スマートフォン版へ

大山ヒルズを訪ねて

  • 2023年04月13日(木) 12時00分
 4月11日、火曜日、ノースヒルズの育成拠点である鳥取県伯耆町の大山ヒルズの「開場20周年感謝の集い」に出席してきた。

 大山ヒルズは、「伯耆富士」として知られる大山が、ちょうど綺麗な富士の形に見えるところに位置している。別の角度から見ると左右非対称な大山が、大山ヒルズに近づくにつれて「富士」らしい稜線を描いていくのを見ているだけで気持ちがいい。

 ここに来るたびに思うのは、人間がこれだけいい気分になるのだから、馬たちのメンタル面にも、大山ヒルズにいること自体がプラスになっているのではないか、ということだ。海抜は300mほどで、風の通り道にあるので夏場は涼しいし、眼下にひろがる美保湾の眺めも心が安らぐ。

 大山ヒルズは、開業した2003年、2つの厩舎、52馬房で運用を始めた。それが今は12厩舎、255馬房にまで拡大し、キズナ、ワンアンドオンリー、コントレイルといった3頭のダービー馬(コントレイルは史上3頭目の「無敗の三冠馬」でもあるが)がここで鍛練されて世に出るなど、日本屈指の育成・調教施設になっている。

 この「大山ヒルズ開場20周年感謝の集い」に出席したのは350人ほどだったという。西川賢氏、Dr.コパこと小林祥晃氏、岡浩二氏といった馬主をはじめ、調教師(敬称略、五十音順)では関西の飯田祐史、池江泰寿、清水久詞、高野友和、武幸四郎、角田晃一、福永祐一、矢作芳人、関東からは池上昌和、上原博之、蛯名正義、大竹正博、尾関知人、木村哲也、鹿戸雄一、田中剛、田中博康、中舘英二、和田正一郎、騎手(同)では関西の今村聖奈、岩田康誠、武豊、松山弘平、ミルコ・デムーロ、永島まなみ、藤岡佑介、古川奈穂、松山弘平、クリストフ・ルメール、関東からは石橋脩、戸崎圭太、三浦皇成、横山典弘らの姿があった。私が思い出せる人をザッと書き出しただけで、実際は、もっとたくさんの関係者が出席していた。これら誰もが知るビッグネームに加え、司会・進行が福原直英アナウンサーという豪華さだった。

 メディア関連では、新聞各社の記者のほか、評論家の合田直弘氏、作家の本城雅人氏、血統評論家の栗山求氏らが出席していた。久しぶりに、キャスター・ライターの芦谷有香さんに会えたのは嬉しかった。

 オープニングで壇上に立った前田幸治ノースヒルズ代表によると、例年、このくらいの季節は桜が満開で綺麗なのだが、今年は10日ほど前に満開が来てしまったという。それでも、若駒たちが大山を背景に周回コースでお披露目をするシーンは、実に絵になるものだった。

 会はスタート直後から和やかな雰囲気で進んだ。私も、弁護士馬主の白日光さんや、白さんが所有する3歳牝馬ルーフの生産者である坂本智広さんらと、楽しい馬談義をすることができた。

熱視点

生産者の坂本智広さん(左)と筆者。「大山ヒルズ開場20周年感謝の集い」昼食会にて



 これほどの規模の施設をさらに進化させながら、GI優勝という誰の目にも明らかな形で結果を出しつづけ、これだけの人々を引き寄せる前田代表には、いつも驚かされる。私が取材などで話を聞かせてもらうのは年に数回なのだが、停滞していることがまずない。1984年に開場し、来年40周年を迎えるノースヒルズは、清畠につづき、豊郷にもイヤリングの中期育成牧場を開場する予定だという。長男の幸貴さん、次男の幸大さんという立派な跡取りもいる。2人とも背の高い男前で、話していて気持ちのいい好青年だ。チームノースヒルズは安泰である。

 この日の羽田-米子間の飛行機には、前述した関東のホースマンがごそっと乗っていたわけだ。会の様子を投稿した私のツイッターに、ライブストック・アグリテクノ株式会社 (@atmowment)さんが、「羽田→米子行きの便はビジネスマンとも空気感の違うピシャっとした人たちが多くて、なんだろう〜と思ってましたが、これですね」と@ツイートしてくれた。

 私は「ピシャっとした人たち」のひとりではなかった。セコい話で申し訳ないのだが、往復の航空券より、1泊するツアーチケットのほうが安かったので、前日のうちに米子に入っていたのだ。

 そのおかげで、夜、とても美味しいオムライスを食べることができた。ぶらっと入った米子駅近くの「創作ダイニング ファン・ミール」でエビフライ&コロッケオムライス(サラダとドリンク付きで1100円)を注文し、口に入れた瞬間、ビックリした。デミグラスソースのコクのあるまろやかさと、ふんわりと絶妙な柔らかさの卵の甘みが口のなかでひろがり、私は幸せになった。美味くてビックリする店に出会ったのは、札幌の手稲にあるルーカレーの店「和(なごみ)」に初めて行った2019年以来かもしれない。

 翌朝、米子駅から米子空港に向かうJR境線に乗ったら、それが「ねずみ男列車」というやつだった。車内アナウンスも鬼太郎の声優によるもので、途中駅にも「砂かけばばあ駅<大篠津町駅>」といった「ゲゲゲの鬼太郎」にちなんだ看板があるなど、何も知らずに乗っただけに、楽しかった。

熱視点

JR境線の「ねずみ男列車」



 妖怪列車に25分ほど揺られてから、米子空港で東京から来た参加者と合流し、専用バスで大山ヒルズへ向かった、というわけである。

 さて、中国大陸から黄砂が飛来している。ウイルスや細かな金属まで運んでくるというから、迷惑な話である。花粉症持ちである自分の呼吸器や、車のエンジンに悪影響がありそうだからと私が外出を控えているくらいだから、地方競馬の主催者も、開催を控えたいと思っているのではないか。

 特に大量に飛来しそうな、東北、北海道にお住まいのみなさん、気をつけてお過ごしください。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング