました。日本で仕上げて、向こうでは調整ぐらいですむようにと思っています。

常石:輸送には強い馬ですか?

日迫:まずは、大きな壁ですね。これをクリアしないことには始まりませんからね。こんなに遠くへ行くのは初めてだから、行ってみないと分からない。レースだけが勝負ではなく、ここを乗り越えるのが一番の勝負ですよ。万全の準備はしていきます。ドンナの好物の人参もいっぱい持っていきますよ。食べ物が変わると体調も変わるので特に慎重に考えています。でも、うちの厩舎にドバイへ行った先輩がいるので、いろいろアドバイスをもらっているからあまり不安はありません。先生もヴァーミリアンで2回行き、経験しているので心強いです。

(取材後の23日に無事に到着し元気に過ごしているそうです。まずは難関クリアでよかった)

常石:ドンナは本当に強いですよね。牝馬三冠だけではなく古馬の牡馬と戦って、オルフェーヴルと叩き合いの末に勝利するのは、並みの心臓ではないんでしょうね。新馬の時は、どんな馬でしたか?

日迫:アスリートとしては満点の素質を持った馬だと思います。恵まれていると言うか、成るべくして今のポジションにいるというか、底知れない競走馬だと思っています。

常石:お父さんのディープインパクトに似ていますか?

日迫:どっちかと言うとお姉さんのドナウブルーの方がコロンとして小さめの馬体で、体形的には似ていると思いますね。新馬の時はドンナ馬か(ちょっとシャレって、笑)、見た目ではまったく分からなかったんですが、背中に跨った時の感触が違いましたね。坂路で乗っていた時、ちょっと速い馬が来るといきなりギアが入ってポーンって入って。身体ごとじゃなくて後ろからグワッてくるんですよね。エンジンが後ろにあって、持っていかれるような感触でしたよ。怒った時の力もすごいんですよ。体幹が相当強いんでしょうね。でも、牡馬とは違って牝馬特有のしなやかさもあるんですよね。良い面が出ているんでしょうね。

客観的にしかディープを見ていないのではっきり言えませんが、メンタル面は似ていると思います。勝負根性が強いところとかが似ていると思いますよね。今までの競馬を見ていると、ゴール前できっちり交わすところは、やっぱりお父さんの血統ですかね。新馬戦からシンザン記念まで外国人騎手に手綱を取ってもらい、前につけながら馬群で我慢することを覚え、折り合いがだいぶつくようになりましたね。

お姉さんのドナウブルーの影響も大きかったです。ブルーがメンコをつけることで良い結果がでたんですね。ドンナは物見をしたり気合が入りすぎて暴れたりすることがあったので、怪我をしないか心配をしていたんです。その矢先にブルーのメンコ効果を見て、先生に許可を頂いてメンコをつけたら、暴れなくなってレースも上手くなりました。かわいい顔をしているので本当は素顔で走らせてあげたいんですがね。

自慢の迷彩メンコをつけて

自慢の迷彩メンコをつけて

常石:調教の時の迷彩メンコはかっこいいですよね。よく似合ってるなー。強いドンナですが、ハラハラするレースがありましたね。秋華賞の時、小牧騎手の通称「園田まくり」と呼ばれる、向こう正面で最後方から大外一気でスパートをかけ先頭に立ったチェリーメドゥーサと、ヴィルシーナとの叩き合いになるかと思ったら、ドンナが飛んできましたね。ゴール前の叩き合いは醍醐味でした。あんなレースを見ると、ファンの方にも競馬の面白さが伝わるんでしょうね。

日迫:あのレースで勝負根性があるなーと思いましたね。トリッキーなところで、あれは内田騎手がスローペースに持ち込み、完璧な好騎乗でしてやられましたね。それでも最後はきっちり交わすところがドンナの底力でしょう。

ドンナの状態を良くすることだけに集中していましたが、レースが始まると「これはちょっとまずいかな?」と思いました。レース前からかなりテンションが上がっていましたし、折り合いもなかなか付かず、中盤でやっと落ち着いてくれましたね。後方に控えていたチェリーメドゥーサが向こう正面から一気にスパートをかけて先頭に出て、10馬身以上のリードでとても届かない位置から外々をまわりながら徐々に追い上げ、最後1ハロンはヴィルシーナとの叩きあいの末、ハナ差での勝ちにはびっくりしましたよ。「さすがドンナだー!」って感激でした。普段はかわいらしい女の子なのに、化け物かと思いましたね。調教師が「もし秋華賞をかったらJCに向かうからね」とおしゃっていましたが、この勝ち方なら大丈夫と思いました。

