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ツイッターと競馬

  • 2022年10月13日(木) 12時00分
 サリオスが2年ぶりに勝ち鞍を挙げた毎日王冠で、スタート前、戸崎圭太騎手のダノンザキッドがゲートの前扉をこじ開けるようにして飛び出すアクシデントがあった。

 幸い、人馬ともに無事で、ダノンザキッドは再びゲートに入り、3着と好走した。

 その後、ダノンザキッドが飛び出してからスタートまで、4名の発走委員がどのように連携して事態を収拾し、スムーズなスタートにつなげたかを解説する動画がツイッターのタイムラインに流れてきた。

 びっくりするほど面白かった。発走委員が個々にどんな言葉を発しているかや、ダノンザキッドの隣の枠も前扉が少し開いてしまったのでジョッキーが閉めてくれと言っているところなどを、わかりやすくクローズアップしている。

 個人的には、最年少ダービージョッキー・前田長吉の兄の孫の前田益久さんも発走委員をしていることがわかり、嬉しかった。もう10年以上前になるが、阪神競馬場の近くで食事をしながら話を聞かせてもらい、拙著に登場してもらった。最後に会ったのは、獣医師でもある益久さんが、美浦トレセンの診療所にいたときだったと思う。

 一般メディアの報道を「フェイクニュース」と言っていたアメリカのトランプ前大統領がツイッターで重要事項を発信するようになったころから、日本でも、ニュースソースがツイッターとなることが普通に受け入れられるようになった。

 実際、2020、21年の南部杯を連覇したアルクトスの引退が今週のスポーツ紙で報じられたが、そのソースも、山口功一郎オーナーのツイッターだった。

 かく言う私も、別の連載で相馬野馬追に出陣していたブラックホールについて書いたとき、ツイッターのトレンドワードになっていたことを、注目度の高さを示す尺度して紹介している。

 最近、馬名が突然トレンドワードになっているのは、ウマ娘で実装されたとか、現実の競馬界とは直接結びつきのないところの出来事によることが多いので、そっち方面に疎い私は戸惑うことがある。

 同様に、先日、突如として「小林誠司」がツイッターのトレンドワードになっていたのでギクリとした。この時期にコバちゃんの名前が挙がるのは、トレードや放出の可能性があるからだ。原監督は、年俸1億円のコバちゃんを正捕手としては使わず、5500万円の大城を中心に起用し、ときには1600万円の岸田や、570万円の山瀬、460万円の喜多を、「なぜここでコバちゃんじゃないの?」というところで使っている。よそのチームに行かれて活躍されると困るので、飼い殺しにしているとしか思えない。

 それなのに、リーグ優勝がかかっていたり、自分の監督通算勝利記録がかかっていたりする「ここ一番」では使っているのだから、コバちゃん贔屓としては腹立たしい。

 前置きが長くなったが、なぜコバちゃんがトレンドワードになっていたかというと、抑えの新人・大勢が、キャッチボールでコバちゃんのモノマネをする動画がアップされ、それがメチャクチャ面白いからだった。先月も、2年目の若手・山崎伊織がコバちゃんのモノマネをする動画が我が軍(読売巨人軍)のインスタにアップされ、かなりの回数再生されていた。

 コバちゃんをマネるポイントは、ピッチャーが投球動作に入る前にサインを出し、受けたボールが悪ければストライクでも首を横に振り、いい球なら大きく頷き、自分の胸をドンと叩いて「おれを信じて投げてこい」と伝えることだ。投げ返すモーションまでソックリだから笑えるのだが、考えてみれば、ピッチャーにそうした仕草でボールの良し悪しを伝えるだけでコバちゃんだとわかる状況というのは、ちょっとマズいのではないか。本来、プロならば、すべてのキャッチャーがやらなければならないことだろう。

 前にも書いたと思うが、武豊騎手と江夏豊さんが対談したとき、「ピッチャーが馬で、キャッチャーが騎手だ」という話になった。ピッチャーというのはマウンド上で熱くなっているし、勝負を急ごうとする。それを宥めながらコントロールするのがキャッチャーの役割で、まさに騎手と同じだ、と。

 馬というのは前頭前野がないので、それがいいのか悪いのかを評価したり、目的意識を持って、逆算して考えたりすることができない。であるから、脳科学的には、騎手が馬の前頭前野になってやり、ともにゴールを目指していくのが「人馬一体」ということになる。

 ピッチャーも、ピンチのときなどは普通の精神状態ではなく、自信を失いかけていたり、まともな評価や判断ができない状態になっていたりする。つまり、前頭前野を上手く働かせることができない状態になっているわけだが、それを的確な評価能力と判断力を持つキャッチャーがリードしてこそ「バッテリー(一対のもの、一組のもの)」なのである。「バッテリー」には「砲台」という意味もあり、ピッチャーを砲台に見立てたことが語源と言われているようだが、それは置いておく。

 我が軍で、ピッチャーの前頭前野となって能力を引き出す技術が一番あるのは、間違いなくコバちゃんだ。若手にモノマネをされるほど好かれているところも、人柄を表しているようでいい(一部敬称略となったことをお断りしておく)。

 話はツイッターに戻り、去年の7月、4年ぶりにツイッターを再開してから1年以上経った。日常的に更新していた5年前までにはなかった「FF外から失礼します」といった表現があったり、「バズる」ものがあったり、それこそトレンドワードがあったりと、新しいものを覚えながらつづけている。が、ときおり、これにまともに返信しなくてはならないのかと思うような@ツイートがあって、考えさせられる。だいたいは、よく調べもせず、疑問を投げかけてきたり、ケチをつけてくるものだ。

 そういうものはスルーしたり、度を越して業務妨害になるものは、今月から投稿者の開示請求が簡略化されたので法的手続きを取るなりしながら、冒頭に記したような、クオリティの高いツイートを楽しみたいと思う。

 私とは面識もツイッターでのやり取りもないが、医師でもある作家が、ツイッターを中心に、自身やほかの医療従事者の名誉を毀損したり、侮辱したりした人間たちに対して法的手続きを取った。ひとりあたり百万円を超える賠償金を払った例もあるようで、近々、ニュースになると思う。

 表現の自由には責任が伴う。その意識を共有したうえで、やり取りをしましょう。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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