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プロミストリープの敗戦と、グラヴィオーラの圧勝で

  • 2018年05月15日(火) 18時00分


◆真っ向勝負を挑んでの7馬身差は、まさしく“あっぱれ”

 前回のこのコラムで、地方競馬の新人騎手で初勝利を挙げていないのは残りひとり、と書いたが、その最後に残っていた大井の吉井章騎手もめでたく初勝利を挙げた。

 5月11日大井のメイン(!)、第11レースの1200m戦。単勝9.7倍、3番人気のアムールブランに騎乗した吉井騎手は、好スタートを切ると、好位3番手の外目を追走。逃げて直線でも単独先頭だった馬を差し切り、クビ差での勝利となった。

 勝つ時というのはたいがいカッコイイものだが、単勝1.4倍の断然人気馬をじわじわと追い詰め、そしてゴール寸前で差し切ったということでは、見せ場たっぷりの記念すべき初勝利だった。

 地方競馬では4月1日付の騎手免許といっても、主催者ごとに開催のタイミングもあり、デビューの時期が4月中旬以降になる騎手もいる。そうした状況で、6名とはいえ5月上旬に全員が初勝利を挙げたというのはすばらしい。今年の新人騎手は平均的にレベルが高い世代となるかもしれない。6月から始まる予定のヤングジョッキーズシリーズは、地方競馬の新人騎手全員が勝利を挙げて迎えられるということでも楽しみになった。

 さて今回の本題。先週、大井競馬場では3歳一冠目の羽田盃と、牝馬二冠目の東京プリンセス賞が行われた。

 羽田盃は、ヤマノファイトが1番人気にこたえての勝利。北海道から船橋に移籍後、負けなしの重賞3連勝とした。

 一方、東京プリンセス賞は、単勝1.2倍の断然人気に支持されたプロミストリープが2着に敗れる波乱。勝ったのはグラヴィオーラ。2番人気、1番人気の決着だから、人気順だけを見れば波乱とは言えないかもしれないが、中央から転入して無敗のまま浦和・桜花賞を制し、広く直線も長い大井コースに変わってということならなお死角なしと思われていただけに、これは波乱といっていいだろう。

 近年、南関東の3歳戦線では、中央から転厩初戦の馬がクラシックを制していることに賛否両論がある。2016年東京ダービーのバルダッサーレ、2017年羽田盃のキャプテンキング、そして今年の浦和・桜花賞を制したプロミストリープと3年連続だ。

 だいぶ以前にこのコラムでも触れたが、中央から転厩初戦の馬が南関東のクラシックに出走することについて、ぼく個人の意見としては反対ではない。1頭の馬がもっとも活躍できる場(レース)はどこかと考え、決められたルールの中での選択肢であることがひとつ。もうひとつは、地方競馬の中でもさまざまな面でもっともレベルの高い南関東が、強い(と思われる)馬が移籍してくることに対して門戸を狭めるべきではないと考えるからだ。

 上記の3頭は前述のとおり、関係者の期待どおりに転入初戦で南関東のクラシックを制したのだが、その後のレースではいずれも負けていることも共通点となった。それどころか、バルダッサーレ、キャプテンキングは、その後にひとつも勝ち星がなく、仮に南関東のクラシックを制したあとに中央に戻る計画があったとすれば、地方1勝のままでは中央に戻ることができず、誤算だったということになる。さて、プロミストリープはどうなるだろうか。

 今回の東京プリンセス賞の話に戻ると、プロミストリープは初めてのナイターが原因だったのかどうか、パドックではイレ込んで発汗もしていた。100%の能力を発揮できなかったことは確かで、それでも3着馬には7馬身もの差をつけた。おそらく普通にこのレースを勝っていてもおかしくないレベルにはあり、むしろそのプロミストリープを7馬身突き放し、前日の羽田盃よりコンマ6秒も速いタイムで勝ったグラヴィオーラの強さを褒めるべきだろう。

喜怒哀楽

羽田盃を上回る勝ちタイムで東京プリンセス賞を制したグラヴィオーラ


 北海道から船橋への移籍初戦となった東京2歳優駿牝馬で重賞初制覇を果たしていたグラヴィオーラだが、その後3歳になってからはユングフラウ賞2着、浦和・桜花賞3着と勝利には至らず。しかしここに来てのパワーアップと、陣営すらかなわないかもと思っていたプロミストリープを避けることなく、真っ向勝負を挑んでの7馬身差は、まさしく“あっぱれ”だ。

 グラヴィオーラがデビューした北海道で1200m以下のみを使われていたのは、父サウスヴィグラスという血統を考えてのことだったかもしれない。しかしながら昨年、東京ダービー、ジャパンダートダービーの二冠を制したヒガシウィルウィンもサウスヴィグラス産駒であり、残念ながら今年3月に死んでしまったが、サウスヴィグラスは種牡馬としての晩年に中距離以上でも対応できる産駒も出すようになっていた。

 勝ちきれないレースを続けながらも、ここ一番で驚くべき能力を見せたグラヴィオーラ、それに羽田盃3着で復活のきざしを見せたハセノパイロ、ともに管理するのは船橋の佐藤賢二厩舎だ。この2頭の可能性には今後も期待だ。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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