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HBAトレーニングセール・その2

  • 2014年05月21日(水) 18時00分
HBAトレーニングセール

HBAトレーニングセール



◆何人かの生産者と話す機会があったが「まさかあんなに売れるとは思わなかった」と語っていた

 一昨日の千葉トレーニングセールもかなり売れたらしい。59頭(牡34頭、牝25頭)が上場、49頭(牡27頭、牝22頭)が落札されたという。上場頭数で前年比4頭増、落札頭数で8頭の増加、売却率も昨年の74.5%から83.1%に大きく上昇した。

 総売り上げは7億4498万4千円。昨年の5億7624万円から1億6874万円もの増加で、これにより平均価格も1520万3755円と114万9121円の上昇であった。消費税が3%増えた分を加味しても、明らかに数字が伸びている。

 函館競馬場で開催されたHBAトレーニングセールにおいても、当初は売り上げが伸びることを予想する関係者はそういなかったはずだが、いざ蓋を開けてみると先週触れたような大商いであった。函館のセール後、何人かの生産者と話す機会があったが、みな口々に「まさかあんなに売れるとは思わなかった」と語っていた。

 景気が戻りつつある・・・かどうかは定かではないが、4月に消費税が8%となり、中央、地方ともに競馬の賞金や諸手当が増額されているわけでもない。地方の一部には(たとえば道営ホッカイドウ競馬)今春から賞金額を微増しているところもないわけではないが、元が下がる限界まで減額されてきたのだから回復しているとは到底言い難い。中央においても同様で、辛うじて前年並みの売り上げ水準で推移しているにすぎないので、必ずしも“馬主経済”が好転しているわけではないはずなのだ。

 にもかかわらず、函館のトレーニングセールでは玉石混交ながら、ほぼ4頭中3頭が落札される好況であった。見ていると一度主取りで戻ってきた上場馬が再び声をかけられ、再上場馬としてせりにかけられるケースも多かった。消費税のことを考えれば、後で個別に牧場を訪れて庭先売買を持ちかけた方が安く上がるだろうが、この日は途中で設定された再上場の時間帯になると6頭も7頭も黄色いベストを着用した引き手に連れられた上場馬が登場していた。全体の1割以上はこうした再上場馬であった。

「品薄感が出てきているんじゃないですかね」と生産者の一人は分析する。日高の場合、ここ数年は生産頭数がついに5000頭を割り込んでおり、横ばいかむしろ頭数が増えている大手牧場に比べて、中小牧場の頭数が顕著に減ってきている。自前のクラブ法人やオーナーズクラブ、また牧場名義で競馬に供することのできる大手と異なり、マーケットブリーダー一本でやりくりせざるを得ない中小生産者の生産頭数が減る一方なので、それによって需給バランスが均衡しつつあるのではないか、とこの生産者は語る。

 もちろんまだまだ「売り手市場」に転じるにはほど遠い状況だが、確実に牧場数も生産頭数も総じて減少傾向にあり、セールスポイントの高い素材は確実に価格が高くなった印象があった。

 その典型的な例が191番「エンプレスロッチの2012」(牡、栗毛、父ヨハネスブルグ)であった。現2歳世代の産駒数が急減するヨハネスブルグ産駒唯一の上場馬として登場し、公開調教でも外にやや膨れながら、4コーナーを回って直線にさしかかると一気に加速し、ゴール前では併走馬を3馬身程度押えて先着。スピードのあるところを盛んにアピールできた。

 また言うまでもなく、13日(火)は、NHKマイルCの2日後であり、ヨハネスブルグ産駒2頭(タガノブルグ、ホウライアキコ)が2着と5着に健闘する活躍を見せたばかり。「3歳になったら成長力に疑問が残る」「2歳戦でしか活躍できない」というような父の評価を覆す走りっぷりであった。

 ヨハネス産駒の品薄感にも後押しされて、税抜き2150万円までこの馬は価格が上昇した。落札したのは(有)ビッグレッドファーム。これ以上ないタイミングの良さも後押しした。

191番「エンプレスロッチの2012」

ビッグレッドファームが落札した191番「エンプレスロッチの2012」



 もちろん一方ではまだまだ安い落札価格の2歳馬もいて、そうそう手離しで喜べるわけではないのだが、平均価格が昨年よりも81万円も上昇したのは非常に喜ばしい。

 本当にサラブレッドの価格が持ち直しているのかどうかは今年の1歳市場の動向を見なければ何とも言えないところだが、長らく生産地は不景気が続いているだけにこのあたりで景気が上向いて欲しいと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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