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たまたまでもフロックでもない見事な優勝/桜花賞

  • 2017年04月10日(月) 18時00分


◆自信をもって正攻法のレースを展開した池添謙一騎手

 断然の支持を受けたソウルスターリング(父フランケル)が、同馬とすれば凡走にも近い3着に沈み、逆転勝ちしたのは8番人気の伏兵レーヌミノル(父ダイワメジャー)だった。

 レーヌミノルはここまで6戦【2-2-1-1】。大敗したことは一度もないが、阪神JFでソウルスターリングに0秒5負け(3着)、クイーンCではアドマイヤミヤビに0秒5遅れをとり(4着)、直前のFレビューではカラクレナイに0秒1差の(2着)だった。

 軽視はできない伏兵の1頭であっても、距離1600mはこれまで【0-0-1-1】。桜花賞には良績のない小倉2歳S(1200m)の勝ち馬であり、次々と台頭するライバルにポイントになる重賞で負けていたから、成長力と、距離適性で一歩ゆずるように考えられた。勝ち切れない馬に思われた。

 稍重馬場で勝ちタイムが1分34秒5にとどまったこと。5番人気以内の有力馬が、順に「3着、12着、2着、16着、11着」と大きく崩れてくれたことなど、相手の凡走に恵まれた一面はあるにせよ、クラシックのサバイバル路線から決して脱落することなく、ここまで候補の1頭として戦いつづけてきたのは心身の成長を合わせた本当の総合力だろう。馬場を気にする馬も出たタフな芝コンディションの中から抜け出してきたG1制覇は、たまたまでも、フロックでもない。見事な桜花賞優勝だった。

 1週前に自己ベストのCW「80秒7-63秒6-36秒3-11秒6」の時計をたたきだすほどの体調に持ってきた陣営の仕上げも素晴らしかったが、この2週の追い切りでレーヌミノルの秘める高い競走能力を見抜き、自信をもって正攻法のレースを展開した池添謙一騎手(37)の騎乗で、レーヌミノルの能力全開が可能になったことは間違いない。

 とくにここ2〜3年、15年の桜花賞2着、オークス3着のクルミナル、16年の桜花賞2着、オークス1着のシンハライトで見せた池添騎手の牝馬に対する当たりの柔らかい騎乗は光っていた。とくにシンハライトのオークス制覇など、まるでゴール前では抜け出すのが分かっていたかのように池添騎手自身の動きはちょっとだけ。勝ち馬に騎乗したジョッキーの動きは、それは一番鮮やかに、カッコ良く見えるものだが、今回の桜花賞の直線の攻防でも、がんばろうとするレーヌミノルをもっともスマートにアシストしていたのが池添騎手だった。

 ジョッキーの追い方には流儀もあればスタイルの違いもあるから、騎乗のはまり方うんぬんはいえないが、池添騎手が若い3歳牝馬のクラシックで毎年のように上位に登場する理由のひとつは、未完成の牝馬に負担をかけないよう極力動きを小さくした騎乗スタイル(実際の動きではなく、外から見える印象)にあるように思える。

 代表産駒が、NHKマイルCのカレンブラックヒル、同じくメジャーエンブレム。高松宮記念のコパノリチャードという父ダイワメジャーに加え、母方に配されてきた種牡馬はタイキシャトル、ロイヤルスキー、テスコボーイ…。いかにも桜花賞向きの背景をもつレーヌミノルの次走は、一応は5月7日のNHKマイルCか。オークスというタイプではないだろう。

 断然の人気を集めたソウルスターリングの敗因は、現時点では故障は発表されていないから、「行きっぷりが悪く、馬場を気にして再三手前を変えていた(ルメール騎手)」という理由以外は推測するしかないが、まったく不安などなく順調そうにみえても若い3歳牝馬のこと、突然の心身の乱れはありえる。ここまであまりにも順調に来すぎた反動が出たのか。人気の牝馬が理由も判明しない凡走に終わることは、牝馬クラシックの歴史の中では珍しいことではない。

 ミスエルテ(5番人気で11着)と同様、注目のフランケル産駒には、天才タイプが種牡馬になったときの怪しい難しさも伝わるということか。思われているより凡馬が多い。ルメール騎手は日本のG1競走はこれまで99戦【10-14-10-65】。素晴らしい成績を誇るが、性格に勝負師らしくないところがあり、今回もスタート直後からやけに弱気だった。慎重に乗りすぎた結果、ソウルスターリングとの勝負のリズムが崩れたのではないか、など。

 完敗ではあってもゴール前で失速しての0秒1差ではない。立て直し、オークスでの真価発揮に期待したい。体型、血統背景から、日本の2400mに不安があるタイプではないだろう。

 リスグラシュー(父ハーツクライ)は、勝ったレーヌミノルと同じように非常にタフなタイプだった。阪神JF、チューリップ賞でつづけてソウルスターリングに屈したが、桜花賞直前の気配はこの馬が1、2を争う素晴らしい状態であり、秋の東京でアルテミスSを勝った当時にみられた線の細さが消えていた。ゴール寸前のストライドにはまだ脚があった印象もあり、4コーナー過ぎの反応がちょっと悪かっただけの負けともいえる。距離不安のあるタイプとは思えず、オークスでも勝ち負け必至はこの馬だろう。

 2番人気のアドマイヤミヤビ(父ハーツクライ)は、最初から行きっぷりが悪く、3コーナーでは集団についていくのに気合が入るほどだった。「馬場が合わなかった(デムーロ騎手)」というのはまったくその通りだが、1分34秒5(レース上がり36秒2)のレースで芝コンディションを気にしていたとなると、パンパンの良馬場以外はダメということになる。そこまで渋馬場下手という馬ではないような気がするが、次走の評価が非常に難しくなった。

 カラクレナイ(父ローエングリン)、アエロリット(父クロフネ)はキャリアを考えるとみんなの思った通り(人気通り)という結果なので、次走は大きく期待していいが、いきなり2400mとなると、実際には適性判断がもっとも難しいタイプか。

 休み明け2戦目(ここが3戦目)のミスパンテール(父ダイワメジャー)は、素晴らしい身体つきだが、ビッグレースでの狙いは順調に出走できるようになってからだった。ミスエルテ(父フランケル)は、数字の与える印象ではなく、今回は完全に腹が巻き上がっていたので仕方がない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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