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ボランティア志願の若者

  • 2003年09月08日(月) 17時39分
 台風10号襲来からちょうど一ヶ月が経過した。日赤北海道支部による義援金の受付期間も後数日(9月12日〆切りと聞いた)を残すのみとなり、時間の経過とともに、少しずつ人々の話題に上ることも少なくなってきた。とはいえ、被災地の牧場にとっては、これから冬を迎える時期までが復旧のための貴重な時間である。雪が降り、地面が凍結し始めるまでが勝負だ。気の休まる瞬間などないはずだが、どうか頑張っていただきたいものと思う。

 今回の台風被害のニュースは全国に知れ渡り、多くの人々から(幸いにして被害のなかった)私の牧場へも、お見舞いの電話やメールなどをたくさん頂戴した。この場を借りて(というのもいささか気が引けるのだが)、改めてお礼を申し上げたい。

 さて、Mさんは、新冠町でユースホステルを経営している。Mさんの家は、新冠川の河口に近い河岸に面して建っている。崩落したJR日高線の新冠鉄橋までわずか300mくらいの場所だ。

 そんなロケーションなので、今回の台風が日高地方を襲う公算大とのニュースに接してから、MさんはずっとCS放送の天気予報から目を離さなかった。CSの天気予報は、契約料が確か月額200円程度。かなり詳細に予報が流れてくるので契約している牧場も多い。牧草収穫作業の時などに重宝するのと、何より台風接近時などに威力を発揮するからなのだ。

 Mさんは、その夜、ずっと画面から流れてくる雨雲の動きを追い続けていたという。そして、夜半「これは大変なことになる」と判断し、宿泊していた十数人の客を全員起こして、車に乗せて避難させた。

 幸いにして、Mさんのユースは浸水も裏山の崖崩れもなく、終ったのだが、災害時の敏速な対応をいつも心がけているのは、過去にやはり大雨で裏山が崩れて建物に被害を受けた苦い経験があるからなのだという。

 そのMさんの元に、台風襲来直後、被害のニュースを見て常連客からかなりたくさんの問い合せが舞い込んだ。「OO地区のOO牧場は大丈夫だったんですか?」「OOに行きたいけれど道は通れますか?」などなど。中には、「お世話になった牧場に行ってボランティアで復旧作業を手伝いたい」という希望を口にする若者もかなりいたのだそうである。

 Mさんは、以前、北海道南西沖地震に襲われた奥尻島の復旧にボランティアで参加した経験を持つ。その時の経験から、ボランティアがいかに難しい「仕事」であるのかを熟知している。酷だとは思ったが、「日高にボランティアで来たい気持ちはあり難いが、止めておいた方いいと思う」と、その申し出をすべて断ってしまったという。

 なぜか?Mさん曰く、「ボランティアっていうのは、原則として、衣食住をすべて自前で用意できる人が初めて参加を認められるものだと私は考えています。つまり、食料とテントを持参し、何日も風呂に入れないような劣悪な環境でも耐えられる人でなければダメなんです。その時の感情だけで、手伝いたいと言っても、相手の牧場にとってたぶん迷惑にしかならないだろうから、断ったわけです。住宅も床上浸水したような牧場に、手伝いに来ましたと言って駆けつけても、おそらくありがた迷惑にしかならんと思いますね。」

 Mさんは、そう言う。これはなかなか深い含蓄のある台詞である。

「許せないような感覚のボランティア志願者を奥尻の時に何人も見ているからねぇ。」

 当然、反論のある方もおられると思う。「いいや、俺は違う!」と。だが、Mさんの実体験に基づいた話は説得力があるように感じた。これは、時々耳にするあちこちの牧場に訪れた「実習希望者」にも、通ずるものがあるかもしれない。また、別の機会にそのあたりは書こうと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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