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1頭30万円に122頭

  • 2005年12月20日(火) 23時49分
 去る12月12日に締め切った広島県馬主会への「1頭30万円のサラブレッド購買」に、最終的に122頭もの申し込みがあったという。

 日高管内のみならず、胆振軽種馬農協と十勝軽種馬農協の各組合員にも文書で案内したところ、ほとんどは日高の生産馬で占められていたものの、業務を委託されて申し込み馬の取りまとめをした日高軽種馬農協の予想を遥かに超える頭数が集まったようだ。

 「詳しいことはあまりお話できませんが、中には1軒の牧場から2頭、3頭と複数の申し込み例もあります。種牡馬の偏りも、地区毎に確かにありました。まあ、それ以上は勘弁して下さい。種牡馬の具体例ですか?ノーコメントです」(日高軽種馬農協)

 前回も触れたように、性別では牡馬が数頭で、残りのほとんどが牝馬だったという。すでに14日と15日の両日、広島県馬主会から数人の関係者が来道し、各牧場を巡歴して「実馬検査」を済ませた。その直後に、各生産牧場には「合否判定」の文書が送られてきたと聞く。合格率122分の50、である。

 もともと1頭税込み30万円なのだから、たとえ「合格」して「お買い上げ」が決定しても、売れたという実感に乏しい話ではあるが、それにすら漏れた72頭は今後いったいどのような道が残されているか?

 日高軽種馬農協には、広島県馬主会の合否判定が出た直後から、たくさんの問い合わせが舞い込んでいるという。すなわち「どの馬が売れ残ったのか、教えて欲しい」というエージェントなどからの問い合わせらしい。

 「たった30万円でも、だめだったか…」と落ち込んでいる生産者のところへやってきて、「こんな馬、もう行くところはないから俺に譲れ。競走馬にしてやるから」などと、ほとんど無償譲渡に近い条件を提示してくるような輩である。皮肉なことに、現在は馬肉の相場がかなり高い水準らしいので、無償で競走馬に提供するか、わずかの代金を貰って肉に出すか、というのは追い詰められた生産者たちの「究極の選択」である。もう、こうなってしまっては末期症状という他ない。

 ところで、今回の広島県馬主会の「まとめ買い」には、今後さまざまな影響が考えられる。思いつくままに以下に記してみる。

 1.他の馬券売上げが福山と同程度の競馬場でも、広島県馬主会に追従する馬主会が出てくるのではないか。すなわち、「広島に便宜をはかったのだからぜひウチの馬主会にも頼む」と言われかねない。

 2.今回で味をしめた広島県馬主会が、来年、再度同様の依頼をしてくる可能性はないか。もちろん、30万円均一のサラブレッドたちによる2歳競走がどの程度馬券売上げに貢献するのか、はかなり疑問だが、仮にこれで結構「間に合うじゃないか」ということになれば、もう広島では30万円以上のサラブレッドを購入する馬主などほとんどいなくなるだろう。

 3.それが最終的には、とりわけ日高におけるサラブレッドの価格破壊を一気に推し進めることになる懸念がある。市場でまともに馬を買う馬主が、相対的にますます減少することになるだろう。

 いかにもネガティブな話題で気が引けるが、もうここまで追い詰められてきているのである。今回の1頭30万円という価格設定は、もちろん個人レベルならばいくらでも前例があり、特別驚くに値しない。だが、依頼主が「広島県馬主会」で、依頼された方が「日高軽種馬農協」という、ともに極めて公的な性格の強い団体による“事業”となったことで、どうも話は別次元に移行してしまったような気がしてならない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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