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惜福の勝利

  • 2016年09月15日(木) 12時00分


これからは王道を行く


 惜福ということばがある。費用をおしみて過分のおごりをなさざる義と辞書には記してあるが、幸田露伴によると、もう少し趣きがある。自ら訪れた福をすぐに使いきってしまうのではなく、二、三分残しておくことによって、そこからまた新しい福が育まれる。これを惜福というと書かれてある。この二、三分残しておくという考え方、ステップレースを戦うチャンピオンの立場に近い。この先にある大きな目標に向ってなにがしかの手応えをつかんでおきたい。だからと言って、無様なレースはしたくない。その戦い方はむずかしい。3月に高松宮記念をレコード勝ちしたビッグアーサーは、やはりセントウルSでは一番人気だった。

 5ヶ月半ぶりの実戦、別定斤量58キロでどう戦うのか。福永騎手の勝利後のコメントから、その背景が見えていた。気をつけていたスタートはうまく出て、あとは、メンバーを見てそんなに速くはならないだろうと自分のペースで先頭に。外からスノードラゴンが追い上げてきたので少し速くなり、仕掛けるとハミを取るところがあったが、スピードでは他を圧していた。完成された馬なのでこれからは王道を行くという思いで正攻法を貫き、これで次につなげたいと。これまでにない逃げるという戦い方、スプリントGI春秋連覇に向けてあと二、三分はあるのか、そこが大きなポイントになるのだが、福永騎手は、大型馬だからひと叩きされた上積はあるとスプリンターズSの抱負を述べていた。新しい福を約束する惜福の勝利と言っていいだろう。

 波乱があって当然の京成杯オータムHは、久々に一番人気馬が勝利した。池添騎手が手綱を取って4戦目。皐月賞、ダービーは大きく負けたが、NHKマイルCは2着に来ていたロードクエスト。ダービーは岩田騎手だったが、主戦はこちらだろう。先々につながる競馬をしたいとのぞみ、余裕の勝利に見えた。ロードクエストは、これでマイルは4戦3勝、2着1回、これで向うところはマイルCS、香港マイルとなりそうだ。あっさりと古馬勢を封じ込めたと言いたいが、池添騎手はもっと突き放してほしかったと述べていて、惜福の勝利と言うには、さらなる強化が待たれるというところか。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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