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【エリザベス女王杯】パワーアップした総合力がここ一番で結実

  • 2021年11月15日(月) 18時00分

今年はエリザベス女王杯含み【3-2-1-1】と無類の堅実派


重賞レース回顧

10番人気で快勝したアカイイト(C)netkeiba.com


 10番人気で快勝したアカイイト(父キズナ)を筆頭に、着順掲示板に載った5頭はみんな7番人気以下の伏兵ばかりだった。エリザベス女王杯では、3歳限定戦だった1989年に単勝4万3060円のサンドピアリスが勝ち、上位は「20、10、14、15…人気」だったという大変な記録があるが、今回の3連単339万超えはGI史上6位の大波乱だった。

 今年は人気馬に死角が大きいとされたが、かなりタフな芝コンディションのなか、前後半「59秒0-(12秒3)-60秒8」=2分12秒1。かなり厳しい前傾バランスになり、かつ、人気馬が早め早めに動いた。そのため、人気馬の死角がすべて露呈してしまった。

 レイパパレ(父ディープインパクト)は、絶好枠ゆえ正攻法の先行策を余儀なくされることになったうえ、きついペースなのに再三行きたがってしまった。楽に行けて差されたオールカマー2200mで距離不安を感じさせただけに、最後の1ハロンは鈍って13秒0だった。さすがに路線変更と思われる。

 アカイトリノムスメ(父ディープインパクト)の現3歳馬のレベルは高いが、最近10年で6位の勝ち時計だったオークス2400mと、前日の2勝クラスに1秒1も見劣った秋華賞はちょっと平凡と考えられた。まだ本格化途上なのだろう、直線に向くと余力がなかった。

 ウインマリリン(父スクリーンヒーロー)は中間、陣営も認める脚部が腫れる不安が生じ、回復に向かってはいたが、残念ながらレイパパレを封じたオールカマー時のデキには戻れなかった。手応えを失った直線では早々と追うのをあきらめている。

 ただし、2馬身差の快勝となったアカイイトは少しもたまたまの快走ではない。着実にパワーアップしてきた総合力が、ここ一番でフルに結実したGI快勝だった。

 今回を含めて20戦、出走レースでのメンバー中最速上がりは実に13回に達した。重賞挑戦は3回目で、今回がいきなりのGI制覇だが、4歳の今年は2勝クラスからスタートしてこのエリザベス女王杯制覇を含め【3-2-1-1】。着外は18頭立ての府中牝馬Sの0秒5差だけ。牝馬の差し馬にしては無類の堅実派だった。

 父キズナ(その父ディープインパクト)は、このアカイイト、凱旋門賞に挑戦したディープボンド、今回出走していたシャムロックヒルなどが初年度産駒。GI制覇は初めてになるが、2着に突込んだ3歳ステラリアもキズナ2年目の産駒だった。ディープインパクトの後継種牡馬として評価を確実に高めた逆転勝利であり、父と同じようにタフなコンディションをこなし、長距離戦も平気な産駒が珍しくない。成長力が真価でもある。

 アカイイトの場合は、母の父シンボリクリスエス(父Kris S.)の評価も一段と高めることになった。いま最大の人気種牡馬エピファネイアの父ではあるが、高い評価を受けた種牡馬時代には、シンボリクリスエスの評価は下降したことがあった。だが、母の父となって評価再上昇。この秋だけでも、アカイイト、AR共和国杯のオーソリティ、南部杯のアルクトス、富士Sのソングライン…などの母の父に登場し、直仔の時代よりむしろランキングは上昇カーブを描いている。

 アカイイトの岡浩二オーナーは、スプリンターズSを直前に引退した九州産の牝馬ヨカヨカのオーナーであり、ヨカヨカの最後のレースになった北九州記念に騎乗して勝ったのが、今回、空いていた幸騎手だった。GIの快走にはこういう筋書きも必要なのである。

 牝系図を見ていたら、もうずっと以前のことで現代との結びつきは希薄だが、ファミリーナンバーからすると前出の波乱の主役サンドピアリスと同じ一族に属する。

 前半は後方に位置し、幸騎手の果敢なスパートが決まったアカイイトも見事だったが、上位を後方待機組が占めたなか、前半から中団より前にいて直線は外から二段加速を見せたステラリア(父キズナ)の、スタミナ能力、底力も光った。アカイトリノムスメが抜け出した秋華賞は6着だったが、差は0秒5。直線で外に回る形になった秋華賞はまだ脚があった印象もあり、上がり3ハロンはアカイトリノムスメを上回っていた。可能性を秘め、魅力あふれる3歳馬は今回2頭だけだった。アカイトリノムスメに傾斜したファンは、ステラリアに手を延ばしたと思われる。アカイトリノムスメも本当に強くなるのはこれからだが、ステラリアのこれからにも大きな可能性が広がった。

 一瞬、2着はあるかと思えた3着に突っ込んだクラヴェル(父エピファネイア)は、ちょっと苦し紛れのイン狙いだったはずだが、おそらく現時点での能力はフルに出し切っている。この3着で騎乗した横山典弘騎手はエリザベス女王杯【1-5-2-12】。連対6回は現役騎手の最多であり、3着以内率は40%。難しいレースの多い牝馬限定のエリザベス女王杯だからこそのベテランの腕だろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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