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上がり馬の実力勝ち/ユニコーンS

  • 2014年06月23日(月) 18時00分


◆まずはアジアエクスプレスの敗因を探る

 断然の支持を受けたアジアエクスプレス(父ヘニーヒューズ)は、まったくいいところなく12着に凡走し、快勝したのは3番人気のレッドアルヴィス(父ゴールドアリュール)だった。

 勝ったレッドアルヴィスを称える前に、まずは単勝130円の圧倒的な人気を集めたアジアエクスプレスの敗因をさぐりたい。ダート2連勝のあと、これだけの高い能力があるなら…と挑戦した芝のGI朝日杯FSを初芝ながら快勝して2歳牡馬チャンピオンに輝き、3歳の今年はスプリングSを0秒2差。6着に負けた皐月賞もイスラボニータから0秒4差。日本ダービーを制することになるワンアンドオンリーとは0秒1差だった。

 それが距離を考慮し、得意のダートの距離1600mに出走する。快速系のアジアエクスプレスにとって絶好の稍重ダートになり、有力な相手とみられたアナザーバージョン、グレナディアーズ、フィールザスマート(9R青梅特別にまわり、順に、4着、3着、1着)がそろって除外されたから、ますます人気が集中することになった。死角をあげれば、約2カ月ぶりなのにやけに調教が手ぬるいこと。もまれる危険もある内枠を引いたことだが、それはアジアエクスプレスにとってとるに足らない死角のように思えた。

 敗因が、内枠で砂をかぶったから…とする見方もあるが、これは当てはまらない。激しく砂をかぶったシーンはなく、いやがったり、闘志がそがれた場面は全然なかった。再三VTRを確認した手塚調教師も砂をかぶったのが敗因とは考えていない。

 パドックから、ダートコースに入場し、レースが始まったアジアエクスプレスは、16頭の中でもっとも大きな526キロの馬体を誇るのに、なぜか、まったく目立たない小さな馬に映った。

 こう指摘する記者が多かった。やけに手控えた攻め馬は、もう仕上がっているアジアエクスプレスには不安なしの調整と思えたが、ピークに近かった皐月賞時に比べると、気迫が…。なにか物足りなかったのは事実である。

 といって、アジアエクスプレスのマイナスをかなり計算したところで、代わってユニコーンSを勝てそうな能力のある馬はいない。多くの記者とともに大きな反省をこめていうなら、アジアエクスプレスに少なからず不安を覚えても、代わって期待するにふさわしいライバルがいない組み合わせだったのである。

 これは、勝ちタイムが1分36秒0(レース上がり36秒5)にとどまり、前出の除外馬3頭がやむなく再投票し、それらが上位を占めた1000万の青梅特別の勝ち時計が1分36秒3(レース上がり36秒6)だったから、この重賞は1000万レベルだったことを示している。

 期待の輸入種牡馬ヘニーヒューズ(その父ヘネシー)の最大の長所は、同じヘネシー(その父ストームキャット)産駒のヨハネスブルグと多分に似たところがあり、仕上がりの早さと、マイル戦以下を中心に爆発させるスピード能力である。ヘニーヒューズには、ここまでGI5勝を含み【9-3-0-1】のビホルダー(米)などの逸材がいるから、決して完成の早いスピードタイプだけを送る種牡馬ではない。しかし、産駒が2歳戦、3歳戦の初期までに完成され、早くに結果を出すことも否定できない。そこに最大の真価がある快速系種牡馬なのである。日本に輸入されて走っているヘニーハウンド、ケイアイレオーネ(古馬になっても快勝したが)などには、それらしき特徴が伝えられている。

 早熟性、あるいは早い完成度が長所などというと、一部にこういうタイプを競って生産する傾向もあるアメリカとちがい、日本では嫌われる傾向があるが、のろいカメより、素早いうさぎのごとく早くに賞金を稼ぎ出して結果を出すタイプであってどこが悪いのだ、という生産手法、育成手法に異を唱える理由はあまりない。

 もしかするとアジアエクスプレスは、1990年代を中心に山のように輸入され、ニュージーランドTやNHKマイルCを頂点とするスピード競馬で圧倒的な良績を残した外国産馬と同じようなタイプであっても不思議はなく、それはそういうタイプにしようという意図のもとに生産、特殊な育成手段をほどこされていたのだから、ある日、陰りをみせるのは当たり前ではないか。そういう見方も成立する。

 近年の若いファンはあまり実感はないかもしれないが、モノがちがうはずの大器が、ある日を境に突然、なんでもない馬に変わってしまうことなど、少しも不思議ではなかったのである。

 1度不可解な凡走に終わったくらいで、まさかアジアエクスプレスがそういうパターンにはまる馬ではないと考えたいが、万が一、仮にもう生涯のピークを過ぎてしまったとしても、すでに1億余円を稼ぎ出したアジアエクスプレスが素晴らしい2歳チャンピオンだったのは疑いもない事実である。

 立て直して、気迫と元気を取り戻してくれるはずのアジアエクスプレスの能力を評価し、また、わたしは馬券を買うはずである。「あんなはずがないではないか」と。懲りずにいまだにヘニーハウンドは買うことが多い。「あんなはずではない…」と。

◆レッドアルヴィスは実力勝ち

 勝ったレッドアルヴィスは、休み明けの新1000万条件をハイペースに乗って好走している。タイムの1分34秒5は馬場差が3秒近くあったから過信禁物でも、明らかにひと回り成長してたくましくなっていた。早め早めに外から進出し、あっさり抜け出したから実力勝ちである。前述のように1000万特別と同程度の内容は不満だが、このカレンブラックヒル(父ダイワメジャー)の弟(3/4同血)は、ここで軌道に乗った注目の上がり馬となった。大目標は12月のチャンピオンズカップ(中京ダート1800m)。さらにパワーアップしたい。

 2着に粘った牝馬コーリンベリー(サウスヴィグラス)は、当日輸送なしと、成長分を入れても余裕残しのプラス22キロに映ったからこの粘り腰は素晴らしい。種牡馬サウスヴィグラス産駒は早熟なスピード型が多いようにみせて、実際には素晴らしい成長力があり、ミスタープロスペクターの[4×3]やノーザンダンサーのクロスの形など、公営に転じて連戦連勝、22日のみちのく大賞典を大差で勝ったナムラタイタンとそっくりである。東京1600mを我慢したから、1800mくらいまで平気だろう。

 人気のメイショウパワーズ(父メイショウボーラー)、ペアン(父ハイアーゲーム)は前回のレースからすると案外な内容に終わってしまったが、これを経験にこれから育っていく馬だろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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