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【天皇賞・秋】明暗を分けたのは“大きな勝因”と“小さな敗因”

  • 2021年11月01日(月) 18時00分

やがてチャンピオンの座を不動にするくらいに輝くだろう


重賞レース回顧

春よりパワーアップしたエフフォーリア(C)netkeiba.com、撮影:橋本健


 勢いあふれる成長カーブに乗った3歳エフフォーリア(父エピファネイア)が、必死に3冠馬のプライドを守ろうとした4歳コントレイル(父ディープインパクト)を封じた。今回はやや絶好調時の迫力を欠いた5歳牝馬グランアレグリア(父ディープインパクト)をねじ伏せた。そんなゴールの瞬間の天皇賞(秋)だった。

 3強とされた3頭には、1頭には大きな勝因と、2頭には小さな敗因があるだろうが、3頭ともにそれぞれ力を出し合い、ほぼ現在の総合力を発揮した結果と思える。

 エフフォーリアは、無念のハナ差惜敗だった日本ダービーから5カ月の休養明けながら、再出発を期した鍛錬によりパワーと鋭さが加わっていた。迫力だけでなく生き生きとして、春よりずっと体調が良さそうだった。

 今年、ここまで平地GIは16戦が終了したが、日程が詰まっていた中2週はピクシーナイトのスプリンターズSだけ。ほかは短くても1-2カ月のレース間隔があり、今回のエフフォーリアと同じように3カ月以上の休養明けで快勝した馬が約半数の7頭も出現している。目標のビッグレースに出走のスケジュールはますます変化した。2着コントレイルも約7カ月ぶりだった。

 エフフォーリアの勝因は、陣営の総力を結集した体調の良さと成長力だけでなく、鞍上の気力あふれる騎乗がエフフォーリアの活力をすべて引き出した。前方にグランアレグリア、視界には入らないから(おそらく直後に)コントレイル。見ている側には理想の位置でも、流れは少しも速くない(前後半の1000m60秒5-57秒4=1分57秒9)。勝負どきを逸することなくスパートして出るには、もっとも難しい並びでもあった。

 日本ダービーとは異なり4コーナーから好位の外に回ると、前方のグランアレグリアを見ながらダービーよりひと呼吸待って仕掛けたように映った。レース上がり33秒6はダービーの33秒9より高速だったが、自信に満ちたスパートであり、ゴールまで100m、外からコントレイルが迫ったが最後には突き放す完勝だった。

 父エピファネイアは菊花賞で開花し、4歳秋にジャパンCを勝っている。その母シーザリオの父になるスペシャルウィークは、日本ダービーだけでなく、古馬になって春と秋の天皇賞を連覇している。エピファネイアの父シンボリクリスエスは3歳暮れの有馬記念を制し、4歳時にはともにレコードで天皇賞(秋)と有馬記念を勝っている。エフフォーリアの母の父ハーツクライは4歳暮れの有馬記念を勝ち、世界のビッグレースでも快走してみせた。

 3歳エフフォーリアには、やがてチャンピオンの座を不動にするような輝くときがきているだろう。次走は、父方祖父のシンボリクリスエスが3歳時にのちにジャパンCを制する5歳タップダンスシチーを差し切り、4歳時には9馬身差の独走を決めた「有馬記念」になる予定。

 1番人気の4歳コントレイルは、落ち着き払ったパドックで、本馬場入場後もライバルの返し馬を見ながら動き出す余裕があった。課題のスタートでのロスもなかったが、描いたより道中の位置取りがやや後方になってしまったのが考えられる誤算か。それでもずっとエフフォーリアをマークする形で進み、4コーナーは勝ち馬の直後。切れ味の勝負では決して不利ではない「目標が直前にいる」形になったが、とうとう並べなかった。

 レース直後は、ちょっと弱気な騎乗だったのではないかと感じたが、再三レース再生をみるうちに、たしかに自身の上がり3ハロンは最速の33秒0(勝ち馬は33秒2)の数字ではあったが、最後は切れ味負けというより迫力負け、総合力で譲ったのではないかと思い直した。エフフォーリアはまだここが6戦目の3歳馬(グレード制導入後、古馬のGI制覇最少キャリアタイ記録)であり、まだ完成の途上。引退前の4歳馬が必勝態勢で屈したのは痛い。セントライトは3歳で引退したが、シンザン以降の3冠馬はみんなのちにGI格のレースを勝っている。コントレイルには、再び必死のジャパンCになる。

 グランアレグリアのC.ルメール騎手は緩い流れ(前半60秒5のスロー)になることを読んでいた。本当は追走に手を焼くくらいのスピード決着でこそ爆発力が生きるタイプだが、それはマイル以下のこと。総合力が問われる2000mの天皇賞(秋)で控える手はない 。1分58秒1(上がり33秒8)でまとめているから、能力はほぼ出し切っている。

 心配された太め残りもなく、どこにも隙のない仕上がりだったが、勝ったエフフォーリアの示した、ほとばしるようなオーラはなかった。完成された古馬牝馬だから当然といえばあり得ることだが、結果、プラスαの能力発揮には至らなかった。距離の2000mが敗因は事実だが、それだけではない部分がありそうに感じられた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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