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【スプリンターズS】確実に伸びる素晴らしいスプリント能力の持ち主

  • 2021年10月04日(月) 18時00分

短距離路線を中心に古馬へ追いついてきた3歳世代


重賞レース回顧

3歳ピクシーナイトが期待を大きく上回って快勝(C)netkeiba.com、撮影:橋本健



 3番人気に支持された3歳牡馬ピクシーナイト(父モーリス)が、陣営の期待を大きく上回る快勝でGIホースとなった。

 広い意味での勢力図の変化(世代交代の波)は、スプリント路線から始まることが多いとされるが、今年3歳以上として行われた1200m以下の重賞は7つ。うち「アイビスSD(オールアットワンス)、北九州記念(ヨカヨカ)、キーンランドC(レイハリア)、スプリンターズS(ピクシーナイト)」。過半数の4重賞を3歳馬が制したことになった。

 現3歳世代のレベルが高いという意味ではない。スプリンターズSがこの時期に移った2000年以降、3歳馬は大苦戦を続けていたが、2歳戦のスタートが早まったこと、育成技術の進歩などにより、スピード系3歳馬の成長が早まっている。かつて12月だったスプリンターズSは3歳馬の勝ち馬の方が4歳以上の世代より多かった。古馬に追いつく時期だったからであり、近年はもう少し早く、若い3歳世代が短距離路線を中心に4歳以上の古馬に追いつく時が訪れたということか。

 6歳モズスーパーフレア(父Speightstownスパイツタウン)が好スタートからダッシュした前半のペースは33秒3(11秒7-10秒6-11秒0)。4歳春に中山1200mで連勝した際には「32秒8→、32秒3→」で猛然と飛ばした牝馬とすると、だいぶおとなしかった。

 好スタートのピクシーナイトは、CBC賞は一度下げるように前半32秒8で7番手追走。セントウルSもあえて33秒9になだめたが、今回の自身のバランスは「33秒7-33秒4」=1分07秒1。なだめて下げるまでもない楽なペースなので、理想の2、3番手追走となった。1200mに転じて3戦。自身の後半3ハロンは「33秒3、33秒3、33秒4」であり、確実に伸びる。

 鞍上の福永祐一騎手のペース判断も素晴らしいが、コースや自身の前半のペースを問わず、後半を連続して「33秒3-4」でまとめたスプリント能力はすごい。

 その福永騎手は「やがて大変な馬になる素質を感じていた。でも、まだ体を動かすときの前後のバランスなどもう一歩。本当によくなるのは来年以降」と振り返るのに、もうこの内容だから、未来展望はさらに広がる。音無調教師は早くも12月の「香港スプリント」挑戦をほのめかした。

 3代父グラスワンダー(GI4勝)→祖父スクリーンヒーロー(ジャパンC)→父モーリス(GI6勝)→ピクシーナイト(スプリンターズS)。父子4代連続のGI制覇は、グレード制導入後初の快記録となった。

 2番人気のレシステンシア(父ダイワメジャー)は、前走のセントウルSで強気な先行策(前半33秒2)を取り、なおかつ積極的なスパートで、突っ込んできたピクシーナイトとクビ差同タイムだった。そこで今回は、前走ほど強気なレース運びにしないのは作戦通りだったと思われる。

 だが、モズスーパーフレア以外は行かず、スプリンターズSとすれば少しも速くない前半33秒3になったのが誤算。好スタートから少し控えると、道中はピクシーナイトを前に見る形になってしまった。懸命の追撃で2着は確保したが、勝ち馬から2馬身の開きは、この距離では決定的な差だった。差す形を取れないこともないが、スパッと切れない弱みがあり、ゴール寸前は突っ込んできたシヴァージ(父First Samuraiファーストサムライ)に交わされそうだった。

 1200mでも勝っているが、どちらかといえば自身で事実上のペースの主導権を握りやすい1400-1600m向きかもしれない。

 惜しい3着に台頭したシヴァージは、好走馬が多かったこの日の馬場(内枠有利)を生かし切った好騎乗。このペースなのでいつものようには置かれなかった。

 気難しい3歳牝馬メイケイエール(父ミッキーアイル)は、スタートして100mも行かないうちに首を横に向けてかかってしまった。たまたま横にタイセイビジョン、エイティーンガールがいてくれたので、斜行の大きな迷惑をかけただけで池添騎手がなんとか修正したが、他馬が外にいなかったら逸走だったかもしれない。そのあと鞍上がなだめて4着に突っ込んだ侮り難い資質を秘めるが、能力全開にはまだ矯正の時間がかかるだろう。

 1番人気のダノンスマッシュ(父ロードカナロア)は、パドックの気配も良く、3コーナー過ぎまでは争覇圏にいたが、後半に各馬のピッチが上がったところで手応えが怪しくなってしまった。失速したわけでもなく0秒7差の6着。最近の好走はことごとく1分07秒台の後半から1分09秒台であり、4歳時に1分07秒台前半で乗り切った当時のスピード能力に陰りがあるのではないか、という厳しい見方も周囲から聞こえた。

 4番人気で11着のジャンダルム(父Kitten's Joyキトゥンズジョイ)は、前走、上がり32秒6で外から猛然と伸びた馬。シャープな馬体で今回は課題のスタートも悪くなかったが、前半に少し下げたあたりでリズムが悪くなってしまった。4月の中山では前半33秒5で行って1分07秒3の記録を持つ馬だが、馬込みに入って自分より外に馬がいる展開になると他馬を気にしてしまうのかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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