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陣営の総合力の勝利/エリザベス女王杯

  • 2015年11月16日(月) 18時00分


蛯名騎手のファインプレーも非常に大きい

 4歳マリアライト(父ディープインパクト)が、初重賞制覇をGI初挑戦で達成した。

 このレースが3歳以上となった1996年以降、JRAのGI初挑戦となった日本馬が勝ったのははじめてのこと。さすがに古馬がこういう頂点のビッグレースをGI初挑戦で勝つのはほかのGIでもめったにないが、重賞未勝利馬が、このエリザベス女王杯でGI馬となったのは「1997年エリモシック、06年フサイチパンドラ、09年クィーンスプマンテ、12年レインボーダリア、14年ラキシス、15年のマリアライト」。エリザベス女王杯が3歳以上になってちょうど20年間で、すでに6頭目。牝馬はやはり消長が激しいことを示している。

 今回は、さまざまな記録が重なった。「関東馬=関東馬」の決着は、1996年以降では初めて。エリザベス女王杯が3歳牝馬限定だった時代までさかのぼり、1979年、第1回の「ディアマンテ(稲葉幸夫厩舎)=ニッショウダイヤ(鈴木清厩舎)」以来、39年ぶり2度目のことになる。

 牝馬のビッグレースに好成績を残すのは、歴史の中では非常に重要なことで、こういう結果を残すとマリアライトの産駒は美浦の久保田貴士調教師のもとに預けられる可能性が高くなり、ヌーヴォレコルトの産駒も美浦の斎藤誠調教師の管理馬になる可能性が高まるからである。負け続けると、これが逆になってしまう。

 久保田貴士調教師は、うれしいGI初制覇。蛯名正義騎手は、これで同期の武豊騎手とともに史上2人だけの「牝馬限定GI完全制覇」ジョッキーとなった。

 雨の影響の残った芝は稍重。レースの流れは伏兵ウインリバティが先導することになったが、予想通りそう速くはならず、レース全体は「前半1000m60秒7-(12秒8)-後半1000m61秒4」=2分14秒9。どの馬にとっても有利不利のない平均ラップが刻まれることになったから、早め早めに好位に取りつき、「切れる有力馬に並ばれる前に一歩早くスパートした」ベテラン蛯名騎手の、読み勝ちのファインプレーが非常に大きかった。

 4歳マリアライトは今回が13戦目。昨年のラキシス(当時4歳)は11戦目の初重賞制覇がGIであり、前出の06年フサイチパンドラ(そのとき4歳)も11戦目の初重賞制覇だった。理由はさまざまに分かれるが、牝馬がビッグレースを制するには、身体の弱い部分がなくなり、成長していよいよ本物に近づいたときに、プラスアルファをもたらす活力も温存されていなければ不可能である。ビッグレースを勝ちたいなら「余計なレースに出走しない方がいい」は、真理だった。小さな体で、なかなか思うように調教を重ねられなかった体質の弱いマリアライトにビッグレース制覇をもたらしたのは、陣営(厩舎、牧場など)の総合力の勝利である。

 1番人気で2着にとどまったヌーヴォレコルト(父ハーツクライ)は、これでGI【1-3-1-2】となった。オークスを制し、ローズSを勝ち、中山記念も制して、4歳のここまで重賞成績通算【3-5-1-2】。文句なしの、素晴らしい成績である。たしかにこれで、残念な「クビ差2着」のGI惜敗3回目となったが、同馬に「クビ差」で勝った秋華賞のショウナンパンドラも、やっぱり「クビ差」で勝ったエリザベス女王杯のラキシスも、同じく「クビ差」で勝った今回のマリアライトも、ヌーヴォレコルトに「クビ差」で負けて引退したハープスターもいる。ヌーヴォレコルトのライバルはみんな「クビ差仲間」GIの1勝馬である。無念の、きびしいGI惜敗だが、激しく悔しがったら、翌日にはもう、苦心を重ねて勝った同期マリアライトのがんばりを称える時、ヌーヴォレコルトはさらに高く評価される存在となるだろう。

 人気を分けたラキシスは、ムーア騎手が乗り、当面の強敵ヌーヴォレコルトが18番枠を引いたのに、だんだん評価の下がる2番人気にとどまった。チャンピオン牝馬であり、エリザベス女王杯連覇もかかっていたが、札幌記念5着→京都大賞典4着は、ステップレースだからそれで悪くはないが、本当はエリザベス女王杯が最大目標ではなかったろう。ローテーションからして、「ラキシスはどことなく変…」。完調ではなかったかもしれない。当日の馬体もどこといってラキシスに難点などあるわけもないが、やけにひょろり頼りなく映った。ムーア騎手は「コーナーで挟まれたのが敗因」とコメントしたが、たしかにそれもあるが、それが本当の敗因ではないように感じられた。みんなが絶好調などありえない。仕方がない。

 一日の長を感じさせて「4歳=4歳」の1-2着が成立した中、一気に突っ込んでヌーヴォレコルトとハナ差3着のタッチングスピーチ(父ディープインパクト)、そこから半馬身差の4着ルージュバック(父マンハッタンカフェ)は、3歳牝馬のトップグループの中でも厳しいレースをした経験が少なかったり、長期の休み明けだったりしたから、この小差快走は見事。確実に進む世代交代を感じさせると同時に、ミッキークイーン、ショウナンアデラ、そしてこの2頭に、クイーンズリング(8着)…。この世代のトップ牝馬の層は厚い。このあとが実に楽しみである。

 伏兵として期待したフーラブライド(父ゴールドアリュール)は、内枠を利して果敢に先行。マリアライトと一緒にスパートしたかったが、6歳末のベテランとあって、最後の勝負どころでもうひとつ上のギアに切り替わらなかった。伏兵らしく積極策で力は出し切っている。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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