岩田騎手は「絶対に負けない」と言ってましたから、それだけ自信があったんでしょうね。「まだまだこんなもんじゃないです」と言ってくれました。競馬の後も、息入れも良くすぐに戻っていましたからね。

岩田騎手石坂師と強力タッグ

岩田騎手石坂師と強力タッグ

常石:3冠達成、改めておめでとうございます。牝馬は管理が難しいんでしょう?

日迫:昔はね。今は牧場も近いし栄養や厩舎も環境が良くなったから、それほどでもないかな? どの世界でも女子の方が強くなっているんじゃないかな(笑)。

常石:僕も同感ですね(笑)。ノーザンファームしがらきができ、放牧も近くで良い条件なんですね。牧場の方に聞いたことがあるんですが、馬にとってトレセンは仕事をするところで気を抜けないところだが、ここの牧場は山に囲まれ自然豊かな静かな環境なので、馬たちにとってリラックスできる居心地が良い場所になる様にしながら、体力や筋力をつけているってお聞きしました。

日迫:ドンナも2か月ほど行ってましたね。近いので調教師もよく状態の把握に出かけていました。牧場と厩舎とで1頭の馬の情報を交換しているから、良い状態に仕上げられると思います。ジャパンCでもオルフェーヴルとの叩き合いを制し、良いレースをしてくれましたからね。本当に良い馬にめぐり合うことができました。挑戦はこれからですけどね。未知の世界に飛び込んでいくドンナのサポートを、ハラハラドキドキしながら楽しんでやっていきたいですね。

常石:たくさんの名馬を育ててきましたよね。一番印象に残っている馬はありますか?

日迫:白井厩舎で攻め専をしてる時、スペシャルウィークでダービー制覇し、良い時期でしたね。この馬も硬い馬なんですが、一瞬しなった時の反発力のすごさはただ者じゃなかったですね。ダンスパートナーにも思い入れがあります。牡馬と戦ってぶっ飛ばされても、耳を絞ってまた伸びてくるんです。根性馬でした。

石坂厩舎に来た時からも、サンライズペガサスから始まって良い競馬をさせてもらっています。でも失敗も沢山して、皆さんに迷惑もかけています。それでもこの仕事が続けられ感謝しています。まだまだ野心があるんです。牡馬を担当し大きいところを獲ってみたいですね。

まずは、目先のドンナと勝負に行きます。この馬の持っている能力を最大に仕上げるのが僕の仕事です。後は岩田騎手に手綱を任せます。まだまだ大きな仕事があるので気合を入れていきたいですね。こんな仕事ができることに感謝です。ドンナと一緒に僕も成長していかないと、ドンドン置いていかれてしまいますよね。

常石:貴重なお話ありがとうございました。世界の最高峰で日の丸が舞うように応援しています。

ドバイのジャンパーを着た武豊騎手

ドバイのジャンパーを着た武豊騎手

 ちょうど豊さんがドバイへ行った後だったので、お話を聞き、楽しみにしているとおしゃっていました。豊さんのジャンパーのバックにドバイのロゴと旗が揺れていました。20日の取材時に、初めて着られたそうです。心強い応援ですね。30日の深夜は、夜更かしして応援してください。他の2頭の応援もよろしくお願いします。

 それにしても日迫さんは、名馬を沢山送り出している凄腕なんですね。僕の攻めがまだまだ甘かったな? 園田まくりを教えてもらってからもう一度取材をお願いしなくてわ…。楽しみにしていてくださいね。常石勝義こと、つねかつでした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
次週末は牝馬クラシック第一弾桜花賞! 前哨戦のフィリーズレビューを鮮やかな末脚で差し切ったメイショウマンボを管理する飯田明弘厩舎に、常石勝義さんが潜入します。話してくださるのは、飯田調教師の実子で今年2月に騎手を引退して技術調教師となった飯田祐史元騎手。公開は4/2(火)18時、お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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