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秋には大仕事をしてくれるかもしれない/新潟記念

  • 2016年09月05日(月) 18時00分


レース全体はスローに近い

 8歳の伏兵メイショウナルトが単騎で飛ばしたため、数字に残るレースの表面上のペース(先頭の馬のラップ)は、前後半の1000m「58秒5-59秒0」=1分57秒5。新潟の外回り2000mにしては珍しいハイペースになった結果、現コースになって以降、3位タイの1分57秒5の速い時計が生まれたようにみえる。

 実際、メイショウナルトの離して逃げるペースに少し幻惑され、いつもより早めに脚をつかって失速に追い込まれた馬もいるが、飛ばしたのは単騎のメイショウナルトだけで、離れた2番手以下のグループは少しも速くなかった。2〜3番手でも前半1000m通過は推定「60秒0」を切るか切らないかくらいか。脚のつかいどころが難しかったのである。レース全体はスローに近い。

 直線の入り口では後方17番手にいて勝ったアデイインザライフ(父ディープインパクト)の上がり3ハロンは「32秒7」であり、同じく最後方18番手から小差4着に突っ込んだベルーフ(父ハービンジャー)の後半3ハロンも「32秒8」。

 アデイインザライフの前後半バランスはレースラップから推測すると、少し誤差はあるだろうが「60秒8-56秒7」=1分57秒5に近く、後半は56秒5〜6かもしれない。ベルーフの推定前後半も「60秒9-56秒8」=1分57秒7である。これはハイペースに乗じて突っ込んだ前後半バランスではない。後半1000mも、上がりも速すぎる。

 極端にいうと、現在はどういうペースでも失速するメイショウナルトに関係したのはメイショウナルトの逃げに幻惑されつつ先行したグループ(16着ダコール、18着エキストラエンド、9着クランモンタナなど)だけで、勝ったアデイインザライフ、そのすぐ前の15〜16番手にいた3着ロンギングダンサー(父シンボリクリスエス)、2着アルバートドック(父ディープインパクト)、後方18番手にいた4着ベルーフは、われ関せず、みんな最後方追走の4頭である。

 スローになるケースの多い関屋記念、新潟2歳Sとそっくり同じように、最後の直線約660mまではできるだけスタミナロスのない楽な追走(助走)に徹し、直線に向いたら芝のいい1番外に回るという、新潟特有の「直線660mのレース」が展開されたのである。だから、アデイインザライフ、ベルーフの上がりは緩いスローペースでこそ記録される「32秒台」であり、アルバートドック、ロンギングダンサーの上がりも超高速の「33秒1〜2」だった。

 たまたまそういう脚質に近い馬ではあったが、上位4着までに乗っていた騎手は「横山典弘、戸崎圭太、吉田豊、田辺裕信」。みんな新潟外回りの変則ペースのレースに再三騎乗し、最後の「660mだけの新潟競馬」の特性を百も承知のジョッキーだけだった。珍しく人気馬が上位に複数台頭する結果は、好タイムの決着になったため、紛れに乗じて…の伏兵向きのレースではなかったのだろう

 メイショウナルトに幻惑され、そこで小出しに脚を使ってはならないという位置でレースを展開したのは、新潟の外回り2000mに慣れていない騎手だったかもしれない。

 勝ったアデイインザライフは、とてもディープインパクト産駒とは思えない560キロの大型馬。

 前回の1600万特別は大外に振られるように回らされての辛勝。休み明けで格上がりの今回は苦しいかと思えたが、平坦の長い直線は抜群に合っていた。5歳馬ながら、まだ【6-1-4-2】。陣営は、「まだまだ未完成でムリはできない」と、このあともすぐ放牧に出るが、このあとの広い東京なら能力全開だろう。この夏はたった1戦しかしていないが、この夏最大の上がり馬である。ファミリーは輸入牝馬コランディアから発展する、渋い成長力を誇るタフな一族。もともと平坦巧者の多い牝系であるが、パンとした状態に進化した秋には、大仕事をしてくれるかもしれない。

 2着して「サマー2000シリーズ」チャンピオンに輝いたアルバートドックは、いよいよ本格してきた4歳馬。ここまで経験の乏しかった左回りコースを、58キロをこなし1分57秒台で乗り切った自信は大きい。ヌレイエフ系種牡馬産駒の母はUSA産。マイラーの成績を残しているが、祖母の代から前は約1世紀もニュージーランドで存続してきた牝系の出身。勝ったアデイインザライフもそうだが、種牡馬ディープインパクトは相手の牝馬のファミリーに注文がない。というより、異色の牝系の秘める可能性を引き出してしまう種牡馬であり、今春のマカヒキも、サトノダイヤモンドも、近年になるほど異地域出身のファミリーを好むようなところがある。

 7歳ロンギングダンサー(父シンボリクリスエス)は、それこそ狙いすました新潟のハンデ重賞を自己最高の1分57秒7で乗り切ったが、自分よりハンデの重い馬に差し比べで及ばなかったから、これは仕方がない。「直線で勝ち馬より先に大外へ出していればもっときわどかったかもしれない(吉田豊騎手)」。でも、能力はほぼ出し切ったと思える。

 同じ7歳ファントムライト(父オペラハウス)は、今回はマイナス12キロで理想体重。巧みに流れに乗ったが、切れる馬だけが上位を独占するレースになって、渋い粘り腰が生きなかった。0秒3差は力負けではあるが、鋭さ負けでもあった。

 マイネルミラノ(父ステイゴールド)には非常にやりにくい展開になり、スパートして先頭に立ちかけたが、自己最高の1分57秒9を記録し、上がりも2000m級では自己最高の34秒1。あの形になってしまってはメイショウナルトをつぶしに出ても、それは無理筋である。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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