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努力で掴んだGI制覇!柴田大知の熱い涙

  • 2013年05月14日(火) 18時00分
赤見:NHKマイルカップ制覇、おめでとうございます! ゴールに入った時はどんな気持ちでした?

大知「『勝った!!』と思ってガッツポーズとか雄叫びして騒いだ後に、『あれ…俺本当に勝ってるのかな』ってちょっと不安になったんです(笑)。かなり接戦だったから。それで、普段と同じように芝からダートに入って、みんなと一緒に帰って来ようとして。そしたら、浜中(俊)と(石橋)脩が後ろから来て、『こっちじゃないですよ! ウィニングランした方がいいですよ』って。それで、芝コースを引き返した時にもう一度電光掲示板を確認したらちゃんと勝ってたので、『よかった〜』って安心しました。

 その後もスーっとスタンド前から地下馬道に入ろうとしたら、ファンの方から『手挙げて!手挙げて!!』って言われたんで、もう1回ガッツポーズして。それから地下馬道に入ったんですけど、そこでまた浜中に会って、『早っ! もっとゆっくりウィニングランした方が良かったんじゃないですか』って言われたので、『え? そうなの?!』って思いました(笑)。だってウィニングランは初めてでしたから」

初めてのウィニングラン

初めてのウィニングラン

赤見:なかなかウィニングランする機会ってないですもんね。

大知「そうなんですよ。前に障害でGI勝たせてもらった時は、コース的にもスタンド前には行かずにすぐ戻って来たし。今回初めてやってみて、本当にすごかったですよ。感動しました! あれだけのお客さんが、マイネルホウオウと自分だけを見てるんですから。

 馬は1頭になって戸惑うかなって思ったんですけど、全然大丈夫で。物見することもなく、ケロっとしてました。これには僕もビックリしましたね」

赤見:ホウオウって、新馬の時にものすごく粗削りなレースをしたじゃないですか。あの時の印象が強くて、ちょっと難しい仔なのかなって勝手に想像してたんですけど。

大知「それがね、デビュー前はすごく素直で本当に大人しかったんです。速いとこ行けばいくらでも時計が出るし。でも1回使ってからスイッチ入っちゃったみたいで、テンションばっかり高くなっちゃって…。『ホウオウはどこに行ったの?』って思うくらい違う馬でしたね。

 スプリングステークスまでは、なだめてコントロールするのが大変だったんですけど、そこで初めて舌を縛って、リラックスして走ることを教えて。そこからですね、変わって来たのは」

赤見:皐月賞の権利を獲ったわけですけど、そこから方向転換でNHKマイルに照準を合わせたんですよね。

大知「岡田社長の判断は素晴らしいと思います。僕だったら、権利獲ったらやっぱりクラシックへって思っちゃいますよ。特別なレースですから。それに、次のニュージーランドトロフィーが…あんまりこう…いいところが無く終わっちゃったので。『こんなはずじゃないんだけどな…』と思ってました」
 
赤見:NHKマイルのレース前はどんな気持ちだったんですか?

大知「中間すごくいい感じで来れたので、『もしかしたらやれるかな』という気持ちはありました。ただ、返し馬行く時に人気になってる馬を見たら、『スゲーいい馬だな』って思ったのも正直な気持ちです。

 あの日、前のレースで1勝して199勝になっていたんで、畠山先生から『大知、ここで200勝したらカッコいいな』って言われて送り出してもらったんですよ。まさかこんなに上手く行くとは…。

 レースはイメージしてたよりも後ろになっちゃったんですけど。勝春さんが目の前にいたので、『インパルスヒーローがここにいるなら大丈夫だな』って安心感をもらって。『この馬の後ろにつけて、併せ馬みたいに上がって行こう』と思ってたら、本当にその通りになってくれました。

 直線はもうゾクゾクして。最後まで本当に止まんないんですもん。あの脚はすごいですよ。こういう馬がGI勝つ馬なんだなって教えてもらいました」

涙の勝利騎手インタビュー

涙の勝利騎手インタビュー

最愛の家族の前で200勝達成

最愛の家族の前で200勝達成

赤見:インタビューの時は号泣でしたね。かなり反響があったんじゃないですか?

