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【菊花賞】強気の決断が見事だった横山武史騎手

  • 2021年10月25日(月) 18時00分

1998年セイウンスカイが優勝した菊花賞のレース映像を何度も見ていたという


重賞レース回顧

5馬身差で圧勝したタイトルホルダー(C)netkeiba.com


 2500mから3000m級の長距離戦を制するには、大きく分けると2通りの騎乗がある。一つは「流れに乗って折り合い、極力スタミナのロスを避け、他馬の動きを確認しながら、勝負どころからはライバルより一歩遅いくらいのタイミングで、猛スパートをかける」という手法。もう一つは、「ペース配分の難しい長距離戦なので、自身で流れの主導権を握り、自分でレースを作ってしまおう」とする作戦。

 タイトルホルダー(横山武史騎手)の取った作戦は後者だった。揉まれる展開になっては良さが半減してしまうタイトルホルダー(父ドゥラメンテ)には、この作戦がベストだった。思い切りの良さと、長丁場のペース判断が求められる作戦だが、3月の弥生賞で果敢な積極策を決め、のちのNHKマイルC、毎日王冠の勝ち馬シュネルマイスターを封じながら、セントライト記念で馬群にもまれ、追えずに終わった横山武史騎手の決断は見事。かつここ一番で強気だった。

 主導権を譲らないまま3000mを3等分して「60秒0-65秒4-59秒2」=3分04秒6は、前半でマイペースに持ち込み、中盤ではペースを落とし、後半スパート。よく見られる長距離戦の逃げ切りだが、横山武史騎手は、父横山典弘騎手の1998年セイウンスカイの菊花賞圧勝の映像を何度も見ていたという。

 日本ダービー馬スペシャルウィーク(武豊騎手)を3馬身半も完封したセイウンスカイ(横山典弘騎手)の菊花賞3000mは、衝撃的だった。その中身は「59秒6-64秒3-59秒3」=3分03秒2。当時の菊花賞レコードであり、前半、中盤、後半のバランスは今回のタイトルホルダーや、よくある長距離のそれとまったく同じバランスである。

 だが、主導権を握ったあと、追走のライバルも脚を使いたくない中盤に息を入れるなどだれでもできる。セイウンスカイ(横山典弘)の菊花賞3000mは、わかりやすい前後半にすると「1分31秒6-1分31秒6」=3分03秒2。魔法のバランスだった。

 今回の菊花賞のタイトルホルダー(横山武史)の3000mの前後半バランスは、中盤で急に14秒3となった部分を前後のハロンに合わせて分割すると推定「1分32秒4-1分32秒2」=3分04秒6に近い。前後半バランスはあのセイウンスカイと同じだった。

 セイウンスカイの菊花賞も、タイトルホルダーの菊花賞も、鮮やかな逃げ切りと形容されることになるが、タイトルホルダー(横山武史)は、別に「逃げた」わけではない。自身で主導権を握り、自分でレースを作って5馬身差で勝っている。

 サイレンススズカや、ミホノブルボン、近年ではダイワスカーレットなどのビッグレースで主導権を握っての快勝には、「逃げ切り」という表現はどこかそぐわなかったが、それと同じである。自身の能力全開を求めた戦い方だった。

 先手を主張する馬がいると、古馬のビッグレースは一段と盛り上がる。タイトルホルダーはスタミナに自信が持てた。自分でレースを作る馬に育って欲しい。

 しぶとく2着に押し上げたオーソクレース(父エピファネイア)は、今回がまだ5戦目だった。日本ダービー馬、皐月賞馬がいなかったとはいえ、このキャリアで菊花賞2着は素晴らしい快走だった。ルメール騎手も「勝ち馬が強すぎた」と勝者を称えた。

 ルメール騎手はもう日本のジョッキーであり、スピードレースなら変幻自在。スローとみれば早めに好位確保に出る。ただ、フランス競馬育ちゆえ、長距離のビッグレースで自分がペースメーカーになり、自らレースを作る流儀はない。外枠もあったがオーソクレースでも前半は当然のように下げた。オーソクレース自身の反応も鈍かったが、タイトルホルダーが有力なライバル(目標)ではないこともあり、勝ちに出る形が作れなかった。

 牝馬ディヴァインラヴ(父エピファネイア)は、人気上位馬の中では正攻法。勝ち馬を射程に入れる位置にいて、先行残りの流れを察知し後続より早めにスパートしている。ゴール寸前の競り合いで3着にとどまったが、牝馬が3着したのは1966年のハードイツト以来のこと。見事な快走だった。当然、牝馬にも長距離向きの資質を備えた馬はいる。菊花賞を避ける男馬が多い時代であり、これに続く牝馬も出現するだろう。菊花賞や、天皇賞(春)になると長距離戦不要論が出てくるが、それをいうのは念願の凱旋門賞やキングジョージIV&QESを勝ち切る馬が誕生してからではないかと思える。最後に鈍って凱旋門賞を負けるのは馬場の違いだが、明らかに耐えるスタミナがないからでもある。

 4着ステラヴェローチェ(父バゴ)は、前半はルメール騎手のオーソクレースをマークして進む位置だった。これでは勝機はないと3コーナーから勝ちに出たが、あの位置からレース上がり35秒1では、さすがに速い脚はゴールまで続かなかった。直前に1番人気に浮上したレッドジェネシス(父ディープインパクト)もそうだが、2分18秒0も要した不良馬場の神戸新聞杯2200mを好走したグループは体調維持、調整の仕方が難しく、少なからぬ疲れ(反動)があったのだろう。

 とくにレッドジェネシスは、直前の好気配が伝えられた(映像でも流れた)が、受けとり方が大きく分かれたように、好調という動きではなかった気がする。ステラヴェローチェ以上に目に見えない疲れが残っていたかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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