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【朝日杯FS】計算されつくした見事な勝利

  • 2021年12月20日(月) 18時00分

みんなキャリアは浅く、本当の戦いはこれからだ


重賞レース回顧

ドウデュースが無敗馬揃いの朝日杯FSを制した(C)netkeiba.com



 マイルで3戦全勝のセリフォス。2戦2勝で1600mの方が合うと思えるダノンスコーピオン。同じく2戦2勝のジオグリフ、ドウデュースなど無敗馬が6頭も揃ったGI朝日杯FSを制したのは、このGIを21戦【0-5-2-14】。あと一歩で勝ち切れないでいたベテラン武豊騎手の騎乗した3番人気のドウデュース(父ハーツクライ)だった。

 最後はきびしい競り合いになるのを分かっていたかのように、前半は周囲にスペースのあった中団の外を追走。4コーナー手前からは人気のセリフォス(父ダイワメジャー)を射程に入れつつ芝状態のいい外へ。最後は抜け出したセリフォスを外からねじ伏せるように半馬身差し切った。計算されつくされたような勝利だった。

 前走のアイビーS(東京1800m)は、緩急のラップが刻まれた難しい流れで結果は小差の勝利だったが、小倉の新馬1800mは後半「12秒2-11秒8-11秒4-11秒1」の尻上がりにラップの速まる将来性の勝負。これを大事に外に回りながら差し切った決定力に自信があったのだろう。今回は予定通りのステップで、1週前に自己ベストの調教をこなして仕上がりも絶好。自信満々の差し切り勝ちだった。

 母ダストアンドダイヤモンズの父Vindicationヴィンディケイションは、2002年のBCジュヴェナイルなど4戦無敗馬。その父は無敗で米3冠馬となったSeattle Slewシアトルスルー。母の成績は6.5Fで全6勝のスプリンターだが、北米にみられるようにスタミナがないから短距離に出走していたわけでもない。近年、ハーツクライ産駒で母方にシアトルスルーの血を持つ馬にはスワーヴリチャード、北米で走ったヨシダなどがいる。

 今回はマイル戦で結果を出したが、1800mも2戦2勝。武豊騎手の勝利騎手インタビューも「真価発揮はこれから…」のニュアンスだった。来春の候補誕生となった。

 1番人気で2着に惜敗のセリフォスは、「前半46秒2-(1000m通過58秒3)-後半47秒3」の流れに乗って、半馬身差の1分33秒6。マイル戦全勝の記録は途切れたが、今回は正攻法で積極的に乗って、絶妙にマークされたドウデュースに半馬身だけ。内側の傷んだ芝は例年よりタイムを要したのは明らかであり、1分33秒6は標準以上だろう。マイルのエース格の評価は変わらない。

 3着ダノンスコーピオン(父ロードカナロア)は、前半から前後左右にスペースのない苦しい位置になってしまった。直線も前にセリフォスなどがいて、スムーズにスパートできなかった印象があった。ゴール前はまだ脚があったと思えるから、陣営も負けはしたが力負けとは考えていないはずである。まだ3戦目、これからである。

 4着アルナシーム(父モーリス)は惜しかった。父モーリスはムーア騎乗の2戦目に激しく行きたがってそのあと本物になるまで時間を要したが、アルナシーム陣営はたちまち行きたがる死角を矯正してみせたから見事。だが、出負けしたうえ、内枠だったのが不運。道中の折り合いはついたが、阪神JFのナミュールと同じように各馬が避けた馬群の内側を衝くことになってしまった。それでもゴールまで伸びている。身体も小柄に映らなかった。2勝目はすぐに挙げられる。

 2番人気のジオグリフ(父ドレフォン)は、初の1600mとあって二の脚がつかず前半置かれてしまった。あの形になってはムリに押して馬群に取りつこうとするのは、全面的にリズムが崩れてしまう。後半勝負に徹し、上がり最速タイの34秒5で差を詰めたが、0秒5差5着。初の1600mのペースに対応できなかったが、ルメール騎手は「後ろすぎたが、距離が延びれば大丈夫です」というトーンのコメントを残している。マイル路線に方向転換したわけではなく、2000m級で巻き返しを図ることになる。

 阪神JFと同じで人気馬が上位を占める結果になった中、トウシンマカオ(父ビッグアーサー)は直線、人気のセリフォスと並んで伸びかかった。残り1ハロンで力尽きたが、この相手の1600mで0秒5差なら、マイル以下の路線なら好勝負必至だろう。

 紛れの生じる流れではなかったから、トウシンマカオから3馬身以上離された伏兵陣は今後の成長待ちとなるが、まだみんなキャリアは浅い。本当の戦いはこれからである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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