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不思議な強さの逃げ馬/NHKマイルC

  • 2014年05月12日(月) 18時00分


◆「快速」とは違うミッキーアイル

 5連勝でGIを制したミッキーアイル(父ディープインパクト)は、果たして本当に強いのだろうか。なぜ、差されないのか。距離1600mを5連勝。文句なしにマイルのチャンピオンではあるが、ますます不思議な逃げ馬に育ちつつある。なんとかその強さを探りたい。

 今回はややハナに立つのに時間を要したが、ミッキーアイルが「速い」のはスタート直後のダッシュである。60-70m行くと必ず先頭に立っている。内のダンツキャンサーも行こうとしたが、100mも行かないうちに2-3番手で我慢するしかないと観念させたのが、スタート直後のダッシュ力である。だから、ミッキーアイルはすぐ自分のリズムでレースを開始できる。

 最初の1ハロン「12秒0」はミッキーアイル自身にとって自己最速だった。でも、12秒0など全然速くない。速いのは相手に先んじるまでの60-70mである。

 快速ミッキーアイルか、というと、快速ではない。2戦目に1600m1分32秒3の2歳レコードがあるから「快速」の形容をつけてもいいが、あれは馬場差1.5秒以上もありそうな異常な芝状態によるもので、朝日杯FSより速かった「ひいらぎ賞」も、「シンザン記念」も、「アーリントンC」も馬場状態を加味すると快速の記録ではない。レースの主導権を握ったらけっしてバテないのである。このNHKマイルCの1分33秒2も、新コースになった2003年以降の良馬場の平均勝ちタイムに、現実に見劣っている。

▽自己最速だった未勝利戦は、前後半「46秒2-46秒1」=1分32秒3。
▽今回のNHKマイルCの前後半は、「46秒6-46秒6」=1分33秒2。

 なんと、前後半800mずつの差は「0秒0-0秒1」しかない。これがこの馬の本質か。

 コンビの浜中俊騎手の素晴らしいペース判断も加わって、わが道を行くミッキーアイル5連勝のレースの前後半バランスは、平均すると、「35秒02-46秒96――46秒54-34秒68」=1分33秒50である。

 前半の3ハロンと、後半の3ハロンには、相手の出方やコース(京都、中山、阪神、東京)の違いを考えるなら、ほとんど同一にも近い「0秒34」の差しかない。

 前後半の半マイル(800m)の差の平均も、わずか「0秒42」である。古馬にこんな平均スピードを持ち味に連勝をつづける馬はいない。それどころか、正確なペースでレースを運び、まるで機械のような馬だと称された過去の多くのチャンピオンにも、こんな逃げで連勝した精密すぎるマシンタイプは存在しなかった気がする。

 どこかへ逃げる必要があるわけではないから、別に、ミッキーアイルは「逃げ回っている」わけではない。正しくは、浜中騎手とのコンビでレースを主導し、レースを作っている。

 欧州タイプの母の父ロックオブジブラルタル(デインヒル系)の少なからぬ影響を受けるミッキーアイルは、ポンポン飛ばす快速馬というより、平均スピードを持続させてがんばる粘り強いタイプで、余力があれば後半に加速できる。という仮説は、正解から遠くないと思える。

 5連勝の内容を、海外風(フランス、香港など)に2ハロンごとに分けると、ミッキーアイルの5連勝は平均して『23秒50-23秒46-23秒36-23秒16』となる。

 驚くなかれ、2ハロンごとのタイムは「0秒04、0秒10、0秒20…」。後半に向かって平均スピードを増しているのである。実態は加速マシンである。

 みんな、まさかホウライアキコにかわされるのか。追撃してきた後続にまとめて飲みこまれるというのか。浜中騎手も「残ってくれと祈るような気持ちで」追ったという。あと50-100mあったら、もしかしたらズブズブに差されていたかもしれない。そんなゴール前だった。

 不遜ながら、ミッキーアイルに代わって答えると、「50-100m距離が違うなら、道中のペースと、スピードアップする地点が違う」。また、「ゴールは最初から決まった地点にあり、都合では動かせない」というのが、おそらくミッキーアイルが用意する答えである。

 しかし、平均ペース型のお手本のようなレースの中身を示すミッキーアイルが、A級のマイラーかとなると、安田記念や、マイルCSの直線を連想すると、みんな「負けそう」に思えるのは否定できない。ひとたまりもなく差されそうなイメージも浮かぶ。本当は、1800-2000mの方がずっと合っているのではないだろうかとも想像できる。個人的には、3ハロン「32-33秒台」などに集約される爆発スピード能力とは無縁でここまできたミッキーアイルは、2000m級のレースを「58秒5-58秒5」=1分57秒0で乗り切るような馬に育っていくのではないか、と思えるが、なにせまだ3歳の前半である。いったいどういう強さを求めるタイプになるのか想像するのは難しい。このあとは安田記念ともされる。

◆驚きだったヨハネスブルグ産駒2騎の快走

 17番人気で1分33秒2の小差2着したタガノブルグ(父ヨハネスブルグ)から、いつもより早めに動いたら切れなかった1分33秒3で6着のショウナンアチーヴ(父ショウナンカンプ)までの着差は「ハナ、クビ、ハナ、クビ」だった。前出の「46秒6-46秒6」の流れを考えると、ここに出走するくらいの馬なら、みんなこのくらいの内容は示す能力はあったのである。

 現に1分33秒2は、良馬場のNHKマイルCとすれば平均を下回る時計だから、ミッキーアイルを目標とした17頭にとっては、脚の使いどころひとつだったともいえる。

 芝を刈った高速馬場(イン有利)は明らかだったため、またハイペースになる可能性は少なかったから、自分の形を崩すように早めに勝ち馬を射程に入れようとした差しタイプは、結果として持ち味が生きなかった。ポンと主導権をにぎったミッキーアイル以外、上位9着まで、馬番号ひとケタの馬が独占する結果でもある。

 典型的なスピード系の血が濃いヨハネスブルグ産駒のタガノブルグ、ホウライアキコの東京での快走は驚きだったが、これには海外のヨハネスブルグ(その父ヘネシー)産駒とはひと味ちがい、母方にサンデーサイレンスの血をもつスピード型の強みがあるように思える。

 キングズオブザサン(父チチカステナンゴ)の3着は、スティンガー(その父サンデーサイレンス)の牝系の血を味方に、早世した父チチカステナンゴの名誉を取り戻す快走だった。

 ロサギガンティア(父フジキセキ)は、また今回も痛恨の出遅れ。大外に回って坂を上がった地点では届きそうにも見えたが、ゴール寸前で脚いろが同じになってしまった。レース上がり34秒8からすると、ミッキーアイルに翻弄されないレースをしたこの馬は届いて不思議なかった。こうなればもう能力と成長を信じ続けるしかない。「秋が楽しみ――柴田善臣騎手」。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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