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ルージュバックと共に桜花賞へ! 大竹正博調教師の情熱

  • 2015年03月31日(火) 18時00分
大竹正博調教師

大竹正博調教師



大竹正博調教師「(ルージュバックは)怪物じゃないですよ、だって可愛いもん(笑)」

赤見:ルージュバックはデビューから無敗できさらぎ賞を制覇!ものすごい馬ですね。

大竹:特別普段はすごいというわけではなくて、見た目は至って普通の牝馬なんですけどね。デビュー前の印象は、小っちゃくて可愛いという感じで、POGの取材の時にも名前を挙げなかったくらいで…。何か特別すごいなと思う部分はなかったんです。それが、追い切りを何本か重ねて、「おや?何でこんなに動くのかな」と。それまでわからなかったです。

赤見:戸崎騎手は、性格がドッシリしていると仰っていましたけど、普段はいかがですか?

大竹:入厩当初はすごく人懐こくて、近寄れば顔を近づけて来たんです。今は競馬間際になると多少ピリっとするけれど、全体的には人懐こいですよ。

 ジョッキーは精神的にドシッとしてるところを強調しているように、使うたびに競馬場で落ち着きが増してますね。この馬の強さはそこなのかなと思います。牝馬で走るっていうとカーッとなる馬もいますけど、それをレースの最後に出せればいいのであって、その前にカーッとなっちゃう馬が多いでしょ。ただね、この馬もカーッとなった時の暴れっぷりはハンパじゃないですよ。入った頃はやんちゃでお転婆で、尻っぱねばっかりしてましたから。今も何かあると連続で尻っぱねしますよ。体全体使うから、到達点が高いんですよね。尻っぱねされて、こちらが怖いなと感じる馬は走りますよね。

赤見:すでにハイレベルな牡馬も撃破しましたし、このままいけば怪物って感じですよね。

大竹:怪物じゃないですよ、だって可愛いもん(笑)。可愛くて強いって言ったら…人間に例えたら誰なんだろう。優等生タイプ?それなら尻っぱねはしないでしょう。誰に例えればいいかなぁ。

―ここで辻三蔵さん乱入―

:シャラポワ!

大竹:違うな。

赤見:能年玲奈ちゃん!

大竹:違うな〜。可愛くて小柄で強いんだよ。

:(卓球の)石川佳純ちゃん!

大竹:違うな〜。

赤見:浅田真央ちゃん!!

大竹:真央ちゃんじゃないんだよなぁ〜。今はどちらかというとコロンという体つきなので。今後もう少し大人の体つきになってくれたらいいんですけどね。

 これまでの名馬を考えても例えが浮かばないんですよ。例えば(初重賞制覇だった)フレンチカクタスなんて、大きくって男みたいで気性も激しいし、これがとんでもないパフォーマンスをしたら怪物でいいと思うんですけど。ルージュバックみたいな存在がいないんですかね。

赤見:桜花賞は相当な人気になるのではないでしょうか。

ルージュバック

ルージュバック(写真は百日草特別優勝時 撮影:下野 雄規)



大竹:ですかね。1戦目も2戦目も相手云々の競馬をしてるわけじゃないから、乗り手とのコンタクトをしっかり取れるようにすれば、結果はついてくると思っています。2戦目も3戦目もデータを覆す結果になったし、人気になったらなったで、それに恥じない形で送り出したいです。とにかく丁寧にということを念頭にやってきて、その通り無傷で桜花賞に向かえるので。大事な娘を送り出すような気持ちで送り出したいですね。

赤見:こういう馬がいると、厩舎にいつもとはまた違う緊張感がありませんか?

大竹:早い段階で調教のやり方がかたまってる馬だったので、不思議と緊張感はないんですよ。フレンチカクタスの方が大変でしたから。うるさくてうるさくって…(笑)。そういう経験があったからこそ、今こういう馬を育てられるんだと思います。フレンチカクタスでフィリーズレビューを勝てたのも、前の年にロジフェローズっていう馬が4着だったんですけど、あの経験もあって獲れたんだと思いますね。今まで経験した馬たちのお蔭で、今があるわけですから。

赤見:大竹厩舎の今年の3歳世代、すごいですね!

