東京で最後に勝ち負けするのは「総合能力上位の実力馬」
15年のオークス2着のあと、体調を崩すなどして足踏みしていた4歳牝馬
ルージュバック(父マンハッタンカフェ)が、ようやく完全復活。素晴らしい切れ味を爆発させた。
知られるように近年のエプソムCは4歳馬の出世レースであり、15年の1着馬エイシンヒカリ(のちに香港C、イスパーン賞)、13年の2着馬ジャスタウェイ(天皇賞・秋、ドバイDF、安田記念)、12年の2着馬ダノンシャーク(マイルCS)がその代表格。
4歳馬という理由で人気になった4着
ロジチャリス(父ダイワメジャー)、7着
アルバートドック(父ディープインパクト)も、少しも悲観することはない。10年ストロングリターン(安田記念)、08年ショウワモダン(安田記念)、07年ファイングレイン(高松宮記念)など、4歳春のエプソムCで期待され、それなりの成績を残した馬からのちのG1ホースが誕生している。
クラス再編成が行われた直後のここに出走できる4歳馬はごく少ない(今年は3頭)。ロジチャリスも、アルバートドックも、さすがにG1級ルージュバックのようにはいかなかったが、ここに出走した4歳馬である。肩入れしたファンは、いつまでも忘れないでおきたい。
勝ったルージュバックは、1994年のワコーチカコ(のちにも重賞3勝)以来の牝馬の勝ち馬であり、大外18番枠から東京1800mの重賞レースを勝ったのは(出走数は少ないが)、グレード制導入後、なんと初めてだった。これで、きさらぎ賞を含め1800mは【3-1-0-0】となった。オークス2着もあるので、こなせる距離の幅は広いが、2000m前後がベストとすると、どうやら秋の最初の目標は天皇賞・秋か。
レースの流れは、
マイネルミラノ(父ステイゴールド)の単騎マイペースで、前半1000m通過は「60秒5」のスロー。後半4ハロンが「11秒8-11秒0-11秒4-11秒5」=45秒7-33秒9の高速レースになったが、近年の東京の芝のレースは1400-2000m級のスピードレースでも緩い流れになるのがふつうになり、G1安田記念でさえ「47秒0-46秒0」の前後半である。
しかし、たとえ緩い流れでも東京で最後に勝ち負けするのは「総合能力上位の実力馬」というのがだいたいのパターンであり、18番枠から中位の外につけたルージュバックの後半は「44秒4(推定)-32秒8」だった。こういう切れを最大の持ち味とする馬(とくに牝馬)に戸崎圭太騎手は抜群に合う。負担をかけずに追走し、追い出して鞍上で暴れない。ストレイトガールなど…。
ルージュバックの父マンハッタンカフェは、今年、「ジョーカプチーノ(すでに産駒が東京で新馬勝ち)、ヒルノダムール(産駒は門別で未勝利戦勝ち)、マンハッタンスカイ」。この3頭の新種牡馬を、初の後継種牡馬として登場させている。種牡馬の父としても成功するのか、がかかっている。ルージュバックの復活・本格化は大きな後押しとなるだろう。
ルージュバックの母ジンジャーパンチ(父オーサムアゲイン)は、BCディスタフなどGI6勝の07年の米古馬牝馬チャンピオン。だから、高額で購入されたのだが、ジンジャーパンチの血統表には4代前にプロミストランドの名前がある。サンデーサイレンスの母の父アンダースタンディングは、その父がプロミストランドである。この牝馬(2009年に輸入)にサンデーの後継種牡馬を配すれば、Promised Landの「S5×M5」となる。クロス自体にそう大きな意味はなくとも、天才サンデーサイレンスの基盤となった血は、確実に継続される約束ができたのである。
スローから高速上がりになった流れは、寸前までマイネルミラノが粘ったように差し馬には苦しかったが、負担重量58キロもあって外の16番枠では行き脚がつかなかった
フルーキー(父リダウツチョイス)は、直線も大外から突っ込んで2着確保。後方から上がり33秒0で伸びた。
6歳フルーキーは、これで全成績【7-4-3-7】のうち、掲示板に載らなかったのは3歳秋の菊花賞3000mだけであるのは知られるが、今回の2着で、めったに凡走しない底力を秘めることを改めて証明した。名牝系の出身であり、日本では数少ないリダウツチョイス(父デインヒル)の活躍馬。重賞勝ちがチャレンジCだけなのは物足りないが、もうひとつくらい獲得タイトルが加わると、種牡馬候補になりえる。とくに切れるというタイプではないが、欧州血統がベースとあって、4歳以降、負担重量57キロ以上では【4-2-1-0】。今回もそうだったように、軽いハンデだから走るという非力なタイプではないのである。
マイネルミラノは巧みなペースの逃げで粘ったが、今回は1-2着した相手が悪かった。また、マイネルミラノを追走したグループが力量不足だったため、ちょっと楽なペースになりすぎたのがかえって良くなかった。自身の上がりは「34秒3」。最近ではもっとも速く、少しもバテていないが、切れる馬にとっては追走が楽なペースだった。
2番人気のロジチャリスは、残る数字の上ではいくらも負けていないが、本質的にそう切れるタイプではないから、東京1800mのわりにスローになってしまったのが敗因。オープンで自力スパートというのも苦しいが、こういう高速上がりのレースに対応する作戦を考えたい。
このロジチャリスも、アルバートドックも該当するが、
マイネルホウオウ、
レコンダイト、
ショウナンバッハ、
アルマディヴァン、
サトノギャラント…など、エプソムCに賞金順位下位で出走した馬は、実際はこのあとが大変である。出世レースであると同時に、エプソムC出走馬の多くは、夏休みを取ったりしていては秋に希望するレースに出走できるとは限らないグループでもある。相手の手薄な夏に賞金加算に成功しないと、秋の展望はひらけない。休んでなどいられない。