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生産者賞の変遷その1

  • 2006年06月06日(火) 23時49分
 近年、ちょっと記憶にないほどの日高産馬の活躍が目立った春の3歳クラシック戦線。GIレースといえば、そのほとんどを社台グループにもぎ取られることが続き、日高の中小牧場にとっては、かなりの「高嶺の花」になっていた。それが今年はどうしたことか、日高産馬は目下のところ期待以上の好成績で、あるいはウェーブがこちら側に向かってきているのか、とさえ思う。

 そこで今回は、生産者がGIレースを制覇すると、いったいどの程度の生産者賞が交付されるのかについて触れる。まず、以下の数字をご覧いただきたい。

◆生産牧場賞

A、一般競走(新馬、未勝利クラス)
1着32万円、2着13万円、3着8万円

B、一般競走(1勝以上)
1着32万円、2着13万円、3着8万円

C、重賞以外の特別競走(OPを除く)
1着60万円、2着24万円、3着15万円、4着9万円、5着6万円

D、重賞以外のOP特別
1着60万円、2着24万円、3着15万円、4着9万円、5着6万円

E、GII、GIII競走
1着80万円、2着32万円、3着20万円、4着12万円、5着8万円

F、GI競走
1着100万円、2着40万円、3着25万円、4着15万円、5着10万円

 次に◆繁殖牝馬所有者賞を列記してみる。

A、一般競走(新馬、未勝利クラス)
1着27万円、2着11万円、3着7万円

B、一般競走(1勝以上)
1着43万円、2着17万円、3着11万円、

C、重賞以外の特別競走(OPを除く)
1着64万円、2着26万円、3着26万円、4着16万円、5着10万円

D、重賞以外のOP特別
1着105万円、2着42万円、3着26万円、4着16万円、5着11万円

E、GIII競走
1着190万円、2着76万円、3着48万円、4着29万円、5着19万円

F、GII競走
1着240万円、2着96万円、3着60万円、4着36万円、5着24万円

G、GI競走(JC、有馬、宝塚、ダービー、天皇賞を除く)
1着300万円、2着120万円、3着75万円、4着45万円、5着30万円

H、JC、有馬記念、宝塚記念、ダービー、天皇賞(春・秋)
1着500万円、2着200万円、3着130万円、4着75万円、5着50万円

 厳密に言えば、「障害重賞はその他の重賞の扱いになる」などの細かな規定があるのだが、概略はご理解いただけたものと思う。この交付金額を見て、どのように感じられるだろう。「案外、多いのではないか」「思ったよりも少ない」など、各人各様だろうが、「生産牧場賞」と「繁殖牝馬所有者賞」との間に、かなり大きな落差のあることがお分かりだろうか。一般競走及び、OP特別以外の特別競走あたりまでは、あまり差はないが、OP特別から上のクラスになると、金額に著しい格差が生じてくる。生産牧場賞が、たとえGIを制覇しても100万円止まりなのに対し、繁殖牝馬所有者賞は、Gレースが4段階に区分され、JCやダービーなどになると、500万円まで金額が膨らむのだ。

 さて、それでは「生産牧場賞」と「繁殖牝馬所有者賞」とは、いったいどういう違いがあるのか。

 生産牧場賞は、以前は一般生産者賞という名称がつけられていた。生産牧場としての施設を有し、生産活動に従事していることが交付条件となる。規模の大小は無関係だ。

 それに対し、繁殖牝馬所有者賞は、読んで字のごとく、交付対象となった競走馬の誕生時に、当該馬の母馬を所有していた生産者もしくは中央競馬会に登録のある馬主に限り、交付されるというもの。従って、地方競馬の馬主資格しか所持していない馬主は対象外である。だが、実際はこの繁殖牝馬所有者賞の交付を受けるために、地方競馬の馬主の多くは、便宜上、所有者名義を、繁殖牝馬の預け先である生産牧場の名前にしていると言われている。

 地方競馬の馬主の繁殖牝馬から生まれた産駒であっても中央競馬で走ることはままある。市場などで売却したりした場合には、中央にも問題なく入厩できるのだから。

 多くの場合、この生産牧場賞と繁殖牝馬所有者賞との格差についてはさほど神経質にならずに済む。なぜならば、大半の馬は、せいぜい特別レースに勝つ程度で競走生活を終えるからである。

ところが、予想以上に走ってしまうと、この格差が何とも気になってくる。生産牧場には、大別して2種類の繁殖牝馬が在厩している。「自分の馬」と「他人の馬」の2種類だ。

 繁殖牝馬所有者賞を交付されるためには、まず繁殖牝馬が「自己所有馬」でなければならない。大手馬主などから繁殖牝馬を預託(受託)している場合、当然、この所有者賞の行方は馬主へ、ということになる。

 以前は、生産牧場賞と繁殖牝馬所有者賞が同額に扱われていた。それがこれだけ著しい格差がついてしまったのは、2005年からである。なぜそうなったのかは諸説もろもろだが、背景にはJRAの馬券売り上げが低迷してきたことがある。

「GIを勝ってもたった100万かよ」という怨嗟の声が上がるのは、馬主から預かっている繁殖牝馬の産駒が大活躍してしまった場合だが、この生産牧場賞だけは、ここ数年で“激減”してしまったため、「古き良き時代」の記憶が脳裏を過ぎるのだ。

次回は、その「古き良き時代」のことについて触れたいと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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