大竹:共通して言えるのは、『あんまり作り込まない』ていう感じでこの世代やって来てるのがいいのかなっていう。僕らの気持ちが前に出ちゃうと、馬が硬くなっちゃうのかな、作るっていう表現も馬に対して失礼かなって思うんです。年齢的にも若いし、走ることが楽しいって思わせれば、それなりに結果はついてくるのかなと。

 この世代から、僕は調教中いつも青草を持って歩いているんですよ。坂路のスタンドにいるんですけど、終わったら下りて青草をあげるんです。そこで一口ずつ、動物園のおじさんみたいな感じで。比べていいのかわからないけど、イルカのショーとか、芸をやったあとにイワシとかをあげるじゃないですか。頑張ったら何かをあげる、僕らの世界にもあってもいいのかなって思うんです。ムチで叩かれるだけじゃ、自分もいやだなと思って。

赤見:その考えになったのは、何かキッカケがあったんですか?

大竹:特にはないですけど、作る、仕上げるっていうのが馬に失礼だなって思って、そこからですね。あとは、去年の成績が酷かったことですかね。ずっと細かいことまでスタッフとディスカッションしながら積み上げて来たものが、それがいいものだっていう判断で年数重ねて行ったんですけど、考え方の幅が逆に狭まっていたんです。ここまで、これは成績でないからやめていこうという捨てて行く作業で、かなりスリムになってパターンがある程度出来たんですけど、そしたらどんどん身動きが取れなくなってしまった。去年の暮れまではこのままで行ってみようと思ってやったけどダメで、年が変わってから、今までダメだと捨ててたものも拾い集めて、もう一回なんでもかんでも取り入れてみようという考え方にシフトしたんです。

 去年までのやり方は、僕とか攻め専とかを主体に動いていたんですけど、今は馬に接している人間のウェイトを重くして行こうということで、直に見ている人の方がもっと細かく発見できるのではと思います。年の終わりまで我慢して苦しかったけど、良くなるためには経験しないといけなかったことなのかもしれません。ここに来て上手く歯車が回り出したのは、去年のあの成績が教えてくれたのかなと。積み上げて行く作業も大事だけど、そこで思考の幅が狭まっていることに気付けなかったので、本当に申し訳ないなと思います。馬にも馬主さんにも、馬券買ってくれる方にも申し訳ないです。

赤見:考え方を変えるのって難しいですよね。

大竹:そうですね。それにやはりガラっと変えるのはよくないと思いますよ。科学の世界だとコントロールっていって、変えるといっても対象になるものがちゃんとないといけないので。幸い、獣医免許を持ってるというよりも、理系の人間ということを考えると、変える時にも対象物がないと精査出来ないので、そういう考え方、変化させて、結果の考察が出来ているので、理系の人間で良かったなと思いますね。でも熱いものがないといけないのもすごくわかります。そこがなくなると馬って途端に走らなくなりますから。そこは科学の世界ではまだ解明されてないことですよね。

 馬って、僕らもそうだけど厩務員さんとか、プライベートが良くないと走らなくなるじゃないですか。飼ってる犬とかも、僕が体調悪いと一緒になって体調悪くなるような感じで、何か感じ取っているのかもしれないですよね。もしかしたら、人間が忘れてしまった第6感をまだ持っているのかもしれません。彼らは言葉を持っていないので、そのセンサーはすごい敏感なんじゃないかな。言葉がしゃべれるから、大脳が発達しているから、人間が高等でそれ以外が下等動物って言う考え方はおかしいですよね。だって馬よりも速く走れないし、尺度を変えれば劣っている部分はたくさんありますから。

赤見:深い考え方ですね。

大竹:親が、何度も何度も落馬しても命があるってことは、大事にしている動物が助けてくれたのかなっていう考えだったんです。子供の頃にそういう話を聞いて、動物に対しては大事に扱っていかないとなって。それがちゃんと自分に還元されるんだよ、っていう教えでした。これからもその気持ちは大事にしていきたいです。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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