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【毎日王冠】“届かない”と観念した位置からの逆転劇

  • 2021年10月11日(月) 18時00分

一戦ごとにパンチを増している3歳シュネルマイスターの地力


重賞レース回顧

毎日王冠を制した3歳シュネルマイスター(C)netkeiba.com、撮影:橋本健


 直前の「京都大賞典」はゴールまで残り200m。ついに2017年の菊花賞以来約4年ぶりに7歳キセキが勝つのか、東京でも歓声が聞こえた。しかし、ゴールの瞬間、猛然と差し切ったのは8歳のマカヒキだった。2016年のニエル賞(仏)以来5年1カ月ぶり。ありえない奇跡のハナ差だった。マカヒキとキセキは、サラブレッドと共に生きるわたしたちに一番大事なことを伝えていたように思えた。

 3歳シュネルマイスター(父Kingmanキングマン)が制した毎日王冠の直線も衝撃的だった。C.ルメール騎手も、手塚貴久調教師もそろって「とても届かない」と観念した位置からの逆転だった。

 追撃態勢のエンジン全開になるのが遅く、坂を上がってゴールまで残り200m。その地点で先頭に立っていたダノンキングリー(父ディープインパクト)とまだ4馬身以上も差のある6番手の外。早めに動いたダノンキングリーの勢いが心持ちに鈍ったかもしれないが、1600mを1分32秒9で通過したダノンキングリーは残り1ハロンを11秒9でまとめ、1800mを1分44秒8(最近10年の勝ちタイム3位に相当)で乗り切っている。

 シュネルマイスターの後半3ハロンは「33秒0」。レースの後半3ハロンは「11秒3-11秒4-11秒9」=34秒6なので、まとめて差し切ったシュネルマイスターはどこかで爆発的な脚を使ったのではなく、後半の3ハロンをすべて「11秒0前後」で乗り切った内容であることが推定される。

 春のNHKマイルCをちょっと追撃に苦労しながら、最後の最後に届いた勝ち方とよく似た印象がある。前半の流れがもっときつかったマイルGIのレースの後半3ハロンは「11秒4-11秒4-11秒9」=34秒7だった。これを中団からスパートして最後に差し切ったシュネルマイスターの後半は、推定「11秒3-11秒3-11秒4」=34秒0。やっぱり今回と同じように速い脚が長続きしていた。

 安田記念のレースの上がりは「11秒2-11秒0-11秒7」=33秒9。惜しい3着のシュネルマイスターは脚の使いどころが難しかったが、自身の上がりは33秒4だった。

 1600mと1800mの違いもあれば、残り3ハロンに達するまでのレースの流れも異なるが、ここ3戦のシュネルマイスターの上がりは「34秒0→33秒4→33秒0」。明らかに一戦ごとにパンチを増している。チャンピオン牝馬グランアレグリアのように楽々と1ハロン10秒台の切れを爆発させるタイプとは異なるが、3歳シュネルマイスターの地力(総合力)強化は素晴らしい。

 同じサンデーレーシング所属のグランアレグリア(ルメール騎手)が天皇賞(秋)2000mを展望しているので、シュネルマイスター(ルメール騎手)は1600mのマイルチャンピオンシップが次走予定とされる。どちらも最有力候補。血統背景やキャリアの差も、年齢あるのでなんともいえないが、ここに至るまでのレースの中身は、シュネルマイスターの方が東京の2000m向きではないかという気もするが…。

 2着に惜敗したダノンキングリーは、早めに動ける自在脚質を示した好内容。逃げたトーラスジェミニ(父キングズベスト)の前半1000m通過58秒5はやや速いが、早めに中位に押し上げて、そこで折り合っていたダノンキングリーの1000m通過は推定59秒台の後半だった。少しも速くない。開幕週とあって置かれすぎないように途中で位置を上げる騎乗は、この週のルメール騎手が再三取っていた作戦であり、ルメール騎手のシュネルマイスターはスムーズに動けなかっただけ。ダノンキングリーの戦法は的を射ていた。

 好位から満を持して上がり33秒7でまとめ、確勝の形になって1分44秒8。今回は勝ち馬の底知れない能力に屈してしまったが、陣営に悲観はないはずである。マイルチャンピオンシップか、天皇賞(秋)か、どちらでも好勝負必至の能力を改めて示した。

 3着ポタジェ(父ディープインパクト)は、鞍上がイメージしていたよりきつい流れを追走する形になったが、最後まで崩れずに粘り通して、GI馬シュネルマイスター=ダノンキングリーと0秒2差の3着は素晴らしい。通算【5-4-2-0】もすごいが、1勝クラスから3連勝してオープン入りし、重賞路線で小差「3、2、3」着。コースも馬場状態も問わないのだから、とても重賞未勝利馬とは思えない。

 3番人気のヴァンドギャルド(父ディープインパクト)は、少しも体調は悪くないと映ったが、ドバイ遠征から夏を挟んでの休み明け。微妙に調整が難しかったかもしれない。ここまで無理なローテーションのない馬なので、たちまち巻き返してくるはずだ。

 4着ダイワキャグニー(父キングカメハメハ)の東京1800mの適性と、巧者ぶりは知れ渡っている。しかし、7歳の秋。相手はGI馬。さすがに苦しいだろうと軽視していたら、もう少しで馬券圏内だった。もう4年以上も前、ともに2戦目となった3歳春のセントポーリア賞(東京1800m)で人気のキセキに完勝したのがダイワキャグニーだった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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