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巧みなコース取りで進出したM.デムーロ騎手/エリザベス女王杯

  • 2016年11月15日(火) 18時00分


狭くなった馬群を切り裂くように抜け出して快勝

 この日、3場のメインレースは、

福島記念2000mは「61秒0-59秒8」=2分00秒8
オーロC1400mは「35秒2-(11秒7)-34秒7」=1分21秒6
エ女王杯2200mは「61秒8-(12秒6)-58秒5」=2分12秒9

 3競走ともに典型的なスローペースで、福島記念も、オーロCも、伏兵の痛快な「逃げ切り」が決まった。エリザベス女王杯も、逃げた14番人気のプリメラアスールが上がり34秒6で差のない5着に粘り込んだように、前後半の1000mに「3秒3」もの差が生じる超スローだったが、そこはトップホースのそろった京都の外回りのG1。出遅れて最初は最後方グループにいた4歳クイーンズリング(父マンハッタンカフェ)が、M.デムーロ騎手の巧みなコース取りでインを通って進出。最後の直線も狭くなった馬群を切り裂くように抜け出して快勝した。

 好位で流れに乗って早めにインから抜けだした12番人気のシングウィズジョイ(父マンハッタンカフェ)がクビ差の2着。JRAによると今年の重賞レースで「デムーロ=ルメール」騎手の1着、2着の結果は「6回目」だという。

 みると、それはすべてG1〜G2の重賞競走であり、2人があまり一緒に乗ることのないG3では1回もない。ここまで行われたJRAのG1、G2競走は48レースなので、ちょうど8分の1は、デムーロ=ルメールのワン・ツーである。武豊騎手が勝ち続けた当時にも、こんな記録はなかったように思える。いまさら絶賛するまでもないが、出負けして最初は流れに乗れなかったクイーンズリングで巧みに進出して勝ったデムーロも、先週10勝もしてみんな絶好調を知りながら、それでも12番人気とどまったシングウィズジョイで「あわや」のシーンを作ったルメールもさすがである。素晴らしい。

 一方、1番人気に支持された昨年の勝ち馬マリアライト(父ディープインパクト)は、1コーナーの不利があってリズムを崩したか、シュンドルボン(父ハーツクライ)と並んで6着入線止まりだった。1コーナーの不利だけが敗因ではなく、レース上がり34秒1の鋭さ勝負になり、稍重の昨年は自身の上がり34秒7で混戦を割り、やっぱり稍重でのパワー勝負になり、上がり36秒3で差し切った宝塚記念とはレースの中身がちがったからだろう。

 たしかに、1コーナーで前が狭くなったマリアライト(蛯名騎手)のロスは非常に大きかった。危険を察知する能力にたけた蛯名騎手が手綱を引いたのは、瞬時の正しい判断と思えるが、そんなにハデに立ち上がるほど狭くなったのか、という見方もあるのは事実で、それぞれに少しずつ異なることを思った1コーナーだった。これはJRAのレース結果を伝えるページで確かめていただくしかない。

 JRAの結果コーナーには、レースリプレイだけでなく、全周パトロールビデオも、1コーナーのパトロールビデオも、このことに関する裁決の判断も載っている。ほとんどのファンのみなさんが何回も何度も再生していることだろう。そのほかの騎手も、多くの関係者も、みんな再生しそれぞれが異なる角度から、さまざまなことを思っているのである。

 裁決レポートは「この件は14番シャルールがわずかに内側に斜行したため、7番マキシマムドパリを介して、2番マリアライトの進路が狭くなって控え、さらにその後方を走行していた6番プロレタリアトの進路が狭くなったものでした。この件については14番シャルールの騎手福永祐一を戒告としました」である。

 わたしは関東のエースである蛯名正義騎手の活躍を尊敬するファンのひとりであり、大きく頼りにしているが、このレースに騎乗していた「ムーア、デムーロ、ルメール」騎手あたりだと、一気に手綱を引いて立ち上がったりはせず、またあの不利が(このレースでは)すべてだったと、そのことだけを敗因にはしないように思う。

 騎手は混戦の馬群に入ったら、たしかに命がけである。だからみんな細心の注意を払っている。G1のビッグレースで最初のコーナーのポジション争いはきびしい。とくに危ない。外から「わずかに内側に斜行し…」と戒告された福永騎手は、少しきびしい寄り方だったかもしれない。

 でも、マキシマムドパリの武豊騎手も、マリアライトの内側にいたミッキークイーンの浜中俊騎手も、マリアライトの蛯名騎手が手綱を引いてバランスを崩しかけたことなど一瞥もせず、まったく何事もなかったように前方をみてレースを進めている。

 いま、騎手界のエース格になった蛯名正義騎手(47)は、もう以前のように不利を必要以上にアピールするような若いころのオーバーアクションがなくなったことはみんな知っている。けれど、今回の裁決の判断は、とっさに危険を察知してマリアライトを引いた蛯名騎手の騎乗を素晴らしいとしながらも、しかし……、であった。オーバーアクションの蛯名正義の名残りはまだ全面的には消えていなかったのだ、と、再三パトロールビデオをみながら考えてしまった。

 マリアライトと、蛯名騎手は、わずかな斜行の被害者である。危険を未然に防いだ。ただし、シャルールの福永騎手は加害騎手というほどでもない。多頭数のG1レースでは、みんな厳しく攻め合うのは当然であり、活躍する蛯名騎手が見えない加害者だったレースは、被害を受けたレースと同数のはずである。興奮のレース直後とはいえ、実は、「あの不利がすべてだった」というトーンの振り返りが物足りなかったのである。

 ミッキークイーンは、ローテーションと決して追い込みタイプに有利ではない1番枠を考慮すれば、もうひとつ伸び切れずの3着は仕方がない。本格化に期待したシュンドルボンは、脚の使いどころが難しすぎるから、最後方近くに下げた時点で望みが消えた。ムーア騎乗で4番人気だったタッチングスピーチは、古馬になった現在は、休み明けは良くないのかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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