◆父とは鋭さの質が異なる差し脚、違うレースを見せてくれた方がいい 大変な盛り上がりをみせているように、年によっては役者不足になることも珍しくない天皇賞・春とすれば、素晴らしい組み合わせになった。
天皇賞・春は、最近10回に限ると1番人気馬が【1-0-1-8】の成績ゆえ、波乱必至のG1と形容されるが、それにはエース級の長距離型が育ちにくい体系になったこと。12年はオルフェーヴルが心身ともに不振期であり、13年はゴールドシップがまだ難しい成長期にあったことが関係する。また、信頼できるエースが見あたらず、後年、「あの馬が1番人気だったのは、本当なのか?」というような年があったことも否定できない。
長距離戦が少なくなったから、大半の馬が未知の距離に近い。大きな不確定要素があるのは確かだが、今年は、のちになって、あの年は素晴らしい激闘だったと、ファンの心に刻まれる3200mになることを期待したい。
有力馬の中で、総合力やパワーには不安はないが、本当にスタミナ能力に不安はないのかと、やや不確定要素があるのは、
キズナである。ロンシャンの2分33秒も2秒もタイムを要するタフな2400mを乗り切ってきたではないか、とする考え方にわたしは賛成はしたいが、それは距離延びてもスピードを保てるスタミナ能力とは、微妙に違うことも事実である。キズナは、勝った二エル賞でも、約7馬身差の4着にとどまった凱旋門賞でも、ゴール前は止まっている。
まあ、近年のトップホースがステイヤーに近いなどということはめったになく、本質ステイヤーでは、日本ではもちろん欧州でもチャンピオンにはなりにくい。ただ、父ディープインパクトが最後は止まったのも、だいぶタイプの異なるはずのキズナも、凱旋門で止まったのは明らかである。キズナは、父の軽快でしなやかなフットワークとはちょっと異なり、これからは一段とパワーを備えるほぼ万能型として充実する。それで凱旋門賞をホントに勝てるのか、最後の最後に競り負け、あるいは差されてさきたこれまでの凱旋門惜敗馬と違う結果が残せるのか。実際には、多くのファンが懐疑的である。それを、楽しみが増して仕方がないような輝く秋の展望にするために、抜け出したウインバリアシオンや、ゴールドシップや、昨年史上4位の3分14秒2で快勝しているフェノーメノを、追い詰めたキズナもきわめて苦しくなったが、それでも最後まで音を上げずに、必死で差し切るような勝ち方をして欲しい。有力馬の中で、まだまだスケールアップしてくれるのは4歳のキズナではないか、と期待する。苦しくなってから、もう一回必死に相手を競り負かすようなレースができたとき、本当の秋の展望が開けるに違いない。父とは鋭さの質が異なる差し脚、違うレースを見せてくれた方がいい。キズナは天才ではないはずである。
すっかり立ち直ったどころか、前回の日経賞をまるで最高のライバルだったオルフェーヴルのような勝ち方を見せた
ウインバリアシオン。同じく覚醒したかのように先行して抜け出し、阪神大賞典を完勝した
ゴールドシップ。前回の印象が悪過ぎたが、昨年3分14秒2の文句無しの勝ち方をしている
フェノーメノも今回は立ち直っている。この人気上位の相手3頭はほぼ同格の強敵だろう。絶好調のスタミナ型
デスペラードと、昨年4着の
アドマイヤラクティが抑え候補。