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直線一気のあざやかな初重賞制覇/根岸S

  • 2017年01月30日(月) 18時00分


◆得意の東京コースならフェブラリーSの距離は平気だろう

 出負け気味のスタートから最後方近くを進んだ人気のカフジテイク(父プリサイスエンド)が大外から直線一気を決め、あざやかな初重賞制覇。出走権をえた2月19日のG1「フェブラリーS」でも、連覇を狙うモーニン、14、15年の勝ち馬コパノリッキーなどと互角の評価を受ける注目馬となった。

 根岸Sが東京ダート1400mで行われるようになった2001年以降、さまざまなダート巧者がここをステップにフェブラリーSに挑戦しているが、良馬場で上がり「34秒5」の差し切りは最速の記録になる。レース全体の流れは「35秒0-(11秒9)-36秒1」=1分23秒0。ダートの短距離戦とあって一応前傾バランスだが、先行馬つぶれのハイペースではなく、勝ったカフジテイク自身の中身は推定「36秒7-(11秒8)-34秒5」=1分23秒0であり、先行馬の崩れに乗じて追い込んだという内容ではまったくない。

 良馬場の根岸Sを1分23秒0は、2位タイだが、2005年に福永祐一騎手が騎乗して7馬身差の独走を決めたメイショウボーラー(父タイキシャトル)の勝ちタイムと同じである。メイショウボーラーはフェブラリーSを1分34秒7(不良馬場)の快時計で押し切っている。今回のカフジテイクはそれこそ正反対の脚質だが、本番に向けての手ごたえは同じだろう。

 父プリサイスエンド(その父エンドスウィープ)は、2010年のこの根岸Sを制したグロリアスノアと同じ。4歳だったグロリアスノアはフェブラリーSこそ5着にとどまったが、秋には武蔵野Sを勝ち、当時のジャパンCダートをトランセンドの2着に快走している。アドマイヤムーン、サウスヴィグラスで知られるエンドスウィープ(父フォーティナイナー)系の広がりは素晴らしいものがあり、カフジテイクもずっと1400m以下が中心だったが、初の1600mだった2走前の武蔵野Sは1分34秒2(レコードの0秒4差3着)であり、3歳春以来2度目の出走となったダート1800mでも前回のチャンピオンズCをサウンドトゥルー(2月1日の川崎記念に出走)の0秒2差4着している。得意の東京コース【3-0-1-0】なら、フェブラリーSの距離は平気だろう。

 母の父は無類の成長力を伝えるスキャン。祖母の父ラシアンルーブルは、ナグルスキーなどとともに当時のダート血統の主流だったニジンスキー直仔で、フェブラリーH(当時)、帝王賞などを勝ったラシアンゴールドの父である。また、カフジテイクの牝系は伝説にも近いパワフルな一族であり、5代母ダイニクモゼキ(父ダイオライト)は、天皇賞・秋、AJCCなどの勝ち馬タカマガハラ(父クリノハナ)の母クモゼキの全姉になる。それは十分に古すぎるが、サラブレッドに新種は存在しないから血のつながりは絶えず古典的であり、サンデーサイレンスだってもう30年も前の馬。カフジテイクの4代父ミスタープロスペクーは、約50年も前の馬である。

 2番人気に支持されたのはベストマッチョ。父マッチョウノのサイアーラインは、もう170年も前から現代の主流血脈(ファラリス系)とはまったく別路線をたどって存続するので、いつも古典の世界から飛び出したように紹介される。系統別にすると、ダノンレジェンド、ノボトゥルー、ムーチョマッチョマンも同父系。まだ5戦4勝の注目の新星は、パドックでは悠然と歩く時間もあり、キリッと締まった素晴らしい馬体をみせたが、これが昨年の勝ち馬モーニンのように快速タイプだったら良かったが、このメンバーで外枠、ずっと外を回りながら差す形を求められてしまった。正攻法でぶつかって12着は仕方がない。底をみせていない未知の魅力にあふれていたが、ただ1頭の4歳馬にとって、格上がり、休み明けの不利もあった。

 昨16年は休み明けでフェブラリーS4着。15年も2ヶ月半ぶりでフェブラリーS3着のベストウォーリア(父マジェスティックウォリアーは昨年から日本に輸入され、交配数127頭)は、今年はここを叩いて本番のローテーションを取ってきた。58キロの7歳馬とあって、評価の分かれる3番人気だったが、流れに乗って抜け出し、一旦は勝ったかと思わせた。すべてダート戦のみに出走し、これで1600m以下に限れば23戦【9-7-4-3】であり、1800m以上【0-1-0-3】だとスタミナ不安が生じるものの、マイル以下なら馬券圏外に沈んだことはたった3回しかないという素晴らしいスピード能力を改めて示すことになった。フェブラリーSはここまで「13、3、4」着。今年は4年連続の出走になる。

 激しい3着争いは、最後の100mくらいになってエイシンバッケン(父ヨハネスブルグ)がものすごい勢いで突っ込んできた。猛然と伸びたのは、ゴール前の100mくらい。最後方からカフジテイクとは違って馬群の間を狙う作戦に出たが、2度、3度と前が詰まってブレーキをかけたように映ったから、岩田騎手も、陣営も、ファンも、みんな残念だった。でも、まだまだ賞金獲得額の少ないオープン馬ゆえ、勝たないことには(2着でも)フェブラリーS出走はかなわない。詰まる危険は承知の、思い切った騎乗だったかもしれない。

 大駆けを期待した9歳タールタン(父タピット)は、外枠のためインにもぐり込めなかったのと、締まったダートで見せるような行きっぷりではなかった。ブルミラコロ(父キンシャサノキセキ)は格上がりでこの相手だから、内枠からの先行はペース以上にプレッシャーがあった。

 岩手の菅原勲調教師のラブバレット(父ノボジャック)は、最後は10着(1秒0差)に沈んだものの、挑戦者らしい果敢な先行策で残り200mあたりまで並んで先頭だった。公営競馬の所属馬がJRA重賞で好走は近年めったにないが、この中身は立派。スピード負けではない。メイセイオペラの勝ったフェブラリーSを目ざしての根岸S挑戦なので、東京1400mはきびしかったが、小回りコースならJRA重賞でももっといいレースが可能だろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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