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少なくとも兄と同じくらいの活躍は約束された/朝日杯FS

  • 2015年12月21日(月) 18時00分


ゴール前のストライドは、やっぱりエピファネイアの弟だった

 2冠馬ドゥラメンテを筆頭に、宝塚記念・天皇賞(秋)のラブリーデイ、桜花賞のレッツゴードンキ、さらには青葉賞のレーヴミストラル、目黒記念のヒットザターゲット、ニュージーランドTのヤマカツエースなど…。現2歳世代ではデイリー杯2歳Sのエアスピネルを送り出す種牡馬キングカメハメハ(父キングマンボ)が、また1頭、来季の大活躍を約束させる大器リオンディーズ(母シーザリオ)を登場させた。阪神JFを圧勝した牝馬メジャーエンブレム(父ダイワメジャー)と同様に、3歳クラシック路線の強力な「能力基準馬」出現である。

 キングカメハメハは、産駒が4歳に達した2010年以降、種牡馬総合ランキング「1位、1位、2位、2位、2位」、そして今年も現在2位。ディープインパクトとともに日本の種牡馬の先頭に立っているが、2013年の種付け頭数は81頭にとどまり、昨2014年が143頭、今春2015年も108頭止まり。2010-12年は連続して「250頭」以上を記録したほどだから、本当なら他のトップサイアーを圧倒する種付け頭数をこなして不思議ないが、体調もう一歩のため(あまり無理はできない)、交配数をだいぶひかえている。

 ところが、父キングカメハメハの体調がすぐれない。そんなニュースが伝わると、産駒たちのこれまでにも増しての活躍が始まっている。父に同じキングカメハメハを持つ、2002年生まれの牝馬エアメサイアの「エアスピネル」と、同期シーザリオの「リオンディーズ」の初対決は、人気通り2頭のマッチレースとなり、勝ったのはここがまだ2戦目のリオンディーズだった。

 名牝シーザリオ(父スペシャルウィーク)の第6番仔にあたるリオンディーズは、2013年の菊花賞を独走、2014年のジャパンCをちぎって勝った半兄エピファネイア(父シンボリクリスエス)とそんなには似ていないタイプに育っている、と伝えられた時期もあったが、11月の新馬戦2000mを楽勝したゴール前のストライドは、やっぱりエピファネイアの弟だった。

 エピファネイアは、「新馬1800m→京都2歳S→ラジオNIKKEI杯2歳S…」の3連勝でスタートし、やがて3歳秋の菊花賞、4歳秋のジャパンC圧勝の過程をたどったが、弟は新馬2000mのあと、いきなりGI朝日杯FSを快勝である。少なくともエピファネイアと同じくらいの大活躍は今回の快勝で約束されただろう。

 レース全体の流れは、前後半「47秒3-47秒1」=1分34秒4。一応は平均バランスながら、前半1000m通過「60秒0-上がり34秒4(11秒9-10秒8-11秒7)」だから、マイルとすればスローに近い。そのため行きたがって首を上げた馬もいたが、大半の馬にとっては現時点(2歳秋)の能力をムリなく発揮しやすい流れでもあった。

 勝ったリオンディーズの1分34秒4は、自身「61秒1-33秒3-(推定11秒4)」。初戦の新馬は2000mにしては超スローではなく「62秒4-59秒8」=2分02秒2。それをリオンディーズは前半を推定「63秒2」で通過し、レース上がり33秒9(11秒8-11秒1-11秒0)の決着を、自身は33秒4で抜け出した。まさにエピファネイアの弟にふさわしい、大跳びで、それでいて鋭く切れたゴール前だった。

 今回のリオンディーズは、マイルだから流れは異なる。最後方近くからの追走ながら、同馬の1000m通過は、デビュー戦の2000mより「2秒1」も速い。ところが、後半3ハロンは、新馬戦の記録を逆に上回る「33秒3」である。10秒8のラップが刻まれた地点で、先頭に立っていたエアスピネルを一気に追い詰めてみせた。エアスピネルがゴール寸前に鈍ったわけではない。一気にかわしたリオンディーズの迫力勝ち、鋭さ勝ちである。

 直線に向いたところでは人気に応え完勝か、と映ったエアスピネルは1分34秒5。自身「60秒5-34秒0」は、少々の馬場差はあっても、阪神1600mの新馬を快勝した1分34秒5(60秒6-33秒9)と中身のバランスまでまったく同一の走破タイムだった。

 新馬戦の内容と、今回の中身がほとんど同一なのが心配と同時に、鮮やかに差し切ったリオンディーズに比べると、ゴール寸前のフットワークは、迫力も、のびやかさもかなり見劣った印象が残った。ここが不満。もっとも、新馬戦、次のデイリー杯2歳Sのゴール前のストライドもほとんど同様で、なにも大跳びのリオンディーズと比較する必要はないが、どことなく脚さばきが窮屈に映ってしまうのがエアスピネルの物足りない点か。負けたとはいえ、3着シャドウアプローチ(父ジャングルポケット)には、マイル戦では決定的ともいえる4馬身の差をつけている。リオンディーズがいなければ「大楽勝」である。しかし、現実にはリオンディーズが存在し、これでシーザリオ母仔に、エアメサイア=エアスピネル親子は「3戦3敗」となってしまった。

 陣営は「3回目で今回の走りが一番いい。幼さが解消する来年はもっと良くなる」と前向きであり、実際、ライバル=リオンディーズとの戦いは始まったばかりだが、今回の対戦を終えた時点では「末恐ろしい相手が出現してしまった」ことを認めるしかない。ただ今回、仕草は2戦目と変わりなくても、内面の「気負い」が意外に大きなマイナスだった救いはある。変にはやっていた。

 3着したシャドウアプローチ(11番人気)は正攻法で挑戦し、テン乗りになった中谷雄太騎手の積極的な騎乗が光った。前の2頭からこの流れで「4馬身差」は大きいが、1600mは初距離だった。一歩前進は間違いない。

 巻き返しが期待されたシュウジ(父キンシャサノキセキ)は、絶好調はたしかだったが、またまたかかってしまった。このあともマイル以下の路線を歩むと思えるが、なんとか折り合いをクリアしたい。父キンシャサノキセキも「行きたがって、行きたがって」折り合いを習得するまで大変な時期があった。G1高松宮記念を連勝したのは(南半球産ながら)、7-8歳時である。

 そのキンシャサノキセキ産駒(ほかにサイモンゼーレアドマイヤモラール)と、注目のダイワメジャー産駒(ボールライト二ングショウナンライズタイセイサミット)は、もちろんひとくくりになどできるわけもなく、牝馬メジャーエンブレムのように楽々と1600mをこなして当然である一方、2歳種牡馬ランキングで脚光を浴びるくらいだから、本質1200-1400m向きというタイプがかなり多いのも事実である。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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