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【高松宮記念】大接戦を経て得たものが大きい一戦

  • 2022年03月28日(月) 18時00分

フルゲート18頭だけにもっとも難解だった1200m


重賞レース回顧

丸田恭介騎手騎乗のナランフレグが初重賞制覇(C)netkeiba.com


 芝コンディションは重馬場。ただ、1分09秒2だった昨年ほどは悪くない。勝ち時計はどの馬も可能な1分08秒台中盤の予測。芝は馬場の内側から回復している。フルゲート18頭だけに進路選択はむずかしく、もっとも難解な1200mとなった。直線に向いて内寄りに進路を取れた外枠の馬は少なかった。

 狭くなったインから最後に伸びたのは、道中は後方14-15番手に置かれていたナランフレグ(父ゴールドアリュール)。粘るレシステンシア(父ダイワメジャー)、一歩前に抜け出しかかったトゥラヴェスーラ(父ドリームジャーニー)のあいだをこじ開けるように切り抜けていた。1着馬から9着同着までの10頭が「0秒3」差の大接戦だった。

 騎乗した丸田恭介騎手(35)は、デビューして16年目のGI初勝利。ナランフレグはここまで重賞未勝利だったが、これでナランフレグとのコンビは【4-5-3-9】。管理する宗像義忠調教師は開業30年目、51頭目の出走でGI初制覇。種牡馬ゴールドアリュール(2017年に18歳で他界)はダートのビッグレースは30以上も制しているが、芝GI勝利はこれが初めてだった。

 また、2着ロータスランドの岩田望来騎手、3着キルロードの菊沢一樹騎手、4着トゥラヴェスーラの鮫島克駿騎手もまだGIは未勝利なので、ビッグレースにチャンスの少ない若手ジョッキーの闘志が上位を独占したGIでもあった。

 6歳牡馬ナランフレグの祖母はタマモクロス産駒。3代母ミヤマビューティーは1980年の有馬記念などを制したホウヨウボーイ(父ファーストファミリー)の半妹になる。種牡馬ファーストファミリーは、スピードシンボリの父ロイヤルチャレンヂャーとともに、やがて全盛期を迎えることになったTurn-to系(サンデーサイレンスなど)の先駆けとなった種牡馬になる。伝統のファミリーも途絶えていなかった。

 2着に突っ込んだロータスランド(父Point of Entryポイントオブエントリー)は、ずっと1600-1800mを中心に出走してきたが、前回、久しぶりに出走した芝1400mを1分19秒7で快勝し、1200m通過は1分07秒6だった。スピード能力の裏付けがあったとはいえ、今回は初の1200m挑戦。好位でもまれる厳しい形になったが、みんなが苦しくなったゴール寸前に伸びたのは実に立派。こなせる距離の幅が広がった。

 17番人気で、一旦はしのぎ切ったかと思わせる微差3着のキルロード(父ロードカナロア)はさらに素晴らしかった。5歳時からセン馬となって以降、これで【5-0-1-5】。去勢されて良くなる馬は珍しくないが、まだ重賞未勝利。今回がGI初挑戦。

 管理する田村康仁調教師が、キルロードの出世のきっかけの1勝(みちのくS)をコンビで挙げてくれた菊沢一樹騎手のひたむきな姿勢に、「こういう若手にGI騎乗のチャンスを与えてあげないといけない」と、オーナーと相談してGI初騎乗が実現したことは伝えられていたが、単勝225倍強の17番人気が示すように勝機は乏しいと思われた。だが、いつもよりずっと果敢なレースを展開し、直線で先頭に立つと残り50-60mまで先頭キープ、勝ったかと思わせた。初のGI騎乗で、クビ、ハナ差の3着。菊沢一樹騎手の得たものは大きい。

 同じ7歳馬のトゥラヴェスーラも惜しかった。内寄りの芝が伸びることを読んだ鮫島克駿騎手は、3コーナー手前からインに入れ、直線も内狙いに徹している。キルロードと並ぶように伸びかけたところで最後は力尽きて0秒1差の4着だが、昨年の4着(0秒2差)よりずっと中身は濃かった。

 2番人気のメイケイエール(父ミッキーアイル)は、外に馬を置けない外枠が心配されたが、道中はかかることもなく我慢できていた。ただ、馬群の広がった直線で外に振られるようなシーンがあったうえ、ふつうは伸びるはずの外から鋭く切れる馬のいない芝だった。バネの良さが最大の持ち味、渋った馬場も不利だったろう。だが、懸念の難しい気性は確実に薄れてきたと思える。次走が良馬場なら勝機十分。

 1番人気のレシステンシア(父ダイワメジャー)は、好スタート。ムリに飛ばして先手を主張したわけでもなく、前半33秒4で、残り1ハロン1000m通過はまだ先頭で55秒9。ところが最後の200mで力尽きて自身の最終1ハロンは12秒7。昨年、もっと時計を要した重馬場で最後まで力強く伸びた(最終1ハロン推定12秒0)のがんばりがなかった。

 自身でハナを切る形が合わない馬ではなく、これまで1400m以下【4-3-0-0】の快速型にしては案外の失速だった。昨秋の馬体から、今回の516キロも別に太め残りではない。鞍上の横山武史騎手もとくに敗因をつかめない様子の無念のコメントだった。

 外から伸びかかったところで止まったグレナディアガーズ(父Frankelフランケル)は、初の1200m追走のリズムと、初の重馬場がよほど合わなかったのだろう。これで着外3回はすべて完敗ばかり。フランケル産駒にはこういう一面があるのは確かだ。

 サリオス(父ハーツクライ)の1200m出走は、今後のレース選択や、レースの運び方を探る大きな展望によるものだが、ロータスランドのような1400m経験もなく、いきなりの1200mはさすがに厳しかったのだろう。まだ今回が12戦目。巻き返しに期待したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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