スマートフォン版へ

素晴らしい切れ味が爆発/エプソムC

  • 2016年06月13日(月) 18時00分


東京で最後に勝ち負けするのは「総合能力上位の実力馬」

 15年のオークス2着のあと、体調を崩すなどして足踏みしていた4歳牝馬ルージュバック(父マンハッタンカフェ)が、ようやく完全復活。素晴らしい切れ味を爆発させた。

 知られるように近年のエプソムCは4歳馬の出世レースであり、15年の1着馬エイシンヒカリ(のちに香港C、イスパーン賞)、13年の2着馬ジャスタウェイ(天皇賞・秋、ドバイDF、安田記念)、12年の2着馬ダノンシャーク(マイルCS)がその代表格。

 4歳馬という理由で人気になった4着ロジチャリス(父ダイワメジャー)、7着アルバートドック(父ディープインパクト)も、少しも悲観することはない。10年ストロングリターン(安田記念)、08年ショウワモダン(安田記念)、07年ファイングレイン(高松宮記念)など、4歳春のエプソムCで期待され、それなりの成績を残した馬からのちのG1ホースが誕生している。

 クラス再編成が行われた直後のここに出走できる4歳馬はごく少ない(今年は3頭)。ロジチャリスも、アルバートドックも、さすがにG1級ルージュバックのようにはいかなかったが、ここに出走した4歳馬である。肩入れしたファンは、いつまでも忘れないでおきたい。

 勝ったルージュバックは、1994年のワコーチカコ(のちにも重賞3勝)以来の牝馬の勝ち馬であり、大外18番枠から東京1800mの重賞レースを勝ったのは(出走数は少ないが)、グレード制導入後、なんと初めてだった。これで、きさらぎ賞を含め1800mは【3-1-0-0】となった。オークス2着もあるので、こなせる距離の幅は広いが、2000m前後がベストとすると、どうやら秋の最初の目標は天皇賞・秋か。

 レースの流れは、マイネルミラノ(父ステイゴールド)の単騎マイペースで、前半1000m通過は「60秒5」のスロー。後半4ハロンが「11秒8-11秒0-11秒4-11秒5」=45秒7-33秒9の高速レースになったが、近年の東京の芝のレースは1400-2000m級のスピードレースでも緩い流れになるのがふつうになり、G1安田記念でさえ「47秒0-46秒0」の前後半である。

 しかし、たとえ緩い流れでも東京で最後に勝ち負けするのは「総合能力上位の実力馬」というのがだいたいのパターンであり、18番枠から中位の外につけたルージュバックの後半は「44秒4(推定)-32秒8」だった。こういう切れを最大の持ち味とする馬(とくに牝馬)に戸崎圭太騎手は抜群に合う。負担をかけずに追走し、追い出して鞍上で暴れない。ストレイトガールなど…。

 ルージュバックの父マンハッタンカフェは、今年、「ジョーカプチーノ(すでに産駒が東京で新馬勝ち)、ヒルノダムール(産駒は門別で未勝利戦勝ち)、マンハッタンスカイ」。この3頭の新種牡馬を、初の後継種牡馬として登場させている。種牡馬の父としても成功するのか、がかかっている。ルージュバックの復活・本格化は大きな後押しとなるだろう。

 ルージュバックの母ジンジャーパンチ(父オーサムアゲイン)は、BCディスタフなどGI6勝の07年の米古馬牝馬チャンピオン。だから、高額で購入されたのだが、ジンジャーパンチの血統表には4代前にプロミストランドの名前がある。サンデーサイレンスの母の父アンダースタンディングは、その父がプロミストランドである。この牝馬(2009年に輸入)にサンデーの後継種牡馬を配すれば、Promised Landの「S5×M5」となる。クロス自体にそう大きな意味はなくとも、天才サンデーサイレンスの基盤となった血は、確実に継続される約束ができたのである。

 スローから高速上がりになった流れは、寸前までマイネルミラノが粘ったように差し馬には苦しかったが、負担重量58キロもあって外の16番枠では行き脚がつかなかったフルーキー(父リダウツチョイス)は、直線も大外から突っ込んで2着確保。後方から上がり33秒0で伸びた。

 6歳フルーキーは、これで全成績【7-4-3-7】のうち、掲示板に載らなかったのは3歳秋の菊花賞3000mだけであるのは知られるが、今回の2着で、めったに凡走しない底力を秘めることを改めて証明した。名牝系の出身であり、日本では数少ないリダウツチョイス(父デインヒル)の活躍馬。重賞勝ちがチャレンジCだけなのは物足りないが、もうひとつくらい獲得タイトルが加わると、種牡馬候補になりえる。とくに切れるというタイプではないが、欧州血統がベースとあって、4歳以降、負担重量57キロ以上では【4-2-1-0】。今回もそうだったように、軽いハンデだから走るという非力なタイプではないのである。

 マイネルミラノは巧みなペースの逃げで粘ったが、今回は1-2着した相手が悪かった。また、マイネルミラノを追走したグループが力量不足だったため、ちょっと楽なペースになりすぎたのがかえって良くなかった。自身の上がりは「34秒3」。最近ではもっとも速く、少しもバテていないが、切れる馬にとっては追走が楽なペースだった。

 2番人気のロジチャリスは、残る数字の上ではいくらも負けていないが、本質的にそう切れるタイプではないから、東京1800mのわりにスローになってしまったのが敗因。オープンで自力スパートというのも苦しいが、こういう高速上がりのレースに対応する作戦を考えたい。

 このロジチャリスも、アルバートドックも該当するが、マイネルホウオウレコンダイトショウナンバッハアルマディヴァンサトノギャラント…など、エプソムCに賞金順位下位で出走した馬は、実際はこのあとが大変である。出世レースであると同時に、エプソムC出走馬の多くは、夏休みを取ったりしていては秋に希望するレースに出走できるとは限らないグループでもある。相手の手薄な夏に賞金加算に成功しないと、秋の展望はひらけない。休んでなどいられない。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング