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【金鯱賞】偉大な父に少しでも追いつきたい

  • 2022年03月14日(月) 18時00分

単なる逃げ戦法ではない、後半の加速こそが真価


重賞レース回顧

鮮やかなレース運びで5連勝を飾ったジャックドール(C)netkeiba.com、撮影:高橋正和


 4連勝中の注目馬ジャックドール(父モーリス)が、さらに鮮やかなレース運びで5連勝を飾った。中京2000m「1分57秒2」は、2012年から現在の新コースになってのコースレコードだった。

 馬場改修前のコースレコードも「1分57秒2」であり、2007年の金鯱賞で同じ藤岡佑介騎手が騎乗したローゼンクロイツ(父サンデーサイレンス)によるものだった。

 本物に近づいたジャックドールのここ3戦の中身は、

▽前々走…1分58秒4「前後半59秒9-58秒5」上がり34秒3
▽前回は…1分57秒4「前後半59秒4-58秒0」上がり34秒7
▽今回は…1分57秒2「前後半59秒3-57秒9」上がり34秒6

 すべて強引に飛ばしての押し切りではなく、全体時計は速いが毎回後半1000mの方が1秒以上も速く、スローバランスに近い。自身のリズムを保って前半リードしたあと、ライバルがスパート態勢に入ったあたりで、毎回11秒0前後の加速ラップを踏み、接近する相手に脚を使わせている。4走前の浜名湖特別では超スローだったので、上がり33秒2。残り2ハロン地点からの1ハロンは「10秒8」だった。

 本格化してオープンに上がった全2戦のジャックドール自身の前半1600mは「1分33秒台」であり、後半1400mは連続して「1分21秒5」。レースの前後半バランスが示すように決して逃げている(飛ばして)のではなく、後半の加速こそが真価。ジャックドールよりずっと高い総合力を秘める馬なら別だが、先頭のジャックドールに前半からプレッシャーをかけてスタミナを奪わないことには、ジャックドールを倒すことは難しい。

 コンビで【5-1-0-0】となった藤岡佑介騎手が振り返ったように「軽いしなやかなフットワークで力強く伸びる」のが、ジャックドールの最大の特徴。確かに先頭に立ってレースの主導権を握っているが、別に(何かから)逃げているわけではないのである。

 父モーリスは、4歳春から7連勝を記録し、4歳以降【9-2-0-0】。うち6勝がGI(香港G1 3勝を含む)だった。ジャックドールは父モーリスに少しでも追いつきたい。

 2着に押し上げた同じ先行タイプのレイパパレ(父ディープインパクト)は、今回はレース前からチャンピオン牝馬らしいムードがあった。落ち着き払った気配だった。

 相手を先に行かせて「追い抜く形」を取ろうとしたのは、追い切りからもうかがえたが、レイパパレが控え、行く可能性もあったショウナンバルディ(父キングズベスト)もスタート直後から行く構えがなく、こと今回に限れば、ジャックドールの引き立て役となった。

 レイパパレは、日本の良馬場の2000mを走るのは久しぶり。6連勝でGI大阪杯を完勝したあと5連敗となったが、小柄な牝馬が別定56キロで2000mを「1分57秒6」で乗り切ったのだから、完全復活に近い。上がりは勝ち馬と同じ34秒6だった。

 昨年の大阪杯の「2分01秒6」は、相手が重馬場を大きく苦にして伸びなかったもので、レイパパレに重馬場強者はおそらく正しくない。今回が本来の姿だろう。追い比べで鋭く伸びるタイプではないので、今後は相手しだいでは自身で行く形もある。

 3着アカイイト(父キズナ)は、今回はレース全体の予測されるペースを巧みに読んで、いつもとは違って最初から好位マークに出る作戦。1-2着馬との差は詰まらなかったが、このレース運びで結果が出せたのは大きい。ベストに近い2000m級のビッグレースなら、これからはメンバーによって異なる戦法が選択できる。

 4着に突っ込んできた5歳ポタジェ(父ディープインパクト)は、惜しい着順からすると「例によって詰めが甘かったか」という印象を与えたが、上がり34秒2は、今回のレースでは最速だった。たしかに4分の3同血の姉ルージュバックと比べると、ここまではシャープな切れに欠けていたが、ベストに近い2000m【4-4-1-2】ならそろそろ重賞に手が届いて不思議ない。今回の最後の脚は光っていた。

 3番人気のサンレイポケット(父ジャングルポケット)は、中間の動きも悪くなく、天皇賞(秋)4着、ジャパンC4着の力関係から好勝負必至と思えた。だが、しだいにペースが上がり、後半の1600mが1分33秒台の高速決着になるようなレースは、善戦した記録はあっても本質的に合わないのだろう。昨秋、激走を重ねたあとでもあり、同じようなピークの状態ではなかったのかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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