大知「『泣くなよ〜』ってからかわれてます(笑)。あの時は頭の中が真っ白になっちゃって…。もう何にも…わけわかんなかったですね。マイネルネオスの時も自分が何言ってるかわかんなかったけど、それ以上にわけわかんなくなってて。『俺、大丈夫だったかな…』って後でVTRを見たんですけど。全然ダメでしたね(笑)。あれはダメです(笑)」

赤見:勝てなかった時期も長く経験されているからこその、あの涙だったんじゃないですか。

大知「そうですね。過去の成績見ると、『これは酷いな…』って改めて思いますもん。どん底っていうんですかね。全然レースに乗ってませんでしたから。みんなが競馬に行く土日に、トレセンに残って調教していることが…本当に辛かったです。

 そこから、ミルファームの清水社長に声かけてもらって、さらにマイネルさんに乗せてもらえるようになって。たくさんの方に助けていただいて、本当に感謝してます」

赤見:技術うんぬんじゃなく、レース数乗ってない頃だったら…今回みたいな時に勝ち切るのって難しかったんじゃないですかね。

大知「それはありますよ。やっぱり、レース乗ってないと構えてられないですから。流れも読めないし、今回みたいにイメージと違う位置取りだったら道中で不安になっただろうし。大きなレースになればなるほど、そこは大きいです。だから、今回勝てたことはあのレースだけじゃなくて、今まで乗せてもらった馬たち、関係者たちのおかげなんですよ。そういう1つ1つの積み重ねで勝てたんだと思ってます」

赤見:GIジョッキーになった実感はありますか?

大知「ないですね(笑)。あの日家族が来てたんですけど、子供たちの前で勝つところを見せられたのは、父として大きいというか…最高です! レースの後にその足で家族と温泉に行ったんですけど。子供たちも奥さんも、すごく喜んでくれました。

 一時期は生活がキツかったんで、安定した収入がある助手に転身した方がいいのかなと考えたりもしました。でも、納得いくまでジョッキーを続けたくて。辞めたら絶対後悔すると思ったから。後で奥さんに聞いたら、僕が思ってた以上に苦しかったみたいですけどね。なんとかやり繰りしてくれて、僕には『好きなようにすればいい』って言ってくれたので。家族にも本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

赤見:では、たくさんのファンのみなさんにメッセージお願いします。

「たくさんの人に夢を掴んで欲しい」

「たくさんの人に夢を掴んで欲しい」

大知「僕は…デビューしたころすごく恵まれていて。ポポポンと勝たせてもらったし、すぐに重賞も勝たせてもらったじゃないですか。多分ね、あのまま行っちゃってたら、苦労してる人のこととか、馬に関わっているたくさんの人たちの気持ちとか、気づけなかったと思うんです。あの時期があったからこそというか…絶対にあの時の気持ちを忘れちゃいけないって思いますね。

 なんていうか…苦労した方がいいと思うんですよ。辛いけど、腐らないでがんばって欲しいというか。カッコいいこと言ってるようで恥ずかしいですけど、諦めずにがんばっていれば、どっかにチャンスが来るから。ダメだったら、何がダメだったのか真剣に考えて。

 本当にちょっとしたことの積み重ねなんですよね。ただ、すぐに目に見える形で結果が出るわけじゃないから、諦めたくなる気持ちもわかるんです。でも何年もすると、すごく大きな差になると思うんで。成果が目に見えない時間をどう過ごすかなんだと思います。そうやって、たくさんの人に夢を掴んで欲しいです!」[取材:赤見千尋/美浦]

◆次回予告
次回は常石勝義さんが栗東からレポート。ダービー最注目のキズナ陣営に突撃取材します。公開は5/21(火)18時、お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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