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馬場が渋れば天皇賞でもチャンスが/札幌記念

  • 2016年08月22日(月) 18時00分


期待通りの結果を出した厩舎力は見事

 C.ルメール騎手が「ジョーカーを切った」と会心の騎乗を振り返るネオリアリズム(父ネオユニヴァース)の逃げ切りが決まった。

 同じ堀厩舎のモーリス(父スクリーンヒーロー)と併せた17日の函館芝の追い切りでは、少し追いかける形をとったとはいえ、最後の競り合いではスケールの差を見せつけられたかのように劣勢だったが、5歳ネオリアリズムには札幌コースに対する抜群の適性があった。これで札幌の芝はすべてルメール騎手とのコンビで【3-0-0-0】。3戦ともに完勝である。

 ネオリアリズムには競走年齢に達した兄弟馬が12頭もいるが、そのうち同じ堀厩舎のリアルインパクト(父ディープインパクト)には札幌コースの出走歴がなく、ほかにも札幌で勝った記録を持つ馬はいない。注目の同厩モーリスに距離克服の大きなテーマがある大事な一戦を承知で(2頭のオーナーは事実上は同じとはいえ)、あえてネオリアリズムをここに出走させ、期待通りの結果を出した厩舎力は見事なものである。

 ルメール騎手の逃げ作戦は、意識的に相手のスタミナ不安を衝こうとするもので、差しにくい渋った馬場だからこそ前半から他馬にも脚を使わせるように「59秒9〜61秒8」=2分01秒7。道中でペースを落とすことなく、後続に楽をさせなかった。

 これで芝2000m【4-1-0-4】となったネオリアリズムの最高時計は、函館記念6着の1分59秒9(上がり35秒7)なので、オーナーサイドが「これで直行する」と明言する天皇賞・秋2000mでの評価は微妙だが、母トキオリアリティー(その父メドウレイク)産駒はリアルインパクトだけでなく、アイルラヴァゲイン(父エルコンドルパサー)などスピード色が濃いものの、父ネオユニヴァースの影響力が強いネオリアリズムは快速系ではない代わりに、しぶいパワーがある。

 リアルインパクトと同様、自分でレースの主導権をにぎると簡単にはバテない粘り強さも特徴のひとつ。天皇賞・秋が1分58秒0前後になるのは歓迎ではないが、今回と同じように渋ったタフな馬場になるようだとチャンスが生まれるかもしれない。

 J.モレイラ騎手が騎乗した注目のモーリスは、残念ながら2着に沈んでしまった。2000mの天皇賞・秋を展望する陣営にとって、完敗の2着は大きなショックと映ったが、勝負どころの3コーナー過ぎからモレイラ騎手が再三気合をつけていたあたり、回復しかかった馬場に再び雨が重なり、稍重の発表以上に重くなった馬場を苦にしたのが最大の敗因だろう。マイルを1分32秒台で快走するモーリスが「洋芝の渋馬場」を苦にするのは仕方のないことで、最後は追撃をあきらめたように2分02秒0(上がり36秒3)にとどまったのはやむを得ないように思えた。

 これで距離1800m以上は【1-1-1-2】。折り合いを欠かなければ、2400m級でも大丈夫というほど万能型ではない失望は生じたが、実質は重馬場にも相当する洋芝の2000mを乗り切ったのだから、天皇賞・秋の2000mに対する距離不安はないだろう。前回の安田記念を迎えるまでの通算成績は【9-0-1-4】だった。勝つときはあっさり完勝。負けるときは完敗だった天才タイプが、ここ2戦は苦しい「2着、2着」でしのいでいる。さらなる前進に結びつくことを期待したい。ただ、いつものことではあるが、天皇賞・秋の鞍上は大丈夫なのだろうか。

 3着レインボーライン(父ステイゴールド)の3着は立派。タフな芝で、これまでよりはるかに強力な相手に善戦は価値がある。NHKマイルCを1分32秒9で小差3着しているのがここまでもっとも中身のあるレースの印象があったが、これで札幌の芝1800m以上【1-2-1-0】となった。ステイゴールド産駒で、母の父はフレンチデピュティ。祖母の父はレインボーアンバー(不良の弥生賞を大差勝ちのアンバーシャダイ産駒)。2000〜2400m級のタフな馬場コンディションで真価発揮のスタミナ兼備型に育ってくれる可能性が高くなった。少し非力な印象もあった姉のアニメイトバイオ(父ゼンノロブロイ)以上のタフな活躍が期待できるだろう。

 アメリカ遠征を前にしたヌーヴォレコルト(父ハーツクライ)は、好位のインでロスなくレースを展開させたが、ちょっと差のある4着。札幌に滞在して前走比14キロ減の馬体重「448」は、数字の上では好調時と変わりない馬体重だが、こころなしか元気がないように映った。昨秋のエリザベス女王杯2着、香港C2着など、中身のある惜敗を含むとはいえ、これで4歳春以降は【0-3-0-5】。もともとタフな牝馬に陰りや衰えがあるわけではないが、勢いに乗ってのアメリカ遠征とはならない心配が生じた。

 4歳ヤマカツエース(父キングカメハメハ)のデキは良かった。これまで北海道シリーズの洋芝はそれなりにこなし馬場を問わないタイプと思えたが、今回の渋馬場は稍重発表以上にタフなコンディションだったのだろう。スパートしたものの、最後は止まってしまった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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