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速い脚が長つづきするのが最大の長所/皐月賞

  • 2016年04月18日(月) 18時00分


蛯名騎手のダービー制覇の機は十分すぎるほど熟している


 サトノダイヤモンドリオンディーズマカヒキが人気を3分したため、重要なステップ=共同通信杯の勝ち馬ながら、大きく人気を落とす形になったディーマジェスティ(父ディープインパクト)が鮮やかに逆襲してみせた。

 3強とされた人気の3頭も決して評価の下がるようなレースをしたわけではないから、今年の牡馬クラシックは皐月賞を終えた時点で、少なくとも上位4頭が最有力グループを形成し、これにスマートオーディン、皐月賞4着のエアスピネルを加え、さらに直前に新星が加わってくることを期待すると、上位数頭が大きく支持を分け合う「日本ダービー」になるはずである。3強より、4強、5強の方がはるかに見応えのある充実のクラシックであり、皐月賞がレースレコードで決着したくらいだから、全体レベルは期待通り高い。

 2歳11月にマウントロブソンを降して東京2000mの未勝利戦を勝ったディーマジェスティは、ホープフルSを取り消したので、共同通信杯は6番人気。そのあと馬体の成長を待ってまた間隔を空けたから、皐月賞は8番人気。高い評価を受けにくい伏兵の立場をつづけてきたが、追い通しで馬込みを抜け出た共同通信杯は底力の勝利であり、東京芝は【2-0-0-0】。

 コースにも最外枠にも死角のあった皐月賞で後方からロングスパートを決め、3強とされたグループをねじ伏せるように差し切り勝ち。成長をうながしつつ素晴らしい状態に仕上げた二ノ宮敬宇調教師の手腕は見事である。ディーマジェスティは、速い脚が長つづきするのが最大の長所か。コンビの蛯名正義騎手(47)は、ここまで日本ダービー【0-2-1-20】。12年のフェノーメノはハナ差2着。14年のイスラボニータも小差2着。機は十分すぎるほど熟している。

 父ディープインパクトは、初めて皐月賞馬を送った今年、上位3着までを独占してみせた。ホエールキャプチャのオーナーとして知られる嶋田賢氏のオーナーブリーディングホースで、96年の皐月賞馬イシノサンデーにつづく快挙達成の生産牧場=新ひだか町の服部牧場も、決してビッグネームではない。

 ディーマジェスティの祖母は、英ダービー馬ジェネラス、マイラーズCのオースミタイクーンなどの下になるシンコウエルメス。トリプティク、その母トリリオン、凱旋門賞2連勝のトレヴ、さらには安田記念のブリッシュラックなど、世界の名馬を送る牝系であり、ディーマジェスティの直近の母方に配された種牡馬は、ブライアンズタイム、サドラーズウェルズ。共同通信杯ではかなり馬場の悪かったインから進出している。一転、ファンの高い支持を受け、日本ダービーの主役となる十分な背景を持っている。

 マカヒキ(父ディープインパクト)は、テン乗りの川田将雅騎手が「持ち味の切れを最大限に生かす」ことを公言していたから、考えられていた通りのレース運びだった。ディーマジェスティのさらに外に回り、「トモの送りが似ている」としたハープスターを思わせる大外強襲。直線はそれこそ1頭だけ離れた大外だった。上がりはメンバー中最速の「33秒9」。今回は最初から注文をつけたレースに徹していたから、勝機はつかみにくい2着だったが、日本ダービーではひと味違ったレースを展開してくれるだろう。

 京都牝馬Sなど6勝(1200m-1800m)している6歳牝馬ウリウリの全弟。姉のイメージと、ちょっと寸の詰まった体型を重ね合わせると、初の左回りになる東京2400mに心配はあるが、同じ3歳馬同士の2400mではみんなが苦しいので距離適性はそう問われないこと。

 厳しい流れの中山の2000mをこなしたから、流れの緩むことの多い東京なら、日本ダービーの距離はこなせる可能性が高いこと。また、明らかにウリウリをしのぐスケールに恵まれていることからみて、3歳春の時点ではスタミナ能力をそう心配する必要はないだろう。レース前に3強とされた中では、最先着した自信も加わる。

 正攻法の位置取りから、スルスルと進出してきたサトノダイヤモンド(父ディープインパクト)には、こと展開面ではまったく不利のない皐月賞だった。レースの流れ、位置取りからすると、坂を上がる地点では、「勝ってください」という状況だったかもしれない。

「最後の坂で甘くなってしまったのは、久々の分か(ルメール騎手)」。たしかにそれはだれでも納得するところで、きさらぎ賞から2カ月の間隔を取っての皐月賞挑戦は、日本ダービーを勝つためには、「勝てるならそんな素晴らしいことはないが、日本ダービー制覇のためには皐月賞は負けてもいい」そういうローテーションと仕上げだったから、陣営、落胆はない。

 ただ、長いクラシックの歴史が伝えるのは、アメリカのケンタッキーダービーと同じで、初対戦になる「皐月賞を制した馬がもっとも強い」可能性をだれも否定できない。実際、皐月賞馬と、日本ダービー馬が菊花賞で対戦すると、皐月賞馬が先着するケースが断然多い。さらに、勝ったディーマジェスティの共同通信杯と、サトノダイヤモンドのきさらぎ賞はたった1週違いであり、今年の場合、ローテーションを敗因にするのは無理がある。変身していたディーマジェスティは心配された右回りを克服しての完勝である。

 サトノダイヤモンドの伸び伸びみせる体つきは素晴らしい。「大跳びで東京向きだろう」とする関係者やファンは多いが、ここへきて「案外、変わっていない」とみる記者もいる。1番人気で3着。惜しかったが、完敗だったのも事実である。評価の分かれる日本ダービーとなるだろう。

 リオンディーズ(父キングカメハメハ)は、好スタートで2番手につけた鞍上のデムーロ騎手が、最初から強気な攻めの姿勢をとった。「時計の速いコンディションで追い込みにくい(デムーロ騎手)」という読みがあった。しかし、前半1000m通過「58秒4」の厳しいハイペースになった10ハロン標識で、リスペクトアース(17着)をかわして先頭に立っている。強風で向こう正面は強い向かい風。ペース判断がきわめて難しかったと思えるが、そのあと自分から「11秒5」の加速ラップを踏んだから、前半1200m通過は「1分09秒9」、1600m通過は「1分34秒5」となった。さすがに自身で主導権をにぎって作ったペースがきつすぎた。レースバランスは「58秒4-59秒5」=1分57秒9(レース上がり35秒6)である。

 直線、苦しくなったところで、外から来たエアスピネル、サトノダイヤモンド、ナムラシングンの3頭に自ら馬体を併せに出て、右ムチを入れたことで斜行。結果、降着ペナルティ。強い風がペース判断を狂わせ、さらに向こう正面の向かい風がスタミナ消耗につながる不運が重なったが、先週のルメール騎手とは逆に、ちょっと激しすぎる騎乗が敗因だろう。あのペースで大バテしたわけではないから、もちろん日本ダービーで巻き返してくるが、では、今度は控えて進むのか。日本ダービーを考えると、レース運びが難しくなった。ただ、リオンディーズ自身は(最大の敗因にするほど)ムキになって行きたがっていたわけではないように見えた。

 今回も正攻法に出たエアスピネル(父キングカメハメハ)は、着差は少なく、着順繰り上がりになるほどの大きな不利もあったが、マカヒキと0秒3差は弥生賞と同じである。5番人気のロードクエスト(父マツリダゴッホ)は、今回の素晴らしい状態で8着はきびしい。まだまだ挑戦の途中であり、日本ダービーを展望する予定だが、疲れがなければNHKマイルCの手もあるだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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